このブログの更新は Twitterアカウント @m_hiyama で通知されます。
Follow @m_hiyama

メールでのご連絡は hiyama{at}chimaira{dot}org まで。

はじめてのメールはスパムと判定されることがあります。最初は、信頼されているドメインから差し障りのない文面を送っていただけると、スパムと判定されにくいと思います。

参照用 記事

接関手の上のモナド

微分のチェーンルール」で接関手(tangent functor)を話題にしたので、誰かなんか接関手について書いてないか? と"tangent functor"で検索したら、次の論文が引っかかりました。

題名にあるとおり、接関手はモナドになるようです。この論文を9ページだけ(全体50ページ)読んだのでメモ。

随伴関手のペアでも同じこと

モナドは自己関手(endofunctor)の上に構成されるので、ベースの接関手Tは ManManManはなめらかな多様体の圏)という関手である必要があります。僕は、なめらかなベクトルバンドルの圏をVectBdlとして、接関手を T:ManVectBdl の形で考えていたわけですが、Tがこの形でも随伴対が作れればいいわけです。(Benoît Jubinは、バンドルの圏をVecBunと書いてます。)

そこでTとペアになる関手 E:VectBdlMan で、次のホムセットの同型を導くものを探します。

  • Man(M, E(B)) \stackrel{\sim}{=} VectBdl(T(M), B)

やってみたら、この同型を示すのにTのモナド構造を潜在的に使ってしまうという点で何か論点先取っぽいですが、矛盾があるわけじゃないのでまーいいとしましょう。

なめらかなベクトルバンドルBを、B = (B, X, π) とします。ベクトルバンドル構造とその全空間を同じBで表します。Xが底空間で、πは射影 B→X です。

ベクトルバンドルから底空間と射影を忘れて、全空間とそのあいだの写像だけにする忘却関手をEとします。E:VectBdlMan という関手です。先ほどの記法だと E(B) = B となり、恒等関手みたいに見えちゃうのですが、記号の乱用のせいです。忘却関手Eを先に考えれば、B = (E(B), X, π) とも書けます。しかし、「Bの全空間」も単にBと書いてしまうことが多いでしょう。

やることは、f:M→E(B) in Man に対して、fの域を接バンドルT(M)にまで“拡張"した f#:T(M)→E(B) in VectBdl を作ることです。f |→ f# が1:1だとか自然性を持つとか、いろいろと確認事項がありますが、そのへんはさぼります、対応を作るだけ。

ポイントになるのは、τB:T(E(B))→B という写像ベクトルバンドルの準同型射)の構成です。忘却関手Eを書いていると煩わしいので省くと、τB:T(B)→B です。このようなτがあると、f:M→B in Man に対して、T(f):T(M)→T(B) in VectBdl を作って、τB:T(B)→B を続けて結合すれば、(T(f);τB):T(M)→B in VectBdl が得られます。f |→ f# = T(f);τB が、ホムセットの同型 Man(M, E(B))→ VectBdl(T(M), B) を与えるものです。

τB:T(B)→B のBにT(M)を代入すると T(T(M))→T(M) なので、τは事実上モナド乗法です。

変換τの構成

というわけで、τB:T(B)→B in VectBdl を構成します。

Bの底空間Xの点pを取り、pの周辺で局所的に考えます。Tp(X) = V、p上のファイバーであるベクトル空間をWとします。VもWもベクトル空間です。pの座標近傍 U⊆ M を取ると、座標 x:U→V により、UはVの開集合x(U)と同一視できます。

射影の逆像 π-1(U) を B|U と書くことにします。バンドルの定義から、B|U \stackrel{\sim}{=} x(U)×W という同型が取れます。この同型は、B|U における、V×W に値を取る座標となります。以下、この座標を使います。x∈x(U)⊆V と w∈W の対 (x, w) が B|U の点を表します。あっ、x∈x(U) がまた記号の乱用だった。左のxは、座標点を表す記号、右のxは座標写像を表す記号です。伝統的にこういう乱用はしているのだよね。

次に、T(B)上の局所座標を取るのですが、Bの点(の座標)(x, w)と接ベクトルの座標(v, w')を組み合わせて、(x(U)×W)×(V×W) と同型の座標近傍を取れます。つまり、(x, w, v, w') という4成分の座標が取れるわけです。x以外は、ベクトル空間内を自由に動けます。w, w'∈W というのがミソです。

Bの点の座標(x, w)と、T(B)の点の座標(x, w, v, w') を使って、次の写像を考えます。

  • (x, w, v, w') |→ (x, w + w')

w, w'∈W だったので、ベクトルの足し算は意味を持ちます。これで、p∈X の周辺に関する、T(B)からBへの局所的な写像が定義できました。これがうまいこと繋ぎ合わ可能で座標に依存しないことを示すと、T(B)→B の写像になります。手続きは面倒くさいですが、バンドルのファイバーであるベクトル空間Wが二倍になったW×W が出てくるので、足し算して一個分Wに潰してあげるということです(接ベクトル空間Vは捨てます)。バンドルの構成が局所的には(×W)という掛け算(直積)なので、ベクトル空間をモノイドとみなしてのモノイダル・スタンピングモナドと同じ構造になっているんですね。