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参照用 記事

複合モナドから花輪積へ

2つのモナドのあいだにベックの分配法則〈Beck's distributive law〉があれば、それらを組み合わせて複合モナドを作れます。複合モナドの構成は、2つのモナドから1つのモナドを生成するので、一種の“積”と考えられます。この“積”を花輪積〈wreath product | リース積〉と呼びます。

花輪積をちゃんと定義して調べるには、けっこう大掛かりな舞台装置が必要です。技術的な細部・正確さにはこだわらず、花輪積を定義するためのアイデアについて手みじかに述べます。

*1

内容:

サイズと宇宙

圏のサイズの問題に対処するために、グロタンディーク宇宙の系列 U0U1U2 ... を想定します。宇宙 Ur のなかで小さい集合の圏/小さい圏の厳密2-圏を、それぞれ Set#rCat#r と書きます。同様に、宇宙 Ur のなかで小さい厳密n-圏からなる厳密(n + 1)-圏を sn-Cat#r と書きます。

宇宙の番号(階層番号)が明示してなくて、単に Set, Cat, sn-Cat と書いてある場合は、適当なrがデフォルトとして前提されています。そのような前提が一切ない場合は r = 0 とみなします。

この記事の以下の記述では、階層番号rを明示しません。これは、必要に応じてrを取ると考えます。例えば('∈0'は「対象として含む」の意味)、Set#00 Cat#10 s2-Cat#2 という系列が必要なら、r = 2 として、s2-Cat#2 を単に s2-Cat と書きます。通常の議論は、rを2か3に取れば十分でしょう。

モナド論に必要なサイズと宇宙については、次を参照してください。

モナド達の2-圏

Kを厳密2-圏として、K内のモナドの全体を考えます。モナドのあいだの準同型射〈morphism〉と、モナドのあいだの準同型射のあいだの準同型2-射〈2-morphism〉を一緒に考えると、K内のモナド達は厳密2-圏を構成します。この厳密2-圏を s2MndEM(K) と書きます。左下付きの's2'は、厳密2-圏であることを忘れないための目印です。語尾の'EM'はアイレンベルク/ムーア構成と相性がいいように定義したことを示します*2

s2-Cat を厳密2-圏からなる圏とします。s2-Cat は厳密3-圏になりますが、単なる圏(1-圏)とみなしたものを 1(s2-Cat) と書きます。左下付きの'1'は、1-圏であることを忘れないための目印です。1(s2-Cat) の対象は厳密2-圏で、射はラックス2-関手です。ラックス2-関手については、次を参照してください。

s2MndEM(-) は、厳密2-圏に厳密2-圏を対応付けますが、ラックス2-関手 F:KL in 1(s2-Cat) に対して s2MndEM(F):s2MndEM(K)→s2MndEM(L) in 1(s2-Cat) はうまく定義できるので、s2MndEM(-) は、1(s2-Cat)→1(s2-Cat) in CAT という自己関手になります(CAT は一階層上の“圏の厳密2-圏”)。

s2MndEM上に載ったモナド構造

s2MndEM(-):1(s2-Cat)→1(s2-Cat) in CAT なので、厳密2-圏 CAT 内に、s2MndEM(-) を台関手とするようなモナドを構成できる可能性があります。

まずモナド単位ですが、これは、

  • triv::Id1(s2-Cat)s2MndEM(-):1(s2-Cat)→1(s2-Cat) in CAT

とします。成分で書けば:

  • trivK:Ks2MndEM(K) in 1(s2-Cat)

trivK は、圏 1(s2-Cat) の射なので、ラックス2-関手ですが、K対象Aに、A上の自明なモナド〈trivial monad | identity monad | 恒等モナド〉を対応させます。自明なモナドとは、単位も乗法も恒等であるモナドです。

次は、s2MndEM(-) 上のモナド乗法です。モナド乗法を作るのはなかなか難しいですが、それが出来たとして、wtp("wreath product"から)としましょう。

  • wtp::s2MndEM(s2MndEM(-))⇒s2MndEM(-):1(s2-Cat)→1(s2-Cat) in CAT

成分で書けば:

  • wtpK:s2MndEM(s2MndEM(K))→s2MndEM(K) in 1(s2-Cat)

このモナド乗法=花輪積〈wreath product〉を具体的に構成することが課題になります。

モナドを構成する行為が再びモナドになっているという、またしても“入れ子の世界”の現象に出会いました。

参考資料

花輪積に関する基本的な文献は次です。花輪積の演算対象物として花輪〈wreath〉という概念が定義されています。K内の花輪とは、s2MndEM(s2MndEM(K)) の対象です。複合モナドの発展形は、“花輪の理論”です。

*1:画像: https://www.creema.jp/item/1629213/detail より

*2:実際の s2MndEM(K) の構成は、単にモナドの全体に射と2-射を入れたというものではなくて、アイレンベルク/ムーア構成を使って自由完備化を行うもので、簡単ではありません。