多変量正規分布 2: アフィン空間の位相的・測度的性質

前回の記事「多変量正規分布 1: アフィン空間」で、「次は二次形式」と書きましたが、その前に、アフィン空間の位相構造と測度構造について触れておきます。

Rn上の正規分布だけを考えるなら、標準的な位相と測度を意識する必要はありません。一般的な(有限次元)アフィン空間の場合でも、「Rnと同じだ」と思っていて問題はないです。が、この記事では念のために確認します。

内容:

有限次元アフィン空間の位相

多変量正規分布 1: アフィン空間 // アフィン空間」で約束したように、ベクトル空間はR上に有限次元なものだけ考えます。

標準的な有限次元ベクトル空間であるRnの位相は、実数直線Rの位相の直積位相として定義できます。あるいは、Rnユークリッドノルム〈二乗ノルム〉を入れて距離位相を考えてもいいです。他のノルム(最大値ノルムや総和ノルムなど)からでも距離位相が入ります。どの方法を採用しても、得られる位相は同じです。

なので、Rn上にはThe・位相があると言えます。通常、Rnの位相について、ことさらに言及はしません。代数的な話しかしてないこともあるでしょうが、暗黙にThe・位相を仮定していることが多いでしょう。

Vが有限次元ベクトル空間なら、有限基底の存在から、線形同型写像 Rn→V があります。線形同型写像は集合のあいだの同型写像全単射〉を与えるので、Rnの位相(べき集合の部分集合)を、Vの位相にそのまま持っていけます。こうして得られるV上の位相は、位相の転送に使った線形同型写像に依存しません。つまり、V上にも一意的なThe・位相が存在します。

特に何もしなくても、すべての有限次元ベクトル空間にThe・位相が決まり、すべての線形写像連続写像になります。この状況は次のように言えます。

  • 有限次元ベクトル空間と線形写像に関しては、位相と連続性が確実にタダで手に入る

アフィン空間 A = (A, V, α) があると、a∈A を固定した v \mapsto α(a, v) : V→A は集合のあいだの同型写像全単射〉です。この同型写像により、V上の位相をA上に転送できます。得られるA上の位相は、位相の転送に使ったa(に対応する写像)に依存しません。ここでも、一意的なThe・位相が存在します。

  • 有限次元アフィン空間とアフィン線形写像に関しては、位相と連続性が確実にタダで手に入る

ボレル測度空間

位相空間を X = (X, ΟX) と書くことにします。ここで、Xは、記号の乱用で位相空間とその台集合の両方を表します。ΟXは、Xの開集合族(=Xの位相)です。

位相空間Xに対して、ΟXを含む最小のσ代数が定まります。これを ΣΟX と書くことにします。すると、可測空間 (X, ΣΟX) ができます。位相構造のほうを忘れてしまうわけではないので、(X, ΟX, ΣΟX) と書いたほうがよいかも知れません。

ΟXから作られたΣΟXを、位相空間Xのボレルσ代数〈Borel σ-algebra〉と呼びます。「位相から作られた」という意味で、形容詞「ボレル〈Borel | Borelian〉」を使います。

ボレルσ代数の要素である集合を、ボレル可測集合〈Borel measurable set〉またはボレル集合〈Borel set〉といいます。ボレルσ代数上で定義された測度はボレル測度〈Borel measure〉です。ボレル測度は、測度としての条件は特にないので、一点測度〈ディラック測度〉のような測度もボレル測度です。人により、ボレル測度に、位相構造に関わる条件を要求することもあります。

「ボレル」=「位相から作られた」と言いましたが、「ボレル空間〈Borel space〉」は特殊な可測空間を意味することがあるので注意してください。ここでは、ボレル測度空間〈Borel measure space〉は、位相から作られた (X, ΟX, ΣΟX) にボレル測度 μ:ΣΟXR≧0∪{∞} を添えた測度空間 (X, ΟX, ΣΟX, μ) のことを意味します。ボレルσ代数は位相から一意的に決まりますが、測度の選択肢は多様なので、位相空間に対するThe・ボレル測度空間は決まりません

ボレル測度空間は、下部構造に位相構造を持っているので、位相に関する性質と測度に関する性質の両方を持ちます。例えば、位相的に「ハウスドルフな」「第二可算な」ボレル測度空間を考えることができます。測度的に「有限な」「σ-有限な」ボレル測度空間を考えることもできます。

困ってしまうのは、位相と測度で同じ形容詞が使われているときです。

  • 位相が局所コンパクト: 任意の点に対してコンパクトな近傍がとれる。
  • 測度が局所コンパクト: コンパクト集合Kの測度μ(K)が有限。

「台位相空間が局所コンパクトであるボレル測度空間」とか「局所コンパクト測度を持つボレル測度空間」とか言うしかないですね。

有限次元アフィン空間のハール測度

Vを有限次元ベクトル空間とすると、Vには標準的な位相(The・位相)がタダで付いてきます。その位相空間を V = (V, ΟV) と書きます。さらに、ΟVからのボレルσ代数もタダで付いてきます。これは、V = (V, ΟX, ΣΟV) 。

位相付き可測空間 V = (V, ΟX, ΣΟV) 上の測度は一意的ではありませんでした。が、Vの足し算と相性がいいタチのよい測度は、ほぼ一意的に決まります。

まず、タチのよいボレル測度の条件として次を要求します。

  1. 非自明である: 「任意の S∈ΣΟVに対して μ(S) = 0 となるゼロ測度」ではない。
  2. 任意のボレル集合が、測度的に、開集合で外から近似可能: S∈ΣΟV ならば、µ(S) = inf {µ(U) | S⊆U, U∈ΟV} 。
  3. 任意の開集合が、測度的に、コンパクト集合で内から近似可能: U∈ΟV ならば、µ(U) = sup {µ(K) | K⊆U, Kはコンパクト} 。
  4. 任意のコンパクト集合の測度が有限(測度的な局所コンパクト性): Kがコンパクトならば、μ(K) < ∞ 。

S⊆V, v∈V として、Sをvにより足し算(平行移動)した集合を S + v と書くことにします。このような平行移動で集合の測度が変わらないことは次のように書けます。

  • 任意の S∈ΣΟX と任意の v∈V に対して、μ(S) = μ(S + v) 。(平行移動不変性)

この平行移動不変性と、先のタチのよいボレル測度の条件を満たすような測度は、スカラー倍を除いて一意的に存在します。

有限次元ベクトル空間に限らず、位相的に局所コンパクトな群上に左作用不変(または右作用不変)な測度が存在し、群のハール測度〈Haar measure〉と呼ばれます。ハール測度は、台となる位相空間のハウスドルフ性なしで構成できます。構成法は例えば:

  • Title: ON THE EXISTENCE AND UNIQUENESS OF INVARIANT MEASURES ON LOCALLY COMPACT GROUPS
  • Author: SIMON RUBINSTEIN-SALZEDO
  • Pages: 7p
  • URL: http://simonrs.com/HaarMeasure.pdf

有限次元ベクトル空間はハウスドルフで足し算は可換なので、一般的構成より簡単な方法でハール測度を作れるでしょう(僕はよく知らんけど)。加法群としてのRn上のハール測度は、ルベーグ測度のスカラー倍になります。

というわけで、A = (A, V, α) を有限次元アフィン空間とすると、V上にはスカラー倍を除いて一意なハール測度(平行移動不変な測度)が存在します。特定のハール測度をひとつ選べば、v  \mapsto a + v : V→A でA上にハール測度を前送りできます。こうして作ったA上の測度を、アフィン空間のハール測度とします。これは、Aにおける平行移動不変な測度です。

特定のハール測度を載せたアフィン空間は、(A, ΟA, ΣΟA, λA) と書くことにします。λAが特定されたハール測度です。同一のアフィン空間上の、ハール測度による測度空間は、スカラー倍(正の実数)だけの自由度(選択肢)があります。

アフィン空間上の確率測度

アフィン空間A上の確率測度を考えましょう。確率測度は確率密度関数で定義するとします。fが確率密度関数だとすれば、部分集合〈事象〉S⊆A に対して、次の積分を計算する必要があります。

  •  \int_{x\in S}f(x)dx

この積分を計算するには、事前にA上に測度が載っている必要があります。つまり、単なるアフィン空間ではなくて、測度付きのアフィン空間でないと、密度関数による確率測度を定義できないのです。

アフィン空間A上のハール測度λAを明示的に書くならば、先の積分は次のようになります。

  •  \int_{x\in S}f(x)\lambda_A(dx)

正規分布は、密度関数で定義される確率測度なので、その舞台として“ハール測度が特定されているアフィン空間”が必要です。