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抽象微分多様体、もうチョット

[追記]エイプリルフール・ネタも令和ネタも書きません。[/追記]

マリオス微分幾何は、「代数幾何の手法を真似しただけじゃん」と言われれば、まーそうなんですが、真似するにも技量とセンスが要ります。マリオスによる定式化は、いい感じのバランスを保っています。特に、共変微分を定義するフレームワークとしては、とても使いやすそうです。

内容:

参考資料

マリオス〈Anastasios Mallios〉はギリシャ(もちろん、現在のギリシャ)の人です。そのためか、マリオス微分幾何〈マリオスの抽象微分幾何〉について論じている人もほぼギリシャ人のようです。

  • Efstathios Vassiliou
  • Maria Fragoulopoulou
  • M.H. Papatriantafillou
  • Ioannis Raptis

名前をなんて読むか(発音するか)は、ちょっと、よく分かりません*1。でも、検索はしやすいです。ちなみに、デミハン〈Arda H. Demirhan〉はたぶんトルコ人です。

arXivにある論文だけ、URLを挙げておきます。

情報は断片的ですが、かき集めれば、だいたいの想像は付きます。

代数化空間

スカラー体としてはRCを使います。Kは、RCのどちらかを表すとします*2

K上のベクトル空間であって、単位的・結合的・可換な乗法を備えたK-代数〈K-多元環〉を、K-可換環、混乱の心配がなければ単にK-環と呼びます。位相空間Xと、X上のK-可換環の層Aの組 (X, A) を、マリオスはK-代数化空間K-algebraized space〉と呼んでいます。

これは、可換環付き空間〈commutative-ringed space〉とか環付き空間〈ringed space〉と呼ばれるものと同じです*3あえて別な名前を付ける必要があったのか? ちょっと疑問です。いずれにしても、実体としてはK-可換環の層そのものなので:

K-代数化空間 (X, A) に対して、A係数の加群の層Ωを載せると、A-加群付き空間〈A-moduled space〉 (X, A, Ω) ができます。これに、ライプニッツ射 d:A→Ω を添えると、抽象微分多様体微分三つ組〉となります。

下部構造から上部構造に至る階層は:

  1. 位相空間 X
  2. K-代数化空間 (X, A)
  3. A-加群付き空間 (X, A, Ω)
  4. K-抽象微分多様体 (X, A, Ω, d)

ベクトル層

抽象微分多様体微分三つ組〉に対して、ベクトル層〈vector sheaf〉という概念があります。これは、ベクトル空間の層〈sheaf of vector spaces〉とは別物です。なめらか多様体の場合のベクトルバンドルに相当する概念です。

ベクトル層の定義には、微分ライプニッツ射〉は不要なので、代数化空間〈可換環付き空間〉のレベルで定義できます。(X, A) がK-代数化空間のとき、A-加群加群の層)であって、局所自由有限階数〈locally free, finite rank〉なモノがベクトル層です。

「局所」の意味は、「位相空間Xの任意の点の近傍で」ということです。有限階数〈有限次元〉の自由加群の概念は完全に代数的なものです。適当な開集合Uをとれば、加群の層Eが、E(U) \stackrel{\sim}{=} A(U)r となることなので、“ファイバー次元がrのベクトルバンドル”の局所自明化条件と同じです。

ベクトルバンドルに相当するベクトル層と同様に、主バンドルに相当する主層〈principal sheaf〉というモノも定義されています。主層の定義は、ベクトル層より複雑です(僕はよく分かってない)。

ベクトル層と主層が、マリオス微分幾何の中心的な話題のようです。

共変微分

ベクトル層の共変微分の定義には、下部構造として、基本となるライプニッツ射が必要です。つまり、抽象微分多様体上のベクトル層に対して共変微分が定義できます。

(X, A, Ω, d) が抽象微分多様体Eが (X, A) 上のベクトル層(局所自由なA-加群)だとします*4。∇がE共変微分〈covariant {derivative | differential}〉だとは、∇:EE\otimesΩ というK-ベクトル空間の層のあいだの射であって、次のライプニッツの法則を満たすことです。

  • For x∈E(U), a∈A(U),
    U(x・a) = ∇U(x)・a + x⊗dUa

ここで、UはXの開集合で、'・'は右からの(係数の)掛け算で、'⊗'は要素のテンソル積(双線型写像)です。掛け算を左からにするなら、∇:E→Ω\otimesE になります。

共変微分∇は、抽象微分多様体微分dをベースに定義されています。∇もベースとなるdもライプニッツ射です。“微分”とはライプニッツ射だとみなして、色々な微分と、そのあいだの相互関係を調べよう、という発想です。

ベースとなる係数可換環の上に、たくさんの加群が存在するのと同様に、ベースとなる微分の上に、たくさんの共変微分が存在します。これは、「微分付き可換環の上に、微分付き加群が広がっている」と言ってもいいでしょう。

加群の代数的な理論に、台空間の位相とライプニッツ射としての微分が、幾何的・微分的な香りを添えています。確かにこれは“抽象微分多様体”と呼ぶべき対象物ですね。

*1:"Efstathios Vassiliou"は、「エフスタッヒオス・バシリウー」に近いみたいです。

*2:R, C以外のスカラー体でも通用する話もあるかも知れませんが、どんな体でもいいわけではありません。

*3:環付き空間は、非可換環を許す場合があります。

*4:共変微分の定義に、局所自由性は要りません。が、局所自由性がないとうまく表示できません。