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辻褄が合わなくて困ってしまう用語法:圏・グラフ・射の変種達

オペラッド(operad)は圏の変種ですが、最近はよく使われます。複圏(multicategory)はオペラッドの同義語だと思っていいでしょう。単一対象(single object)の複圏だけをオペラッドと呼び、色付きオペラッド(colored/coloured operad)を複圏と同義語だとする人もいます。対称性(対称群による作用)があるときだけオペラッドと呼ぶ人もいた気がします。

オペラッドと複圏を区別するのは鬱陶しいだけだと僕は思います。だったらどっちか一方で良さそうなもんですが、どちらも使用者がいるのでそうもいかない。オペラッドと複圏を区別する人は実際にいるので、個別ケースごとに注意するしかないですね。

圏の別な変種に多圏(polycategory)があります。圏→複圏→多圏とだんだん一般化されているので、圏/複圏/多圏の3つ組を使う(オペラッドは使わない)ことを僕は好んでいます。ちなみに、多圏をチャンと扱うのは大変です(「多圏の必要性、煩雑さ、そして単純化」参照)。

さて、圏/複圏/多圏の構成素を何と呼びましょうか? 圏なら対象と射ですが、複圏と多圏では? この問題は「形容詞「複」「多」と箙〈えびら〉」で議論したことがあります。次が僕の案です。

  • 圏の構成素: 射=morphism
  • 複圏の構成素: 複射=multimorphism
  • 多圏の構成素: 多射=polymorphism

問題点は、"polymorphism"が「多相」とカブってしまうことです。でも、日本語なら問題ないので僕は使う気でいます。

圏から結合(composition)と恒等(identity)の構造を忘れるとグラフになります。次の忘却関手があります。

  • ForgetCat:CatGraph

同様に、複圏/多圏から結合と構造の構造を忘れると何になるでしょうか。次のようだとスッキリします。

  • ForgetMulticat:MulticatMultigraph
  • ForgetPolycat:PolycatPolygraph

しかし、マルチグラフは多重辺を認めるグラフのことだし、ポリグラフ嘘発見器(俗称)のことです。

そもそも、「グラフ」という言葉が多義的で定義を確定しにくいので、「多重辺も自己ループ辺も認める有向グラフ」の意味で(えびら; quiver; クイヴァー)を使おう、と思っています。

複箙(multiquiver)と多箙(polyquiver)を使えば、既存の言葉とのバッティングを避けられます。複箙/多箙の辺(arrow, edge)は複辺/多辺で良さそうですが、「多辺」は多辺形のように「複数の辺がある」と捉えられそうなので、カタカナ書きの「アロー」が無難そう。

  • 複アロー(multiarrow)
  • 多アロー(polyarrow)

複アローはオペレータ/オペレーションと呼ばれることがあります。また、その形状から、複アローをフォーク(fork)、多アローをスパイダー(spider)と呼んでいる例もあります。

圏の一般化として高次圏(higher category)もあります。複圏/多圏の高次化は、高次複圏(higher multicategory)/高次多圏(higher polycategory)でいいでしょう。名前はすぐに決められますが、実際に高次複圏/高次多圏を定義するのはとても大変です。

高次複圏/高次多圏の構成素の呼び名は? 高次複射/高次多射でいいと思いますが、実際には次元nを付けてn-複射(n-multimorphism)/n-多射(n-polymorphism)でしょう。こういう一般的な構成素をセルと呼ぶ習慣がありますが、最近「セル」は使いたくないなー、と思っています。理由は、Globularのなかで「セル」をかなり狭い(特定された)意味で使っているからです。

先に、ポリグラフ嘘発見器(俗称)のことだと言いました。しかし実は、ポリグラフ多グラフ)は高次グラフ(higher graph)の意味で使われています。ポリグラフの同義語にコンピュータッド(computad)があります。

今までの流れで言えば、コンピュータッドは高次箙(higher quiver)と呼ぶのが自然でしょう。高次複箙(higher multiquiver)、高次多箙(higher polyquiver)の意味も類推できます。任意のnに関して、次のような忘却関手があるとします(そうなるように定義する)。

  • nForgetCat:nCatnQuiv
  • nForgetMulticat:nMulticatnMultiquiv
  • nForgetPolycat:nPolycatnPolyquiv

忘却関手の左随伴である自由生成関手があることが期待されます。実際に自由生成関手を構成するのは大変そうです。その随伴性を高次化することも考えられますが、さらに大変そう。

複(multi-)、多(poly-)、高次(higher)という接頭辞・形容詞だけで済み、しかも辻褄が合った用語法を提案してみました。ですが、実際に使われている用語法は辻褄が合っているとは限りません。とにかく毎回確認するしかないです! そういう確認作業のためにも、用語法をいったん整理することは意味があると思います。