YouTubeの「あなたへのおすすめ」にハマる

今更ながらですが、ログイン状態でYouTubeのトップページにアクセスすると、「あなたへのおすすめ」が出ることを知りました。これは罠ですね、沼ですね。

ついついおすすめ動画を見てしまう? いえ、違います。おすすめ動画のリストに見たいものがないんですよ。おすすめの精度が良くない。

こういうのは、閲覧履歴をもとに計算しているはずなので、YouTubeに僕の嗜好を伝えるために、自分好みの動画を5,6本立て続けに見ます。その後、「おすすめ」のリストを確認します。多少改善されているようです。もっと精度をあげるために、特定分野/特定トピックの動画をさらに見ます。効果があったか? 「おすすめ」リストを確認します。

というように、「おすすめ」リストの精度を上げるために、ついつい“おすすめ動画に出てない(が出て欲しい)動画”を自分で探して見てしまうのですよ。

はてなTeX記法が表示されないのはバグではなく、表示されるのがバグ

2019年4月10日に、「はてな」に2つの問い合わせをしました。問い合わせ内容を簡潔に言えば:

  1. TeX記法がうまく表示されなくて困ってます。
  2. アンパサンド・エスケープ(文字実体参照)が効かなくて困ってます。

一番目の問い合わせに対する回答が昨日(2019年5月23日)届きました。その間、“ナシのつぶて”というわけではなくて、何度か連絡とやり取りがありましたので、十分に誠意ある対応だったと思います。でも …

内容:

非サポート機能として決着

回答までに随分と時間がかかっています。おそらく、「はてな」としての公式見解をまとめるのに苦慮していたのでしょう。

僕が遭遇した現象に関しては次の記事に書いてあります。

これは、TeX数式を \(TeXコード\) と書いたときに起きる現象です。結論を言えば(「はてな」からの回答を引用):

はてなブログの開発にあたって、はてなダイアリーTeX記法に対応した際に偶発的に今回の記述方法がご利用いただけるようになっていたものであり、
意図して機能提供を行ったわけではございませんので、何卒ご理解いただけますようお願いいたします。

つまり、\(TeXコード\) と書いて表示されたのが偶然であり、
[tex:TeXコード] しかサポートしないよ、ってことです。非サポートなので、

二回目以降が \(TeXコード\) で動作する点につきましては、今後はご利用いただけなくなる可能性はございます。

とのことです。後で修正するハメになるのが嫌なら、\(TeXコード\) は使わないほうが無難です。

僕が \(TeXコード\) に気付いたのは、「はてなダイアリー」との非互換性による不具合がキッカケでした。「不具合の原因となる非サポート機能って、それ何だよ?」という気持ちから、次の質問をしました。

もし、\(…\) が非推奨だとするなら、はてなダイアリーとの互換性を壊してまで \(…\) を導入した理由は何だったのですか?

これに対する回答はありませんでした。余計な事を言うと墓穴を掘る危険性がありそうだから、触れないのが得策ではあります -- まっ、致し方ないですね。

発見とぬか喜び

経緯を少し補足しておきます。

はてなダイアリー」と「はてなブログ」は完全互換ではないので、「はてなダイアリー」からインポートした記事の表示が崩れてしまう現象は起きました。そのひとつに、TeX記法内で \(…\) を使っていると数式が表示されなくなる不具合があります。

はてなダイアリー」では、次のように書くと丸括弧が小さく表示されて、数式としてはバランスが悪くなります。

[tex: \int_{y=c}^d ( \int_{x=a}^b f(x, y)dx ) dy ]

括弧のサイズを大きくするためには、\()\を使って次のようにします。

[tex: \int_{y=c}^d \( \int_{x=a}^b f(x, y)dx \) dy ]

この書き方が「はてなブログ」ではエラーとなります。表示を壊す非互換な変更がなされたのです。

「なぜ \(…\) を禁止したのだ?」と考えてみると、「\(…\) が新機能に割り当てられた」と推測できます。で、実験してみたら、\(…\) で数式が書けたのです。

手書きする場合は、\(…\)[tex:…] よりはるかに書きやすく、「はてなさん、TeX記法を改善したんだ。いいな、これは。非互換でもお釣りが来る便利さだ」と大変に喜んでました。

でも、新TeX記法(と僕は信じていた)がうまく表示されないことがあり、バグと思い問い合わせをしたのですが …
“偶発的に今回の記述方法がご利用いただけるようになっていたものであり、意図して機能提供を行ったわけではございません” とな。
“今後はご利用いただけなくなる可能性はございます” とな。

これは言わせて: 結局、過去記事の修正をする労力を払っただけで得るものはなかったんかい。

たぶん若い人には通じない言葉: 「ネットニュース」

昔話をしていて、「… というポストをネットニュースで読んでね、それで ……」みたいなことを言ってしまったのだけど、これはたぶん、若い人には伝わらない。

今、「ネットニュース」といえば、Yahoo!ニュース、Googleニュース、スマートニュースなどを意味するでしょう。昔のネットニュースについては:

最初の一文だけ引用すると:

ネットニュースは、電子メールと並んで、コンピュータネットワークの初期につくられた情報交換システムの1つである。いずれもインターネットが一般に普及する以前から存在しており、当時はUUCPで配送されていた。

ここで出てくる「UUCP」もあまりにレトロで、知っている人はだんだん少なくなっているでしょうね。UUCPの設定や管理は大変だったけど、けっこう面白かったな。今でも参考書が残ってます。

左から4冊目、5冊目がUUCP本です*1。この写真に並んでいるような話題は昔は必要だったんだけど、今ではノスタルジックに語られるネタだね。

*1:手前の茶色いカタマリは、イルカの形をした置物(ペーパーウェイトかな?)

前層とフィルター

最近、前層/層〈presheaf/sheaf〉の話をしました。

前層というのは、Open(X)→C という関手です。位相空間Xの開集合の圏Open(X)は、要は順序集合です。順序集合からのC値関手ということなら、いくらでも例があります。層論〈sheaf theory | 層の理論〉とは関係なさそうな例も出せます。

なので、けっこうなコジツケで「…も前層の仲間だ」と言えます。そんなコジツケの事例をひとつ; フィルターも前層の仲間だ。

内容:

フィルター

フィルターについては、Wikipedia項目「フィルター」などを参照してください。特に、「冪集合の上のフィルター」を話題にします。

集合Xのベキ集合〈powerset | 冪集合〉Pow(X)は、包含順序'⊆'により順序集合になります。また、部分集合の共通部分を取る演算'∩'を持ちます。Pow(X)の部分集合、つまりXの部分集合の族{\mathscr F}フィルター〈filter〉だとは、次の条件を満たすことです。

  1. A∈{\mathscr F}, A⊆B ならば、B∈{\mathscr F}
  2. A, B ∈{\mathscr F} ならば、A∩B∈{\mathscr F}
  3. {\mathscr F}は空ではない。

上方閉〈upper closed〉で、共通部分〈ミート〉演算に関して閉じている非空な部分集合族がフィルターですね。

他に、{\mathscr F}の固有性({\mathscr F} ≠ Pow(X))も仮定することが多いですが、それは補足的な条件であって、重要な性質は上の3つです。

Xが位相空間のとき、X上の(Xのベキ集合上の)フィルターは、一般化した収束の議論に使えます。フィルターの収束により、ハウスドルフ性やコンパクト性をうまく特徴付けることができます。

論理の文脈でも、フィルター(やその双対概念であるイデアル)は面白い対象物です。論理的に定義された順序集合(または可換環)の極大フィルター(または極大イデアル)は、モデルの同値類の空間になったりします -- だいぶ昔の記事があります。

前層と余前層

位相空間X上のC値前層とは、Open(X)opC の形の関手です。Open(X)上で定義された反変の関手になります。共変の関手 Open(X)→C のほうは、(C値の)余前層〈copresheaf〉とか前余層〈precosheaf〉と呼びます。

余前層自体は特に難しいものではなく(だって共変関手だから)、その全体は関手圏 C-CoPSh[X] = [Open(X), C] を構成します。C-CoPSh[X] に関する簡単な性質や構成なら、C-PSh[X] = [Open(X)op, C] と同様に議論できます。

前層と余前層は双対だから何でも並行的に議論できるかのかと言うと、そういうわけにはいきません。圏論の形式的双対は、具体レベルではまったく別物になったりします。例えば、「前層の層化」に対応する「余前層の余層化」はだいぶ難しいです(以下の論文参照)。

モノイド状況での前層/余前層

前層にしろ余前層にしろ、Open(X)の順序構造を圏とみなして(反変または共変の)関手として定義します。Open(X)は単なる圏以上のものです。例えば、共通部分〈ミート〉演算'∩'を持ちます。(Open(X), ∩, X) は、'∩'をモノイド積、Xを単位対象とするモノイド圏とみなせるわけです。であるなら、単なる関手ではなくてモノイド関手を考えることができます。

C = (C, \otimes, I, α, λ, ρ) をモノイド圏〈monoidal category〉とします。α, λ, ρ はそれぞれ、結合律、左単位律、右単位律を表す律子〈一貫性自然同型制約〉です。

Open(X)をモノイド圏(厳密モノイド圏になる)とみなせば、モノイド圏Cへの反変モノイド関手としてモノイド前層〈monoidal presheaf〉を定義できます。しかし、モノイド関手には幾つかの種類がありました(以下の記事参照)。

次のような記法を使いましょう。

  1. Lax[Open(X)op, C] : Open(X)上のC値ラックス・モノイド反変関手とモノイド自然変換からなる関手圏
  2. OpLax[Open(X)op, C] : Open(X)上のC値反ラックス・モノイド反変関手とモノイド自然変換からなる関手圏
  3. Tight[Open(X)op, C] : Open(X)上のC値タイト・モノイド反変関手とモノイド自然変換からなる関手圏

つまり、モノイド前層は、ラックス/反ラックス/タイトの三種類があります。

  1. C-LaxMonPSh[X] := Lax[Open(X)op, C] -- X上のCラックス・モノイド前層〈lax monoidal presheaf〉
  2. C-OpLaxMonPSh[X] := OpLax[Open(X)op, C] -- X上のC反ラックス・モノイド前層〈oplax monoidal presheaf〉
  3. C-TightMonPSh[X] := Tight[Open(X)op, C] -- X上のCタイト・モノイド前層〈tight monoidal presheaf〉

モノイド余前層についても同じです。

  1. C-LaxMonCoPSh[X] := Lax[Open(X), C] -- X上のCラックス・モノイド余前層〈lax monoidal copresheaf〉
  2. C-OpLaxMonCoPSh[X] := OpLax[Open(X), C] -- X上のC反ラックス・モノイド余前層〈oplax monoidal copresheaf〉
  3. C-TightMonCoPSh[X] := Tight[Open(X), C] -- X上のCタイト・モノイド余前層〈tight monoidal copresheaf〉

ラックス・モノイド余前層としてのフィルター

Open(X) = (Open(X), ∩, X) をモノイド圏として、X上のラックス・モノイド余前層を考えます。単なる前層/余前層のターゲット圏Cは圏なら何でもいいですが、モノイド状況を考えるなら、Cはモノイド圏でなくてはなりません。

モノイド余前層のターゲット・モノイド圏として、集合{0 1}に厳密モノイド圏の構造を入れたBを考えます。

  • |B| = {0, 1}
  • 射は、順序関係: 0≦0, 0≦1, 1≦1
  • id0 = (0≦0), id1 = (1≦1)
  • 射の結合は、順序関係の推移律: (0≦1);(1≦1) = (0≦1) など
  • モノイド積は通常の掛け算 0・0 = 0, 0・1 = 0 など
  • モノイド単位対象は 1

F:Open(X)→B が(共変の)関手であることは、次のように書けます。

  1. F(A⊆B) = F(A)≦F(B) -- 射は射に移る
  2. F(A⊆A) = F(A)≦F(A) -- 恒等射は恒等射に移る
  3. F((A⊆B);(B⊆C)) = F(A⊆B);F(B⊆C) -- 結合が保存される

これは、Fが順序的に単調写像でることです。

Fがラックス・モノイド関手であることは、次のように書けます。

  1. F(A)・F(B) ≦ F(A∩B)
  2. 1 ≦ F(X)

F(A), F(B) の値は0か1しか取らないので、条件はもっと簡略に書けます。

  1. F(A) = 1 かつ A⊆B ならば、F(B) = 1
  2. F(A) = 1 かつ F(B) = 1 ならば、F(A∩B) = 1
  3. F(X) = 1

さて、ラックス・モノイド関手Fに対して、|Open(X)|の部分集合(開集合の族){\mathscr F}を次のように定義します。

  • {\mathscr F} := {U∈|Open(X)| | F(U) = 1}

つまり、次が成立します。

  • F(U) = 1 ⇔ U∈{\mathscr F}

{\mathscr F}を使って、先のラックス・モノイド関手である条件を書き直すと:

  1. A∈{\mathscr F} かつ A⊆B ならば、B∈{\mathscr F}
  2. A∈{\mathscr F} かつ B∈{\mathscr F} ならば、A∩B∈{\mathscr F}
  3. X∈{\mathscr F}

最後の X∈{\mathscr F} から{\mathscr F}は空ではなく、逆に{\mathscr F}が空でないなら、{\mathscr F}が上方閉であることから X∈{\mathscr F} です。

よって、{\mathscr F}は、順序集合(ないしは圏)Open(X)上のフィルターになります。特に、位相空間Xを離散位相空間とするなら、{\mathscr F}はベキ集合Pow(X)上のフィルターです。

それで?

こんなコジツケをしてみて、「それがどうした?」という感じは否めないですね。十分に一般的で広範囲な概念なら、色々な特殊例を含むのは当たり前ですから。

次のように考えると、多少の意味があるかも知れません; モノイド前層/層、モノイド余前層/余層は無意味な概念ではないでしょう。一般的なモノイド{余}?{前}?層(ここ、正規表現)での議論が難しすぎる場合、フィルターに関して調べてみると何かヒントが得られるかも知れません。フィルターは、モノイド{余}?{前}?層のオモチャ〈toy〉として、遊ぶ道具にはなるでしょう。

グロタンディーク構成と積分記号

グロタンディーク構成はやたらに出てきますね。グロタンディーク構成に関わる記法をここで決めておきたいと思います。

[追記 date="2019-05-16"]この記事内に出現する「ファイバー付き圏〈fibered category〉」の一部は「反ファイバー付き圏〈opfibered category〉」(「余ファイバー付き圏〈cofibered category〉」ともいう)にすべきです。余インデックス圏〈coindexed category〉から作られたファイブレーションは反ファイバー付き圏になります。が、「ファイバー付き」を「ファイバー付き、または反ファイバー付き」と解釈してもらえればいいので、修正はしません。[/追記]

内容:

インデックス付き圏のグロタンディーク構成

Bを圏として、Bから圏の圏CATへの反変関手 F:BopCATインデックス付き圏〈indexed category〉と呼びます。CATは、必ずしも小さくない圏も含みますが、サイズ問題が気になるなら小さな圏の圏Catで考えてください。実際の例では、大きな圏が出てきてしまうことがあります。

インデックス付き圏は関手なのですが、Bの対象をインデックスとする圏のインデックス族〈indexed family of categories〉のように考えるので、C, D のような(単一の圏と同じ)記号が使われることがあります。また、C(X) ではなく、C[X] と書くことにします。ブラケットは、プログラミング言語でインデックスを表す標準的記法です。インデックス付き圏は、圏論における配列データのようなものです。

インデックス付き圏 C[-]:BopCAT があると、グロタンディーク構成〈Grothendieck construction〉を行うことができます。それに関しては:

平坦化圏とファイバー付き圏

インデックス付き圏C[-]に対して、グロタンディーク構成を行うと何ができるのでしょう? これがどうも曖昧なので、ここでハッキリさせます。

グロタンディーク構成で次のような圏ができます。

  • 対象は、Bの対象XとC[X]の対象Aのペア (X, A)
  • 射は、f:X→Y in B と φ:A→C[f](B) in C[X] のペア (f, φ)

この圏を、グロタンディーク構成により作られた平坦化圏〈flattened category〉と呼びます。(X, A) \mapsto A, (f, φ) \mapsto f という写像を組み合わせると、平坦化圏からBへの射影関手になり、ファイバー付き圏〈fibered category〉を定義します。

つまり、グロタンディーク構成の成果物が2種類考えられます。

  1. インデックス付き圏から作られた平坦化圏
  2. インデックス付き圏から作られたファイバー付き圏

平坦化圏のほうを、積分記号を使って次のように表すことにします。

  •  \int_{x\in {\mathcal B}} {\mathcal C}[x]

ファイバー付き圏は次のように書けます。

  •  \int_{x\in {\mathcal B}} {\mathcal C}[x] \:\rightarrow {\mathcal B}

ここで、矢印はファイバー付き圏の射影関手を表します。射影関手にいちいち名前〈ラベル〉を付ける必要はないでしょう。

平坦化を表すために積分記号は使う前例はあるのですが、エンド/コエンド〈end/coend〉に積分記号を使うので、僕は使用を躊躇していました。しかし、他にいい記法もないので積分記号を使うことにします。

ちなみに、グロタンディーク構成も、エンド/コエンドと積分記号も、創始者は米田信夫です。以下の記事参照。

射のパートと方向

平坦化圏  \int_{x\in {\mathcal B}}{\mathcal C}[x] の射は、f:X→Y in B と φ:A→C[f](B) in C[X] のペアでした。fをベースパート〈base part〉、φをファイーバーパート〈fiber part〉と呼ぶことにします。ベースパートはベース射〈base morphism | 底射〉とも呼びます。代数幾何では、ファイーバーバートを余射〈comorphism〉と呼ぶようです*1

平坦化圏の射の作り方として、ファイーバーバートを ψ:C[f](B)→A in C[X] と定義することもできます。最初の定義とはファイーバーバートが逆向きです。しかし、整合的な定義になります。

最初に出した平坦化圏の定義を標準だとみなすと、二番目のやり方で作った平坦化圏は(ファイーバーバートが)逆方向になるので、逆方向平坦化圏〈backwordly flattened category〉と呼ぶことにします。必要があれば、最初の定義の平坦化圏を順方向平坦化圏〈forwardly flattened category〉といいます。

逆方向平坦化圏とそのファイーバー付き圏は、次の記号で表すことにします。

  •  \int_{\leftarrow\; x\in {\mathcal B}} {\mathcal C}[x]
  •  \int_{\leftarrow\; x\in {\mathcal B}} {\mathcal C}[x] \:\rightarrow {\mathcal B}

また、順方向平坦化圏であることを明示的に強調したいなら:

  •  \int_{\rightarrow\; x\in {\mathcal B}} {\mathcal C}[x]
  •  \int_{\rightarrow\; x\in {\mathcal B}} {\mathcal C}[x] \:\rightarrow {\mathcal B}

逆方向平坦化圏/ファイバー付き圏は、マリオスの抽象多様体の圏の定義のときに使っています。

上記の記事では、「逆方向」を「反」で表していますが、反対圏〈opposite category〉と紛らわしいので「逆方向」にしました。

余インデックス付き圏

インデックス付き圏は、関手として反変関手ですが、共変関手 C[-]:BCAT を考えることができます。共変関手の場合は余インデックス付き圏〈coindexed category〉と呼びます。

C[-] がB上の余インデックス付き圏のときも、同様にグロタンディーク構成ができます。余インデックス付き圏へのグロタンディーク構成で得られた平坦化圏を余平坦化圏〈coflattened category〉と呼ぶことにします。

余平坦化圏における射 (X, A)→(Y, B) は、次のように定義します。

  • F = (f, φ): (X, A)→(Y, B)
  • f:X→Y in B
  • φ:C[f](A)→B in C[Y]

余平坦化圏とそのファイーバー付き圏は次のように書きます。

  •  \int^{x\in {\mathcal B}} {\mathcal C}[x]
  •  \int^{x\in {\mathcal B}} {\mathcal C}[x] \:\rightarrow {\mathcal B}

積分記号に上付きを使うのは、エンド/コエンドの書き方と同じです。

逆方向余平坦化圏〈backwardly coflattened category〉とそのファイバー付き圏も同様に定義できて、次のように書きます。

  •  \int^{\leftarrow\; x\in {\mathcal B}} {\mathcal C}[x]
  •  \int^{\leftarrow\; x\in {\mathcal B}} {\mathcal C}[x] \:\rightarrow {\mathcal B}

順方向平余坦化圏〈forwardly coflattened category〉であることを強調したいなら:

  •  \int^{\rightarrow\; x\in {\mathcal B}} {\mathcal C}[x]
  •  \int^{\rightarrow\; x\in {\mathcal B}} {\mathcal C}[x] \:\rightarrow {\mathcal B}

事例: 加群に至るファイーバー付き圏の系列

グロタンディーク構成を何段階にも渡って行うと、ファイーバー付き圏の系列ができます。そのような系列の実例として、次の系列を紹介しましょう。


\int_{\rightarrow\: r} Mod[r] \:\rightarrow
\int_{\rightarrow\; k} CRng[k] \:\rightarrow
\int_{\rightarrow\; p} Field[p] \:\rightarrow Prime\cup\{0\}

右のほうから順に説明します。

体の圏

体〈field〉を対象として、体のあいだの準同型写像を射とする圏Fieldを考えます。体のあいだの準同型写像は埋め込み、つまり体の拡大になります。体にはその標数〈characteristic〉が決まります。標数は0か素数です。

体の全体は、標数で分類できます。Field[p] を標数pの体の圏だとすると、

  • Field = \coprod_{p \in Prime\cup\{0\}}Field[p]

と書けます。ここで、Primeは素数の集合です。

集合 Prime∪{0} を離散圏とみなすと、p \(\mapsto\) Field[p] は、離散圏でインデックスされたインデックス付き圏になります。インデックス付き圏 Field[-] のファイバー付き圏は次のように書けます。


\int_{\rightarrow\; p} Field[p] \:\rightarrow Prime\cup\{0\}

積分記号右下の p∈Prime∪{0} を p だけで略記しています。

可換環の圏

体K上のベクトル空間であって、結合的・単位的・可換な掛け算を持つ多元環〈algebra | 代数〉をK-可換環と呼びます。K-可換環は、環としての掛け算以外に体Kによるスカラー乗法(作用)を持ちます。

f:K→L を体の射(体の拡大)とします。L-可換環Bは、fを経由してKによるスカラー乗法を持つことになるので、K-可換環とみなせます。L-可換環B \(\mapsto\) (K-可換環とみなしたB) という対応により、インデックス付き圏 CRng[-]:FieldCAT ができます。

このインデックス付き圏に対するファイバー付き圏の系列は次のように書けます。


\int_{\rightarrow\; k} CRng[k] \:\rightarrow
\int_{\rightarrow\; p} Field[p] \:\rightarrow Prime\cup\{0\}

加群の圏

体K上の可換環Aがあると、その上の加群Mを考えることができます。可換環のあいだの射 (f, φ):(K, A)→(L, B) があると、(L, B) 上の加群Nは、射 (f, φ) を経由して (K, A) 上の加群とみなせます。これにより、次のようなインデックス付き圏が定義されます。

  •  Mod[-]: \int_{\rightarrow\; k\in {\bf Field}} CRng[k] \:\rightarrow {\bf CAT}

インデックス付き圏 Mod[-] に対するファイバー付き圏の系列は次のようになります。


\int_{\rightarrow\: r} Mod[r] \:\rightarrow
\int_{\rightarrow\; k} CRng[k] \:\rightarrow
\int_{\rightarrow\; p} Field[p] \:\rightarrow Prime\cup\{0\}

用語・記法の補足とまとめ

ファイバー付き圏もファイバーバンドルも、どちらもファイブレーションなので、類似の用語を使うことにします。

ファイバー付き圏 ファイバーバンドル
全圏 全空間
ベース圏, 底圏 ベース空間, 底空間
射影関手 射影写像
ファイバー ファイバー
(底圏の射の)持ち上げ (底空間のパスの)持ち上げ

間違いを少なくするために、次の記法も使います。

  • C[-] がインデックス付き圏のとき、C[f] を C*[f] とも書きます。誤解の恐れがないなら、C*[f] を f* と略記します。
  • C[-] が余インデックス付き圏のとき、C[f] を C*[f] とも書きます。誤解の恐れがないなら、C*[f] を f* と略記します。

グロタンディーク構成は、与えられたインデックス付き圏から、ファイバー付き圏を作り出す手段とみなしましょう。できたファイバー付き圏の全圏が平坦化圏となります。

余インデックス付き圏の場合も考えて、平坦化圏/余平坦化圏の射の方向まで考えると、4種類の平坦化演算子があります。それらは:

  1. \(\int_{\rightarrow} \) : 順方向平坦化演算子
  2. \(\int_{\leftarrow} \) : 逆方向平坦化演算子
  3. \(\int^{\rightarrow} \) : 順方向余平坦化演算子
  4. \(\int^{\leftarrow} \) : 逆方向余平坦化演算子

これらは別物ですが、どれも使います

これぐらいの約束をしておけば、混乱や曖昧さはだいぶ避けられるでしょう。

*1:ベースパートと向きが逆であるファイバーパートを余射と呼んでいる傾向があります。逆方向余平坦化圏の場合が、ファイバーパートが「余射」らしい状況です。

層に関してちょっと 2: 層化

層に関してちょっと」にもうちょっと付け足し。

層ではない前層はいくらでもあります。どんな前層(関手)でも層(貼り合わせ可能関手)にしてしまう操作が層化です。前層を層化するには、いったん位相空間を作りますが、この位相空間がどうも分かりにくいんですよ。通常より広い枠組みのなかで眺めると、少しは分かった気になるかも知れません。

「ちょっと」の割には長めの記事になりましたね(笑)。

内容:

状況設定と茎・芽

状況設定は「層に関してちょっと」と同じです。

  • Bは、忠実関手 U:BTop を持つ圏。例:B = ManManはなめらかな多様体の圏。
  • X∈|B| に対して、Open(X) は、Xの開集合達の順序集合を圏とみなしたもの。
  • X∈|B| に対して、C-PSh[X] := [Open(X)op, C] (関手圏)
  • X∈|B| に対して、C-Sh[X] は、貼り合わせ可能性条件を満たす前層(それを層と呼ぶ)からなる C-PSh[X] の充満部分圏。つまり、C-Sh[X] ⊆full C-PSh[X] 。

前層/層のターゲット圏Cを固定はしませんが、適切な極限・余極限(特にフィルター極限・余極限〈filtered limit/colimit〉)を持たないと色々な構成ができないので、必要に応じた極限・余極限の存在は仮定します。([追記]読み返したら、Cは集合ベースの圏にだいたい“固定”してます。[/追記]

極限・余極限を使った構成の例として、前層の茎を挙げておきます。AはX上の前層(Open(X) 上の反変関手)だとして、x∈X とします。このとき、

  • colimx∈U A(U) (U∈|Open(X)|)

という余極限を、点xにおける前層Aの〈stalk | トーク〉といい、Ax と書きます。ここで使っている余極限は、x∈U であるXの開集合からなる順序集合に関して取ります。よって、Cでそういう余極限が取れないと茎は定義できません。ターゲット圏Cが集合圏やアーベル群の圏なら大丈夫ですね。

Cが、「要素」という概念を持つなら(すべての圏が適切な要素概念を持つわけではない)、茎(と呼ばれる極限対象)の要素を〈germ | ジャーム〉と呼びます。Cが構造付き集合の圏なら、茎が集合で芽がその要素となります。

C = Set として議論するなら、前層Aの点xにおける茎Axは次のように定義できます。

  •  A_x := (\coprod_{U\in |Open_x(X)|} A(U))/\sim

ここで、Openx(X) は x∈U となる開集合からなる、Open(X)の充満部分圏、~ は同値関係で、

  • a∈A(U), b∈A(V) が a ~ b :⇔ W⊆U, W⊆V である W∈|Openx(X)| が存在して、a|W = b|W

a|W, b|W は、前層の制限〈restriction〉を短く書いたものです。同値関係 ~ の同値類が芽になります。a∈A(U) に対する Ax の要素(aの芽)を [a]x と書きます。a \(\mapsto\) [a]x は、商集合への射影(の一部) A(U)→Ax です。

[補足]商集合としてのAxへの射影をちゃんと記述してみます。記法の簡略化のために、次の約束をします。

  •  \sigma_x(A) := \coprod_{U\in |Open_x(X)|} A(U)

a∈σx(A) ならば、[a]x∈Ax を定義できます。この対応 a \(\mapsto\) [a]x を pxx(A)→Ax とします。このpxが、点xにおける射影です。x周辺で意味を持つaに対して、xでの芽(同値類)を対応させます。

x∈U ならば、A(U)⊆σx(A) なので、pxをA(U)に制限すると、すぐ上の A(U)→Ax になります。[/補足]

いま定義した茎〈ストーク〉と芽〈ジャーム〉は、前層を層化する際の基本的な道具になります。

得体が知れないジャーム空間

ここから先、前層/層のターゲット圏は集合圏か、または構造付き集合(台集合を持つ対象)の圏だとします。集合論的構成はすべて使えるとします。

Xがなめらかな多様体で、開集合 U⊆X に対するA(U)が、なめらかな実数値関数の集合だとします。このとき、芽や茎は自然な意味を持ちます。一点 x∈X の周りにおける関数の挙動を調べるとき、xの開近傍Uだけで見れば十分です。つまり、A(U)を考えればいいのです。が、Uより小さいVでA(V)を考えてもかまいません。結局、茎Axを考えればいいことになります。

茎Axを定義するには、開近傍Uを、一点集合{x}にドンドン近づけた極限を取っています(これ、ドンドン論法だが)。その極限は、いわば、点xの無限小近傍と言っていいでしょう。となると、Axは、無限小近傍で定義された関数の集合になります。x∈U, a∈A(U) に対する同値類 [a]x∈Ax は、関数の無限小部分を取り出していることになります。

関数(R値関数)fの、一点xでの微分係数導関数の値)は、fのx周辺での挙動にしか関係しません。xの無限小近傍の挙動で微分係数が決まると言えます。であるなら、xでの微分係数を取る作用素は、茎Axで定義されているとみなすのが自然でしょう。言い方を換えると、fのxでの微分係数は、fの芽 [f]x に対して決まるのです。

このように考えると、芽の集合である茎Axは、割と自然な概念に思えます。一点での芽だけではなくて、あらゆる点における芽を寄せ集めます。

  •  G(A) := \coprod_{x\in X} A_x

G(A)を、前層Aの芽空間〈germ space〉またはジャーム空間と呼ぶことにしましょう。ジャーム空間G(A)は、単なる関手である前層Aから、点ごとの無限小情報を絞り出して寄せ集めたものです。G(A)は、いわば、無限小情報の完全なデータベースです。

G(A)の要素は、適当な a∈A(U) と x∈U によって、[a]x の形に書けます。[a]x は同値類なので、別な b∈A(V) を使って [b]x とも書けるでしょう。Aに関するあらゆる無限小情報の集まりであるG(A)も、それほど分かりにくくはないと思います。

[補足]ジャーム空間G(A)は、\(\coprod_x A_x\) と書けました。茎〈ストーク〉の寄せ集めですね。各茎には、前の補足で述べた射影 pxx→Ax があります。これらの射影を寄せ集めると、次の写像を定義できます。

  •  p:\coprod_{x\in X}\sigma_x \rightarrow \coprod_{x\in X} A_x

 \coprod_{x\in X}\sigma_x は、\( (\coprod_{U\in |Open(X)|} A(U))\times X \) の部分集合としても実現できます。a∈A(U) ⇔ def(a) = U として、

  • \( \{(a, x) \in (\coprod_{U\in |Open(X)|} A(U))\times X | x \in def(a)\} \)

[/補足]

G(A)は、いまのところ単なる集合ですが、これに位相を入れます。Xの開集合Uと、A(U)の要素aでインデキシングされた集合族

  • For U∈|Open(X)|, a∈A(U), βU, a := {[a]y∈G(A) | y∈U}

を、基本的な開集合の族として生成される位相を考えます。

G(A)の部分集合の族が与えられれば、それから最小の位相は作れるので、定義に何の問題もないのですが、でき上がる位相空間がとても分かりにくいのです。少なくとも僕は、この空間を把握できなくて難儀しました(今もよく分からない)。

G(A)の点(芽)[a]xに対して、集合βU, aは[a]xの開近傍となるので、一点の開近傍の形はXの開集合と同じです。しかし、G(A)全体としては何だか得体の知れない奇妙な空間です。奇妙に感じる理由は、G(A)が(多くの場合)ハウスドルフにならないからでしょう。非ハウスドルフ空間は素朴な直感が効かないので、把握しにくいのです。

そんな次第で、G(A)の位相については「よく分かんない」「把握できない」状態なので、うまく説明できません*1。あしからず。

層化と反映部分圏

以下で、随伴を使うので、必要があれば、次の記事を参照してください。

与えられた前層(関手)から層(貼り合わせ可能な関手)を作る具体的な手順は後回しにして、前層を層化〈sheafification〉する関手を Ψ:PSh[X]→PSh[X] とします(今は天下り)。ここで、PShe[X] は Set-PSh = [Open(X)op, Set] の略記です。

前層Aの層化 Ψ(A) は、一種の“完備化”だと言えます。完備化と呼べるもの一般がそうであるように、2回繰り返しても効果は同じです。

  • Ψ(Ψ(A)) \stackrel{\sim}{=} Ψ(A) in PSh[X]

また、もとの前層Aからの層化Ψ(A)への標準的な射が存在します。

  • A→Ψ(A) in PSh[X]

層化関手Ψの像圏 Ψ(PSh[X]) ⊆ PSh[X] は、貼り合わせ可能前層の圏 Sh[X] ⊆ PSh[X] と同じ圏(PSh[X] の部分圏)になります。

以上のような状況を簡潔に表すと、次のように言えます。

  • 層の圏 Sh[X] は、前層の圏 PSh[X] の反映部分圏〈reflective subcategory〉である。

一般に、DCの反映部分圏であるとは、包含関手 J:DC が左随伴関手を持つ(Jが随伴系の右関手となる)ことです。Jの左パートナーをTとすると、T -| J となり、次のホムセット同型が成立します。

  • D(T(A), B) \stackrel{\sim}{=} C(A, J(B))

J(B) = B なので、次のように書いても同じです。

  • D(T(A), B) \stackrel{\sim}{=} C(A, B)

F = T*J :CC ('*'は関手の図式順結合)は、随伴系から作られるモナド(の台関手)になります。Fはベキ等な関手です。つまり:

  • F*F \stackrel{\sim}{=} F (\stackrel{\sim}{=} は自然同型)

この自然同型がモナドの乗法 μ::F*F⇒F:CCによって与えられます。モナドなので、単位自然変換もあります。

  • η::Id⇒F:CC

前層/層の圏の場合は、

  • C = PSh[X] = (X上の前層の圏)
  • D = Sh[X] = (X上の層の圏)
  • F = Ψ = 層化関手

という状況になっています。

ジャーム空間関手

次の解説論文で、グロスは層化をより一般的な観点から記述しています。

タイトルのバンドル〈bundle〉はファイバーバンドルのことではなくて、オーバー圏〈スライス圏〉 Top/X の対象ことです。他にも(誤解を招きそうな)変わった用語法を使っているので、以下、グロス論文とは違う言葉を使うことがあります。

グロスは、Top/X と PSh[X] のあいだの随伴系から PSh[X] 上のモナド (Ψ, μ, η) を誘導しています。この方法のほうが、層化の手順が理解しやすいと思います。

まず、Top/X について説明します。この圏の対象は φ:R→X in Top という連続写像です。φ:R→X, ψ:S→X が Top/X の対象のとき、射 f:(φ:R→X)→(ψ:S→X) in Top/X は、f:R→S in Top という連続写像で、f;ψ = φ を満たすものです。厳密には、f:(φ:R→X)→(ψ:S→X) in Top/X と、f:R→S in Top は別ですが、煩雑になるので同じ記号で表します。

(φ:R→X)∈|Top/X| は、Xの上に広がった空間と考えられます。そこで、Top/X の対象を相対空間〈relative space〉と呼び、Xは相対空間のベース空間〈base space〉、φは相対空間の構造射〈structure {morphism | map}〉と呼ぶことにします。相対空間という呼び名にあわせて、Top/X を RelSp[X] とも書きます。

相対空間を一文字ξで表したとき、ξ = (φξ:Rξ→X) 、あるいは ξ = (Rξ, φξ) のように書きます。記号の乱用により、R = (φR:R→X), R = (R, φR) のようにも書きます。

先に、X上の前層Aに対して、そのジャーム空間G(A)を定義しました。G(A)は(分かりにくい)位相空間です。構造射 φG(A):G(A)→X を定義して、G(A)をX上の相対空間にすることができます。G(A)の要素は、[a]x のように書けるので、φG(A)([a]x) = x とします。

ここで、グロスに従って、G(A)をΛ(A)と書くことにします('Λ'も使われ過ぎな記号だけど)。また、φG(A) = φΛ(A) を pA とも書きます。前層Aから作った相対空間は、pA:Λ(A)→X となります。さらに記号の乱用で、Λ(A) = (pA:Λ(A)→X) とも書きます -- Λ(A)がオーバーロード〈多義的使用〉されます。

前層のあいだの射(自然変換) α:A→B in PSh[X] があると、連続写像 Λ(α):Λ(A)→Λ(B) in RelSp[X] を構成できます。これらの構成は、全体として、関手 Λ:PSh[X]→RelSp[X] を定義します。Λは、前層に相対空間を対応させ、前層のあいだの射に相対空間のあいだの射を対応させます。

関手 Λ:PSh[X]→RelSp[X] を、ジャーム空間関手〈germ-space functor〉と呼びます。ジャーム相対空間関手というほうが正確ですが、ちょっと短めにしました。ジャーム空間〈ジャーム相対空間〉を層空間〈sheaf space〉とも呼びますが、ちょっとベタすぎるかな。エタール空間〈étalé space〉という言葉もありますが、前層のジャーム空間の意味で「エタール空間」を使うのは不適切かと思います(後述)。

セクション層関手

前節のジャーム空間関手Λとは逆方向の関手 Γ:RelSp[X]→PSh[X] を定義しましょう。

R = (φR:R→X) はX上の相対空間とします。Xの開集合Uで定義された写像 s:U→R が、∀x∈U.(φR(s(x)) = x) を満たすとき、sを(U上の)Rのセクション〈section | 断面〉と呼びます。U上で定義されたRのセクション全体の集合を Sec(U, R) と書きます。φRには何の条件も付けないので、Sec(U, R) が空になることもあります。

U∈|Open(X)| に対して、(Γ(R))(U) = Sec(U, R) と定義します。V⊆U に対して、(Γ(R))(U⊇V):Sec(U, R)→Sec(V, R) は写像の制限として定義します。すると、Γ(R)は Open(X)→Set という関手になるので、Γ(R)∈|PSh[X]| 。相対空間のあいだの射 f:R→S in RelSp[X] があると、Γ(f):Γ(R)→Γ(S) in PSh[X] も定義できて、Γ:RelSp[X]→PSh[X] は関手になります。この関手の値Γ(R)は、単なる前層ではなくて層になるので、Γをセクション層関手〈section-sheaf functor〉と呼びます。

相対空間Rのセクションというと、φR:R→X が全射連続写像であると想定することが多いでしょう。しかしここでは、φR全射であることは要求しません。例えば、φRが空間R全体をXの一点に潰してしまう写像とします。そして、Xにおいて一点は開集合にならないとします。このとき、Γ(R)は、すべての開集合に空集合を対応させる関手になります。これも層(貼り合わせ可能関手)です。

[補足]φR:R→X が全射であっても、セクションを持つとは限りません。

Xは、一点が開集合にならない空間とします(例:X = RRは普通の位相)。Rは、Xの台集合に離散位相を入れた離散空間とします。φR:R→X は集合レベルの恒等写像とします。φRは連続な全射となります。

集合のレベルでは、s:X⊇U→R で φR(s(x)) = x を満たす写像を作れますが(集合レベルの包含写像)、Rが離散空間なので連続にはなりません。したがって、連続セクションは存在しません。[/補足]

Sec(U, R) と Γ(R)(U) は区別しましたが、多くの場合、Sec(U, R) を Γ(U, R) と書きます。つまり、'Γ'をオーバーロード〈多義的使用〉して、Γ(U, R) = Γ(R)(U) と書きます。このオーバーロードはよく使われます。

ジャーム空間関手とセクション層関手の随伴性

グロスの論文の主たるトピックは、ジャーム空間関手とセクション層関手の随伴性です。この随伴性の詳細を述べるのは別な機会として、結論を言ってしまうと、Λ -| Γ となるので、次のホムセットの同型があります。

  • RelSp[X](Λ(A), R) \stackrel{\sim}{=} PSh[X](A, Γ(R))

随伴の単位と余単位は次の形をしています。

  • η::Id⇒Λ*Γ:PSh[X]→PSh[X]
  • ε::Γ*Λ⇒Id:RelSp[X]→RelSp>[X]

Ψ = Λ*Γ が PSh[X] 上のモナド (Ψ, μ, η) を形成します。そして、モナドの台関手Ψが、PSh[X] 上に働く層化関手になります。モナド (Ψ, μ, η) のベキ等性("idempotent monad"参照)から、反映部分圏の構造 Sh[X]⊆PSh[X] を誘導します。

RelSp>[X] 側に目を転じると、Ξ = Γ*Λ が RelSp[X] 上のコモナド (Ξ, δ, ε) を形成します('Ξ'はギリシャ文字大文字グザイ)。このコモナドはベキ等コモナドになるので、余反映部分圏〈coreflective subcategory〉の構造 EtSp[X]⊆RelSp[X] を誘導します。ここで出てきた部分圏 EtSp[X] は次節の話題とします。

エタール空間

前層Aのジャーム空間 G(A) = Λ(A) をエタール空間と呼ぶことがありますが、エタール空間は前層とは無関係に定義できます。次の点には注意が必要です。

  • 「エタール〈étalé〉であること」は、位相空間の性質ではありません。連続写像の性質です。
  • 代数幾何の「エタール」とは別物です。なんか類似性があるのかも知れませんが、代数幾何のエタールを知らないのでナントモ…

連続写像 f:X→Y がエタールだとは、局所同相なことです。詳しく言えば:

  • 任意の x∈X に対して、適当な開近傍U(x∈U)があって、Uとf(U)は同相になる。

相対空間 φR:R→X の構造射φRがエタールのとき、相対空間をエタール空間〈étalé space〉と呼びます。もちろん、エタール空間は相対空間なので、単一の位相空間ではありません。X上のエタール空間(とそのあいだの相対空間の射)の全体は、相対空間の圏 RelSp[X] の充満部分圏をなします。それを EtSp[X] と書きます。

層/前層の文脈でエタール空間〈エタール相対空間〉が出てくるのは、Ξ = Γ*Λ = (セクション層を作って、それからジャーム空間を作ること) という関手 RelSp[X]→RelSp[X] の像圏が EtSp[X] になっているからです。

前層の圏 PSh[X] 上に層化関手 Ψ = Λ*Γ が働いているのと並行的に(ただし双対的に)相対空間の圏 RelSp[X] 上に関手 Ξ = Γ*Λ が働いているのです。Ξはエタール化関手*2とでも呼ぶべきものです。

どんな相対空間Rに対しても、エタール空間Ξ(R)が構成できて、標準的な射 Ξ(R)→R が存在します。Ξ(Ξ(R)) \stackrel{\sim}{=} Ξ(R) でもあり、エタール空間の部分圏 EtSp[X] が RelSp[X] の余反映部分圏(反映部分圏の双対的概念)になります。

前層の圏 PSh[X] と相対空間の圏 RelSp[X] は、随伴で結ばれてはいますが、区別すべき2つの圏です。しかし、部分圏である Sh[X] と EtSp[X] は圏同値になります。つまり、Sh[X] と EtSp[X] は区別する必要がないほど似ています。

最近では、関手として前層/層を定義しますが、以前は「層とはエタール空間である」と定義することが多かったようです。どっちで定義してもかまわないのは、Sh[X] と EtSp[X] がジャーム空間関手とセクション層関手で相互に行き来できるからです。

既に述べたように、X上の前層Aから作られたジャーム空間G(A)は、奇妙な空間になることがあります。XがハウスドルフでAが単純な場合(例: 定数前層)は、G(A)もハウスドルフになります。が、Aが複雑になると(例: 連続関数の層)G(A)は非ハウスドルフ空間になります。Aの複雑さが、G(A)の非ハウスドルフ性としてエンコードされているようです。

前層の関手としての性質と、相対空間の位相的性質がどう対応しているのか? いまいちよく分かってないのですが、そのメカニズムを考える上でのフレームワークは、ジャーム空間関手とセクション層関手の随伴性 Λ -| Γ : RelSp[X]→PSh[X] だろうとは思います。

*1:ジャーム空間に実感を持てるようになったら、その位相についてまた書くかも知れません。

*2:"étalization"とか誰か使ってないかと思ったら、そんな言葉は使われてませんね。

層に関してちょっと

微分幾何の教科書はインターネット上に溢れている」で紹介したような長い教科書は、「読む」より「探す」のに使う感じ。「読む」目的なら紙のほうがいい面もありますが、「探す」ならデジタルテキストが圧倒的に楽ですね。

5冊の微分幾何の教科書をキーワード検索してみたら、500ページ超の3冊には層に関する記述がありました(500ページ未満の2冊にはない)。微分幾何の文脈で層まで説明するには、それなりの分量が必要ってことでしょうか。でも、マリオスの定式化などをみるに、微分幾何でも層は便利な道具だと思います。

道具としての層に関して、思い付くことを記してみます。ちょっとしたまとめと雑感メモのつもりなので、系統的・自己充足的な説明にはなってません。強調した言葉に定義が書いてないことが多いです。

内容:

前層/層と、その圏

前層〈presheaf〉は単なる関手、前層の圏は単なる関手圏なので、柔軟な圏論的構成が可能です。しかし、単なる前層(=関手)だと、空間の繋がり具合を反映しているとは限らないので、局所的な事物を整合的に繋ぎ合わせて大域的な事物を作れることは保証されません。

局所から大域への構成は貼り合わせ〈gluing〉と呼びます。他に、融合〈amalgamation〉、溶接〈welding〉、ハンダ付け〈soldering〉などの言葉が使われるようです。貼り合わせ可能な前層が〈sheaf〉です*1。貼り合わせには、各空間の被覆の集まり〈collection of coverings〉が本質的に関与します。

Cに値をとる空間X上の前層の圏〈category of presheaves〉を C-PSh[X] 、層の圏〈category of sheaves〉を C-Sh[X] と書くことにします。Sh[X] は PSh[X] の充満部分圏で、前層/層の射は自然変換です。Cは、前層/層のターゲット圏〈target category〉と呼ぶことにします。

前層/層のターゲット圏としてよく使われる圏は、集合圏Setと(適当な可換環上の)加群の圏Modです。このため、ターゲット圏を明示せずに PSh[X], Sh[X] と書いたときは、デフォルトとしてSetModが採用されることが多いです。ここでは、デフォルトのターゲット圏はSetとします。

  • PSh[X] := Set-PSh[X]
  • Sh[X] := Set-Sh[X]

Xは位相空間ですが、場合によって、空間Xの範囲を絞ることがあります。例えば、Xはなめらかな多様体に限る、とかです。Bを、位相空間の圏Topへの忠実な忘却関手*2 U:BTop を持つ圏だとします。例えば、B = Man(∞) = (なめらかな多様体の圏) 。XをBの対象として動かすと:

  • (C-PSh[X] | X∈|B|)
  • (C-Sh[X] | X∈|B|)

は、圏の添字族〈indexed family〉になります。Bの射 f:X→Y in B に対する C-PSh[f], C-Sh[f] をうまく定義すると、前層/層の圏はインデックス付き圏〈indexed category〉または余インデックス付き圏〈coindexed category〉になります。インデックス付き圏/余インデックス付き圏のどちらになるかは、前層/層の引き戻しを使うか、それとも前送りを使うかによります。

インデックス付き圏 BopCAT または余インデックス付き圏 BCAT *3が作れれば、グロタンディーク構成〈Grothendieck construction〉(「インデックス付き圏のグロタンディーク構成」参照)を行って、ファイバー付き圏〈fibered category〉(圏のファイブレーション、「14年ぶりにファイバー付き圏」参照)を作れます。次の書き方をすることにします。

  • C-Presheaf*B : インデックス付き圏から作られた、前層のファイバー付き圏。
  • C-Presheaf*B : 余インデックス付き圏から作られた、前層のファイバー付き圏。
  • C-Sheaf*B : インデックス付き圏から作られた、層のファイバー付き圏。C-Sheaf* は、C-Presheaf* の部分圏。
  • C-Sheaf*B : 余インデックス付き圏から作られた、層のファイバー付き圏。C-Sheaf* は、C-Presheaf* の部分圏。

扱う空間が属する圏Bを(インデックス付き圏/ファイバー付き圏に対する)ベース圏〈base category〉と呼びます。上記の層/前層の圏は、ターゲット圏C、ベース圏B、インデキシングの変性〈variance〉(反変ならインデックス付き、共変なら余インデックス付き)の選択によって決まります。これで、幾何的議論の舞台が設定される、と言っていいでしょう。

グロタンディーク演算

層に関して、グロタンディークの六演算〈Grothendieck's six operations〉というものがあります(例えば、nLabエントリー)。f:X→Y in B、R∈|CRng-Sh[X]|(CRng可換環の圏)、A∈|R-Mod-Sh[X]| だとして:

  1. fによる前送り〈pushout | push-forward | 順像 | direct image〉 f* : C-Sh[X]→C-Sh[Y]
  2. fによる引き戻し〈pullback | 逆像 | inverse image 〉 f-1 : C-Sh[Y]→C-Sh[X]
  3. Aによるテンソルtensor product〉 -\otimesA : R-Mod-Sh[X]→R-Mod-Sh[X]
  4. Aによる内部ホム〈internal hom〉 [A, -] : R-Mod-Sh[X]→R-Mod-Sh[X]
  5. fによる固有前送り〈proper pushout | proper push-forward | 固有順像 | proper direct image | extraordinary direct image | exceptional direct image〉 f! : C-Sh[X]→C-Sh[Y]
  6. fによる固有引き戻し〈proper pullback | 固有逆像 | proper inverse image | extraordinary inverse image | exceptional inverse image〉 f! : C-Sh[Y]→C-Sh[X]

f*とf-1が、記号のバランスが悪いですね -- この点は後で述べます。

2つずつ組になって3つの随伴ペアを構成します。

  1. f-1 -| f*
  2. -\otimesA -| [A, -]
  3. f! -| f!

f! \stackrel{\sim}{=} f-1 のときは、随伴トリプルになります。

  • f! -| f-1 -| f*

6つの演算のなかで、f!は構成が難しいので五演算として使うこともあります。f!も、微分幾何ではあまり使わないので四演算(4種類の関手)でもいいかも知れません。以下では、f*(前送り)、f-1(引き戻し) のニ演算(2種類の関手)について述べます。

前送りと、その記法

前送り f* と引き戻し f-1 の記号のバランスが悪いのですが、この書き方は比較的よく使われていると思います。f* は別な意味で使われること(後述)が多いので、f-1 が使われるようです(f* と f* を使う人も、もちろんいます)。ただ、f-1 も多用され過ぎ -- 逆関数も集合レベルの逆像も f-1 です。

いっそ、新しい書き方、f|- と f-| ではどうでしょうか。肩に乗せているのは '-|' で '-1'(マイナス・イチ)ではありません。ここでは、これを使うことにします。

  • 前送り f|-
  • 引き戻し f-|

肩にマイナス・イチを乗せた f-1 は集合レベルの逆像に使います。

さて、前層/層の前送りの意味ですが、空間のあいだの準同型写像 f:X→Y in B に対して、関手 f|-:C-PSh[X]→C-PSh[Y] は次のように定義できます。

  • For V∈|Open(Y)op|, (f|-(A))(V) := A(f-1(V))

ここで、Open(Y) は、位相空間Yの開集合達の順序集合を圏とみなしたものです。Aは、C-PSh[X] の対象、つまり、空間X上の前層です。

前送り f|-:C-PSh[X]→C-PSh[Y] 達は、全体として余インデックス付き圏 C-PSh[-]:BCAT を構成します。この余インデックス付き圏からグロタンディーク構成したファイバー付き圏が C-Presheaf*B だったので、グロタンディーク平坦化圏(正確には余平坦化圏) C-Presheaf* の射Fは次の形に書けます。

  • F:(X, A)→(Y, B) where X, Y∈|B|, A∈|C-PSh[X]|, B∈|C-PSh[Y]|
  • F = (F0, F#) where F0:X→Y in B, F#:B→(F0)|-(A) in C-PSh[Y]

F = (F0, F#) のF0はベース圏Bの射なので、ベース射〈base morphism | 底射〉と呼びましょう。F#のほうは、Fの余射〈comorphism〉パートと呼びます。ベース射と余射は方向が逆であることに注意してください。

C-Presheaf* の射の余射として、F* という書き方がよく使われます。そのせいで、引き戻し〈逆像〉関手のほうには f* を使わないことがあるのです。nLabのエントリー(例えば"ringed space")では、余射にf#を使っていて、f*は引き戻し関手としています。

いま、前層について述べた構成は、層についてもそのまま使えるので、ファイバー付き圏 C-Sheaf*B が作れます -- この層の圏〈category of sheaves〉が、層を使う場合の標準的なセットアップです。

引き戻しを使った表現

前節で述べた標準的なセットアップ C-Sheaf*B は、構成法が素直で容易です。これでたいていの話は間に合います。しかし、実際の微分幾何では、別な状況が現れたりします。

C-Sheaf*B の枠組みでは、f:X→Y in B があると、fに載った層射 (X, A)→(Y, B) の余射は空間Y上に居ます。層射の議論は、写像の余域側の空間上で行われます。これとは逆に、写像の域側の空間で議論する場合もあります -- この状況を実現するには、層の引き戻し関手を使います。

f:X→Y in B に対する引き戻し関手 f-|:C-PSh[Y]→C-PSh[X] の構成には、位相的な議論が必要で、ターゲット圏Cに十分な極限(余極限も含む)がないと引き戻しを作れません。前層レベルで引き戻しを作れても、それが層にならないこともあります(そのときは層化する、これにも極限が必要)。

そんなわけで、前送りに比べて引き戻しは厄介です。しかし、引き戻しがちゃんと作れれば、インデックス付き圏 BopCAT からのファイバー付き圏 C-Sheaf*B を構成できます。

C-Sheaf* の射は次の形をしています。

  • F:(X, A)→(Y, B) where X, Y∈|B|, A∈|C-Sh[X]|, B∈|C-Sh[Y]|
  • F = (F0, F) where F0:X→Y in B, F:(F0)-|(B)→A in C-Sh[X]

F = (F0, F) において、前送りの場合と同じく、F0ベース射でF余射です。ベース射と余射は方向が逆です。前送りのときと違うのは、余射Fのプロファイル (F0)-|(B)→A です。Y上に居たBを、引き戻しでX上に運んできています。

  • 前送りの場合: F#:B→f|-(A) in C-Sh[Y]
  • 引き戻しの場合:F:f-|(B)→A in C-Sh[X]

f|- と f-| は、随伴ペア f-| -| f|- を形成しているので、次の同型が(系統的に)成立します。

  • C-Sh[X](f-|(B), A) \stackrel{\sim}{=} C-Sh[Y](B, f|-(A))

これにより、f = F0 に対して F <--> F# という1:1の対応があります。つまり、前送りを使っても引き戻しを使っても実質的な差はないことになります。

前送りによる C-Sheaf* と、引き戻しによる C-Sheaf* が別々にあるのではなくて、単一の圏 C-Sheaf があって、それに二種類の表現手法があるのだ、とみなすほうがいいかも知れません。ホムセットのレベルで次の同型があります。

  • C-Sheaf((X, A), (Y, B))/f \stackrel{\sim}{=} C-Sh[X](f-|(B), A) \stackrel{\sim}{=} C-Sh[Y](B, f|-(A))

ここで、C-Sheaf((X, A), (Y, B))/f は、(X, A) から (Y, B) への C-Sheaf 内の層射で、ベース射fに載った層射の集合です。

注意すべきこと

ひとくちに層/層射とはいっても、空間Xを固定した C-Sh[X] と、空間を固定しない C-SheafB では雰囲気がだいぶ違います。

C-Sh[X] の対象は「X上のCの層」(例:集合の層、アーベル群の層)、C-Sheaf の対象は「C付き空間」(例:可換環付き空間、加群付き空間)と呼べばよさそうです。が、一律にこの命名規則が適用できるわけではありません。集合の層を載せた空間を「集合付き空間」とは聞いたことがないです。

C-Sh[X] の射と C-Sheaf の射も区別しないとかなりの混乱をまねくのですが、区別する適切な方法がありません。空間をXに固定してベース射を恒等射 idX に限った C-Sh[X] の層射は、イントラ層射〈intra-spacial sheaf morphism〉、内的層射〈domestic sheaf morphism〉、拘束層射〈fettered sheaf morphism〉などの形容詞を付ければいいと思いますが、実際の事例は知りません。いずれにしても、概念的には、C-Sh[X] に属する対象/射と C-Sheaf に属する対象/射をシッカリ区別しましょう。

C-Sheaf の射(いわば、無拘束層射)は、異なる空間を自由にまたがる射ですが、その表現として前送り形式と引き戻し形式があるのでした。

  • 前送り形式 : F = (F0, F#)
  • 引き戻し形式 : F = (F0, F)

ふたつの表現形式は随伴で繋がっているので自由に交換できます。しかし、交換することと混同することは違います。これも、概念的には(一度は)シッカリ区別しましょう。


テンソル積と内部ホム、前層の層化などの話題には触れてませんが、それはいずれまた。

*1:前層とは関手のことなので、層とは“貼り合わせ可能関手”〈gluable functor〉です。

*2:単なる忠実関手のことで、随伴パートナーを持つことを要求したりはしていません。

*3:CATは、必ずしも小さくない圏の圏です。サイズが気になるなら、小さい圏の圏Catにしてください。

アレックスが何度目かの開花

どういうタイミングで花を咲かせるのは全く分からないのだけど、久々に開花。

アレックスの歴史:

微分幾何の教科書はインターネット上に溢れている

コケット/クラットウェル達のCADGマリオス達の抽象微分幾何のように、ちょっと変わった“微分幾何”に関しては、インターネットを探してもあまり資料が出てきません。それらの情報を探す過程で、通常の(オーソドックスな)微分幾何の論文や教科書が大量に引っかかります。驚くほど多いですね。

微分幾何の資料が特に豊富なのか、他の分野でもそういうものなのか? ちょっと分かりませんが、英語のPDFでいいなら、微分幾何の無料教科書は有り余るほど見つかります。

内容:

はじめに

僕は、長い教科書が苦手なので、短いテキストを探します。「微分幾何からゲージ理論へ」で紹介したマーシュの二部作や、ポンサンのテキストは100ページ未満ですが、まー、これくらいが限界かな。

長くて本格的な教科書は、読み通すのは(僕には)無理でも、必要な所を適宜参照するには便利です。以下に、ページ数が少ない順に5冊の教科書を並べます。どれも、著者本人か著者の所属組織のページからダウンロード可能です。

なお、類似の過去記事があります。

微分幾何に限らず色々な分野のダウンロード可能無料テキストは次の記事にまとめてあります。

INTRODUCTION TO DIFFERENTIAL GEOMETRY (313p)

紙に印刷するより、PDFとして読むことを想定して作られているようで、内部リンクが張り巡らされていて、リンクをたどりながら読むのが楽です。

DIFFERENTIAL GEOMETRY (354p)

書誌情報に"ISBN 978 963 279 221 7"という表記があります。ハンガリーで出版されたようですが、現在、出版物の入手は難しそうです。

URLのドメイン elte.hu は、ハンガリーエトヴェシュ・ロラーンド大学ブダペスト大学)で、著者の所属組織です。

Topics in Differential Geometry (504p)

紙の出版物もあります。

Topics in Differential Geometry (Graduate Studies in Mathematics)

Topics in Differential Geometry (Graduate Studies in Mathematics)

  • 作者: Peter W. Michor,David Cox,Steven G. Krantz,Rafe Mazzeo,Martin Scharlemann
  • 出版社/メーカー: Amer Mathematical Society
  • 発売日: 2008/08/28
  • メディア: ハードカバー
  • この商品を含むブログを見る

著者のミシュワーは、商業出版物も自分のホームページで公開しています。この本以外に、過去のエントリーで紹介した"The Convenient Setting of Global Analysis"もダウンロード可能です。

Lectures on the Geometry of Manifolds (585p)

2年前のエントリー で紹介したことがあります。

Lectures On The Geometry Of Manifolds

Lectures On The Geometry Of Manifolds

そのときと比べてページ数が増えています。メンテナンスされているんですね。

Notes on Differential Geometry and Lie Groups (1329p)

最後は、ガリヤー/クインテンスによる千ページを超える大作です。

  • Title: Notes on Differential Geometry and Lie Groups
  • Authors: Jean Gallier and Jocelyn Quaintance

インターネット上でメンテナンスされており、ページ数も増え続けています。

日付 ページ数 URL
June 20, 2011 660p http://www.cis.upenn.edu/~cis610/diffgeom-n.pdf
April 14, 2016 1058p https://pdfs.semanticscholar.org/e119/cceef9d916ce985d39044a60517fc6e4abee.pdf
February 23, 2017 1114p 不明
2019年5月 最新 1329p http://www.cis.upenn.edu/~jean/gbooks/manif.html

"February 23, 2017"版は、僕がローカルに持っているものですが、ダウンロード元は忘れました。

http://www.cis.upenn.edu/~jean/gbooks/manif.html が現在の紹介&ダウンロード・ページです。最新版は二部に分かれていて:

 

第一部タイトルに"for Computing"が追加され、「計算科学の人に読んでほしい」というような事が書いてあります。そういう意図で懇切丁寧に書かれているんでしょうが、いや、膨大だわ。

微分幾何からゲージ理論へ

大連休も今日で最後、休日にはもう飽きたという人もいるんじゃないかな。

少し前に書いた記事「多様体上のベクトルバンドルの接続と平行移動」で、アダム・マーシュのリーマン幾何のテキストを紹介しました。

マーシュは、この続編とも言える次の解説論文も書いています。

これら2つの論説を併せると、ゲージ理論への入門書とみなせます。とりあえず、ザッと眺めた感想と関連する事を書いときます。

内容:

マーシュの二部作

リーマン幾何:

ゲージ理論とファイバーバンドル:

合計で112ページなので、コンパクトな教科書として使えます。この分量なので、詳細な解説にはなっていません。その代わり、丁寧に描かれた絵が何枚も入っています。直感的に分かりやすい「絵解き」スタイルが、このテキストの特徴です。

マーシュ論説には、具体例があまりないですね。ゲージ理論は、もともとが物理的理論なので、例も物理からのものになるでしょう。物理的な予備知識が要求されると、物理に無知な僕には理解不能です。電磁気あたりならギリなんとかなるかなぁ?

電磁場の物理的な意味は詮索しないで、天下りで我慢することにして、ゲージ理論として電磁気を扱っている短めの解説がないかなー。

ポンサンのテキスト

探してみたら、次のノベール・ポンサン*1のテキストを見つけました。

62ページあるので(十数ページの僕の想定に比べて)短くないのですが、内容的にはマーシュのテキストとかぶっています -- 差分なら十数ページ分かな。ハミルトン力学と電磁気(マクスウェルの場)に触れているので、そこをマーシュ・テキストへの補足のように使えます。物理的背景は述べてませんが、それはしょうがないでしょう。

ポンサンのテキストは、マーシュのテキストより後に見つけたという理由で補足扱いしてるのですが、ポンサン・テキストはかなり自己完結的で、よくまとまっています。ポンサン・テキストをメインにして、絵をマーシュから補う、というのもありでしょう。

「場」という言葉

物理や微分幾何では「場〈field〉」という言葉が出てくるんんですが、これは何なんでしょう? 物理はよく知らないので、物理的な解釈には触れないで、現象をモデル化した(抽象化した)幾何的構造側で考えます。

抽象微分幾何のマリオスは「場とは、接続を持つファイバーバンドルだ」と言っています*2。電磁場(のモデル)や重力場(のモデル)における「場」はこの意味でしょう。

「ゲージ場」という言い方も、ゲージ理論で定式化できる「場」という意味で、ゲージ理論=ファイバーバンドルの理論なので、結局、「ゲージ場」=「場」=「接続を持つファイバーバンドル」と解釈できます。

しかし、もう少し狭い意味で「場」を使うことがあります。ベクトル場とかスカラー場とかいうときの「場」です。空間の各点になんかの量が割り当てられている状況ですね。こっちは、ファイバーバンドルのセクション〈section | 断面〉という概念に対応します。

接続を持つファイバーバンドルと(そのファイバーバンドルの)セクションは別な概念です。どちらも「場」と呼びますが、混同するのはまずいです。ただし、無関係というわけではなくて、ファイバーバンドルが持つ構造や特徴が、そのセクションにより表現されることがよくあります。

マリオス・スタイルと層

少し前に、マリオス微分幾何に興味をひかれました。

マリオス微分幾何は、徹底的に層を利用するので、「層ありき」から出発します。ファイバーバンドルも、対応する層(ベクトル層/主層)として扱います。層以外の存在物は扱わない、と言ってもいいでしょう。

一方で、マーシュもポンサンも層には触れてません。微分幾何や物理の入門的解説では、層を使うのは一般的ではないのかも知れません。ですが、座標を使って具体的に計算するときは、潜在的に層を使っています。層に関する性質を暗黙に仮定しています。潜在的・暗黙的なモノ・コトを表に出せば層になります。であるのなら、最初から層を表に出すマリオスのスタイルが望ましいような気がします。

ファイバーバンドル、特にベクトルバンドルは、層を使って再定義できます。マーシュとポンサンはベクトルバンドルのまま扱い、マリオスは層として定義されたベクトルバンドル(ベクトル層)を扱っているわけです。

ベクトルバンドルには、計算の道具としては問題があります。

  • ベクトルバンドルの引き戻し〈pullback〉は作れるが、前送り〈pushout | push-forward〉がうまく作れない。
  • 線形代数の標準的な構成である核〈kernel〉、像〈image〉がうまく作れない。

制約を付けて問題点をある程度回避することは出来ますが、ぎごちない印象は否めません。

微分幾何でなにか計算するときは、多様体を局所座標(チャート)達で覆うことになります。局所的計算(足し算・掛け算や微分)をつなぎ合わせて全体の計算結果が得られます。この手法が既に層を使っていることになります。

層を、あまり理念的に捉えずに、よくできた計算デバイス/計算マシナリーと割り切って使えばいいんじゃないかと思います。マリオス・スタイルは、この割り切りが極端で、ファイバーバンドルをほとんど捨てています*3

バンドル&層・ハイブリッド方式

ファイバーバンドルではうまくいかない前送りの構成は、層では驚くほど簡単です。一方、ファイバーバンドルでは直感的に構成できる引き戻しは、層で作るのは面倒です。

こんなことがあるので、バンドルだけ/層だけに限定すると、話が難しくなってしまうようです。状況に応じて、バンドルと層を使い分けるのがよろしいかと。

バンドルと層の関係を圏論的に考えてみると次のようになります; ファイバーが圏Cの対象であるようなバンドル全体からなる圏を C-Bundle とします。例えば C = Vect = (ベクトル空間の圏) ならば、Vect-Bundleベクトルバンドルの圏です。C-Bundle を埋め込むのにふさわしい圏 D-Sheaf があったとします。D-Sheaf は、値を圏Dに取る層の圏です。例えば、D = Mod = (加群の圏) として Mod-Sheaf

都合のよい埋め込み C-BundleD-Sheaf があれば、バンドルの圏での構成を層の圏でも行えます。実際に出てくる圏C は、Vect(ベクトル空間の圏)、LieGrp(リー群の圏)、Princ(主等質空間の圏)くらいです。具体的なCに対して、適切な D-Sheaf を見つけて埋め込みを構成します。

埋め込み C-BundleD-Sheaf を、明示的かつ積極的に使うスタイルがバンドル&層・ハイブリッド方式です。どうせ暗黙的かつ消極的には使っています。暗黙的かつ消極的だから曖昧さがつきまとうのです。曖昧さ/気持ち悪さを解消するには、バンドル&層・ハイブリッド方式が望ましいでしょう。

とはいえ、埋め込み関手の構成はそれほど単純じゃないし、バリエーションもあるので、ハッキリとしたことは、まー、そのうちぼちぼち。

*1:Norbert Poncin はルクセンブルクの人です。フランス語風の発音だと、たぶん「ノベール・ポンサン」に近いと思います。が、フランス語風に発音するかどうかは分かりません。

*2:マリオスは層による定義を採用しているので、「接続を持つファイバーバンドル」は実際は「接続を持つ層」です。

*3:マリオス本人は思弁的な傾向がある人なので、層を単なる道具ではない存在論的合理性を持つ実在として捉えているかも知れません。よく知らんけど。