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3Dでニョロニョロしたい: 随伴・双対・ガロア接続

2つの関手の随伴性、2つのベクトル空間の双対性、2つの単調写像からなるガロア接続(Galois connections)は、同じ定式化が出来る3つの事例です。それぞれの舞台とセッティングは異なりますが、次のような対応関係があります。

関手の随伴性 ベクトル空間の双対性 ガロア接続
圏の圏 ベクトル空間の圏 順序集合の圏
基点(唯一) 順序集合
圏の対象 - 順序集合の要素
圏の射 - 要素の順序関係
射の結合 - 順序の推移性
関手 ベクトル空間 単調写像
関手の結合 ベクトル空間のテンソル 単調写像の結合
自然変換 線形写像 写像の順序関係
自然変換の縦結合 線形写像の結合 写像の順序の推移性
自然変換の横結合 線形写像テンソル 写像の結合の単調性

一般的な枠組みとしては、2次元の圏が必要ですが、それぞれの例における構成要素(セル)は次のようになります。

構成要素 関手の随伴性 ベクトル空間の双対性 ガロア接続
0-セル 基点(唯一) 順序集合
1-セル 関手 ベクトル空間 単調写像
2-セル 自然変換 線形写像 写像の順序
1-セルのペア 随伴関手ペア 双対空間ペア ガロア接続ペア


随伴性、双対性、ガロア接続をごく簡単に説明します。

[追記]

[/追記]

関手の随伴性

F:CD と G:DC が2つの関手のとき、任意の A∈|C| と X∈|D| に関して次の同型が成立するとき、FとGは随伴だといいます。

  • D(FA, X) \stackrel{\sim}{=} C(A, GX)

ここで出てくる同型は、自然同値(成分が同型射である自然変換)です。ホムセット D(F-, -) と C(-, G-) を Cop×DSet という反変共変・二項関手と考えた場合の自然変換なので、次のように書くのがより正確です。

  • ιA,X:D(FA, X) → C(A, GX) (同型射)

FとGが組になっているところが重要なので、FとGを随伴関手ペアとか随伴関手カップルとか呼ぶのが良いと思います。FとGは役割が違うので、「FはGの左パートナー」「GはFの右パートナー」と呼ぶとハッキリします。ペア(またはカップル)とかパートナーとかいう言葉は「線形代数の難所とアダムとイブと矢印一元論」で説明しています。

ベクトル空間の双対性

VとWを体K上のベクトル空間として、双線型形式 φ:V×W→K が次の条件を満たすとします。

  • すべての v∈V に対して φ(v, w) = 0 ならば、w = 0 。
  • すべての w∈W に対して φ(v, w) = 0 ならば、v = 0 。

このとき、φの存在を前提として、VとWは双対だといいます。この場合も、双対ベクトル空間ペアカップル)、「VはWの左パートナー」「WはVの右パートナー」の呼ぶのがいいでしょう。

ガロア接続

AとBが順序集合として、f:A→B、g:B→A を単調写像(順序を保存する写像)とします。次の同値性が成立しているとします。

  • 任意の a∈A、b∈B に対して、f(a)≦b ⇔ a≦g(b) 。

このとき、fとgの組を、AとB結ぶガロア接続と呼びます。今まで同じように、ガロア接続ペアカップル)、「fはgの左パートナー」「gはfの右パートナー」と呼びます。

共通性はニョロニョロ

いずれの事例でも、なんらかのペア(カップル)が出てきて、相方を、それぞれの立ち位置から見て「左パートナー/右パートナー」と呼んでいる点は共通しています。この状況を記号「-|」を使って次のように書きます。

  • F -| G
  • A -| B
  • f -| g

とはいえ、各事例のセッティングはかなり違います。これら3つの事例が単一の抽象化に統合できるのは信じがたい気もします。

3つの事例を統合する方法はニョロニョロ関係(「双対とニョロニョロ」参照)です。ニョロニョロ関係(snake relation)を書き下すには、なんらかの意味でニョロニョロの絵を描く必要があります。次の図は、「双対とニョロニョロ」にある絵です。

ニョロニョロ関係は、単位と余単位を使って定式化されます。3つの事例における単位/余単位は:

随伴関手ペア 双対空間ペア ガロア接続ペア
単位 η::I⇒GF coev:K→B\otimesA id ≦ gf
余単位 ε::FG⇒I ev:A\otimesB→K fg ≦ id

簡単過ぎて難しい

随伴関手ペアに関する単位/余単位とニョロニョロ関係は、圏論の教科書に書いてあります。それは、圏の圏Catでの議論になります。その議論をベクトル空間の圏VectKや順序集合の圏Ordに引き写せば、双対空間ペアやガロア接続ペアの話になります。

しかし、ベクトル空間の圏や順序集合の圏は、色々な“退化”が起きているので、一部の命題は自明になってしまいます。自明とは、当たり前すぎて意味がないことです。自明な事実のなかに意味や区別を見出すのは困難です。つまり、ベクトル空間の圏や順序集合の圏における随伴は、事情が簡単になり過ぎて難しいのです。

もう少し事情を複雑にしたら易しくなるかもしれません。ニョロニョロ関係を等式で記述するのを止めてはどうでしょうか。圏論では、同一性を同型や同値で置き換えることはよく行われます。

ニョロニョロ関係をヘビの走行運動だと思うと、グニグニ(zig-zag)からマッスグに伸びた状態に、あるいはその逆に変形します。「グニグニ = マッスグ」という等式ではなくて、「グニグニ ⇒ マッスグ」「マッスグ ⇒ グニグニ」という変形(deformation, modification)と考えるほうが自然な気もします。

グニグニ状態もマッスグ状態も2-セル、つまり膜状の図形として定義されます。となると、2-セルの変形は、膜状の図形が変形した軌跡として3次元のセルで表現されるでしょう。「グニグニ ⇔ マッスグ」という可逆変形の記述は、0, 1, 2, 3次元のセルを持った高次圏のなかで行うことになります。

今まで等式だったニョロニョロ関係が、可逆3-セルになると、今度はその可逆3-セルを制約する等式(一貫性の条件)が必要になります。どんな制約なのでしょう?

簡単過ぎて難しいから、複雑にして簡単にしようと思ったら、よけい難しくなったような …