「従う」の使用例:正規分布とカイ二乗分布

昨日の記事「確率変数が分布に「従う」とは」で、「従う」という言葉の使い方を説明しました。この記事では、その使用例をひとつ挙げます。


「確率変数が分布に従う」という言い方の例として、こんなのがあります。

独特の言い回しに不案内だった僕は、この文言が「いかなる状況において、いかなる事態を記述しているのか?」皆目サッパリ理解出来ませんでした。

まず、記述が少し雑なので補足すると; ここでの確率変数は実数値の確率変数です。つまり、可測写像 X1, X2 の余域は実数の集合Rになります。独立といっているので、これらの可測写像の域は同一な集合(確率空間の台集合)Aです。また、正規分布として標準的なパラメータを持つ N(0, 1) を採用します。

先の文言「確率変数X1とX2」が記述する状況は、確率空間 A = (A, ΣA, μA) があり、Rを台とする標準的な可測空間*1 R = (R, ΣR) への2つの可測写像 X1, X2:A→R がある状況です。

X1, X2 が独立であることから、デカルトペア <X1, X2>:A→R×R により、R2 = R×R 上に同時確率分布を構成できます。νをその同時確率分布とすると、次が成立します。

  1. ν = <X1, X2>*A)
  2. X1が N(0, 1) に従うので、(X1)*A) = N(0, 1)
  3. X2も N(0, 1) に従うので、(X2)*A) = N(0, 1)
  4. νは、2つの独立な周辺分布 N(0, 1) の同時分布だから、ν = (X1)*A)\otimes(X2)*A) = N(0, 1)\otimesN(0, 1) (記号'\otimes'は、2つの測度の直積測度を表します。)

独立性、同時分布、周辺分布については次の記事を見てください。

q:R2R を q(x1, x2) := x12 + x22 と定義します。<X1, X2>:A→R2 は可測写像(確率変数とは単なる可測写像のこと)で、q:R2R も可測写像なので、その結合〈合成〉 Y := <X1, X2>;q : A→R も可測写像、つまり確率変数です。

確率変数 Y:A→R による確率測度 μA の前送りは、R2上の確率測度 ν = N(0,1)\otimesN(0, 1) のqによる前送りと同じです。

  • Y*A) = (<X1, X2>;q)*A) = q*(<X1, X2>*A)) = q*(ν) = q*(N(0, 1)\otimesN(0, 1))

「Yはカイ二乗分布に従う」は、「Yの分布はカイ二乗分布だ」と言っても同義なので、Y*A) = q*(N(0, 1)\otimesN(0, 1)) がカイ二乗分布だと言っていることになります。

結局、R2上の分布 N(0, 1)\otimesN(0, 1)(これは2次元の正規分布になります)を、q:R2R で前送りしたR上の分布としてカイ二乗分布が定義されます。状況と事態に関する情報の多くが、暗黙の前提に含まれていたのですね。

*1:Rの標準的な位相から導かれるボレル可測空間です。