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参照用 記事

律子からカタストロフへ

最近、「律子」という言葉を使っています。「りつこ」じゃなくて「りつし」です。英語の接尾辞「-or」の訳語のつもり。

では、その「-or」とは何でしょうか。


M = (M, ×, i) をモノイドとすると、次の法則が成立します。

  • (a×b)×c = a×(b×c) ― 結合律(associative law, associativity)
  • i×a = a ― 左単位律(left unit law, left uniticity)
  • a×i = a ― 右単位律(right unit law, right uniticity)

モノイド圏になると、法則はイコールではなくて同型になります。

  • (A\otimesB)\otimesC \stackrel{\sim}{=} A\otimes(B\otimesC)
  • I\otimesA \stackrel{\sim}{=} A
  • A\otimesI \stackrel{\sim}{=} A

これらの同型を与える射(可逆射)を、それぞれ、associator, left unitor, right unitor と呼びます。

モノイド圏の交替律(interchange law)は次のような等式です(下に図があります、図の方向は下から上、左から右)。

  • (A\otimesg);(f\otimesB') = (f\otimesB);(A'\otimesg)

これを同型にすると:

  • (A\otimesg);(f\otimesB') \stackrel{\sim}{=} (f\otimesB);(A'\otimesg)

この同型を与える射は interchangor と呼ばれることがあります。interchanger じゃなくて、語尾は「-or」です。バートレット(Bruce Bartlett)の論文から引用しましょう。語尾の「-or」に注目*1

「-or」接尾辞の使い方はもう分かったと思います。

  • 結合律を与える同型射 associator
  • 単位律を与える同型射 unitor
  • 交替律を与える同型射 interchangor

ナントカ律を与える同型射を“ナントカ-or”と呼ぶわけです。これを日本語で、ナントカ律子としたらいいだろう、と思うわけです。associator=結合律子、unitor=単位律子、interchangor=交替律子 ですね。


ところで、同型で与えられる法則の左辺・右辺の項をストリング図で表すと、同型は2次元図形の変形になるので、その軌跡は3次元の図形になります。結合律を表す結合律子(associator)の形状は次の動画で確認できます。

これ、いまいち分かりにくい気もします。手前味噌ですが、僕が昔描いた立体図がけっこう分かりやすいかと。

双対/随伴を表すニョロニョロ法則を表す図形の動画もあります。

動画タイトルは、zigzagerator。ニョロニョロ法則はジグザグ法則とも呼びますからね。もちろん、snakerator(ニョロニョロ律子)と呼ぶ人もいます*2

次の図もニョロニョロ律子と同じ形ですよね。

この絵は、ルネ・トムのカタストロフ理論を象徴する図形のひとつです。高次圏の法則に対する律子は、典型的な特異点パターンに対応するようなので、ニョロニョロ律子がカスプ特異点を持ち上げた形状なのはその一例なんでしょう、よく知らんけど。

*1:バエズ/ラングフォード〈John C. Baez and Laurel Langford〉は "2-Tangles"( https://arxiv.org/pdf/q-alg/9703033.pdf)のp.3において、interchangorをtensorator〈テンソレイター〉と呼んでいます。

*2:globularの作者であるヴィカリー(Jamie Vicary)などはsnakeorator(スネーケオレイター)と'o'を入れています。例えば、https://pdfs.semanticscholar.org/b934/ebec4607a431638cf376b4a1a71a0b143014.pdf