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参照用 記事

1 = 0 のとき、いったい何が起きるのか?

1 = 0 が成立する世界では、何が起きるでしょうか。次の2つの回答が考えられます。

  1. 世界が崩壊する。
  2. 何ごとも起きない。

普通は、世界が潰れて縮退する事態となります。しかし、エキゾチックな世界では、 1 = 0 は「それがなにか?」という程度のことで、特に不都合もないのです。

世界が崩壊する

集合A上に足し算と掛け算が載っている代数系 (A, +, 0, ・, 1) を考えます。ここで、0は足し算の中立元(零元)、1は掛け算の中立元(単位元)です。

まず、常識的に考えましょう。x∈A を任意に取ってきます。1 = 0 だったので、x = 1・x = 0・x = 0 となり、xが何であっても x = 0 。つまり、A = {0} です。

1 = 0 を仮定すると、0しかない世界になってしまうわけです。

何ごとも起きない

今おこなった推論では、0・x = 0 が使われていました。0・x ≠ 0 でもいいような世界なら、必ずしも A = {0} とはなりません。

実例を紹介する前に、代数系 (A, +, 0, ・, 1) の計算法則をハッキリさせておきましょう。次の法則が成立するとします。x, y, z はAの任意の要素です。

  1. (x + y) + z = x + (y + z)
  2. x + y = y + x
  3. x + 0 = x
  4. (x・y)・z = x・(y・z)
  5. x・y = y・x
  6. x・1 = x
  7. x・(y + z) = x・y + x・z

これだけあれば、まー、普通に計算が出来ますよね。

I = [0, 1] = {xは実数 | 0 ≦ x ≦ 1} とします。Iの上に足し算と掛け算を定義します。掛け算は普通の掛け算「・」とします。足し算は「小さい方」だと定義します。普通の足し算と区別して「\hat{+}」という記号を使います。\hat{+}がIの足し算です。

  • x \hat{+} y := min{x, y} = (xとyの小さい方、等しいときはどっちでも同じ)

x \hat{+} 1 = min{x, 1} = x なので、1は足し算の中立元になります。足し算の中立元を0(ゼロ)で表すのが習慣ですが、ほんとのゼロと区別するためにθを使います。

  • θ := 1

すると、次の法則が成立します。

  1. (x \hat{+} y) \hat{+} z = x \hat{+} (y \hat{+} z)
  2. x \hat{+} y = y \hat{+} x
  3. x \hat{+} θ = x
  4. (x・y)・z = x・(y・z)
  5. x・y = y・x
  6. x・1 = x
  7. x・(y \hat{+} z) = x・y \hat{+} x・z

代数系 (I, \hat{+}, θ, ・, 1) では、1 = θ が成立しています。つまり、

  • 掛け算の中立元 = 足し算の中立元

だからといって、Iは単元集合に潰れているわけではなくて、たくさんの要素を持ちます。

Iのなかでは、θ・x = θ は成立しません。足し算の中立元(零元)が、掛け算の吸収元(absorbing element)になるとは限らないのです。

もっと奇妙な例として:

  • 非負実数全体を台集合とする。
  • 足し算は max{x, y} で定義する。
  • 掛け算は普通の足し算とする。

「掛け算が足し算」というのが一見意味不明ですが、既存の2項演算である「普通の足し算」を、新しい代数系の「掛け算」として採用する、ということです。この代数系でも、1 = 0 が成立します。