「主バンドルの基本的なこと (1/2)」で、ファイバーバンドルとそのセクションの定義をしたので、それを使って共変外微分の系列を導入できますね。
という記法の意味を説明します。
内容:
ファイバーバンドルのセクションの復習
この節は「主バンドルの基本的なこと (1/2)」の要約です。なめらかな多様体の圏 Man = Man(∞) で話をします。
ξ = (E, B, F, π) をファイバーバンドルとします。s:B→E という(なめらかな)写像で、s;π = idB を満たすものが、ξの大域セクション〈global section〉でした。ξの大域セクションの全体を Γ(ξ) と書きます。開集合 U⊆B の上で定義されたセクションは、ξをUに制限したファイバーバンドル ξ|U = (E|U, U, F, π|U) の大域セクションになります。
- Γ(U, ξ) := Γ(ξ|U)
Γ(U, ξ) の要素は、ξの局所セクション〈local section〉と呼びます。
セクションの集合に、ファイバーバンドルの底空間を添えて、ΓB(ξ), ΓB(U, ξ) とも書きます。開集合Uを動かした対応 U ΓB(U, ξ) は、B上の層になります。
今回使うわけではありませんが; ファイバーバンドルξも動かすと、ξ ΓB(-, ξ) という対応は、“B上のファイバーバンドルの圏”から“B上の層の圏”への関手 Bdl[B]→Sh[B] になります(「層に関してちょっと」を参照)。
ド・ラーム複体
なめらかな多様体Mに対して、そのド・ラーム複体は次の系列です。
- Ω0M -(d0)→ Ω1M -(d1)→ Ω2M -(d2)→ ...
この系列が複体〈complex〉だとは、di;di+1 = di+1di = 0 が成立することです。
各ΩiM は次のように定義されます。
- Ω0M := C∞(M) = C∞(M, R) = (M上で定義されたなめらかな実数値関数の可換環)
- Ω1M := ΓM(T*M) = (M上の1次微分形式のベクトル空間)
- Ω2M := ΓM(T*M ∧M T*M) = (M上の2次微分形式のベクトル空間)
- 以下同様
T*M はMの余接バンドルで、T*M ∧M T*M は、余接バンドルを(自分自身と)外積したベクトルバンドルです。'∧M'は、ファイバーごとに外積を作って、それらを寄せ集めることを意味します。
すべての ΩiM はR上のベクトル空間ですが、Ω0M は可換環で、ΩiM 達は可換環 Ω0M 上の加群と考えます。
開集合 U⊆M に対して、関数や微分形式をU上に制限して考えることにより、ΩiM(U) を定義できます。そして、U上に制限したド・ラーム複体も定義できます。
- Ω0M(U) -(d0U)→ Ω1M(U) -(d1U)→ Ω2M(U) -(d2U)→ ...
Ω0M(-) はM上の可換環の層、ΩiM(-) はΩ0M(-)上の加群の層になります。ド・ラーム複体は、加群の層の圏のなかの複体とも、複体の圏に値をとる層(複体の層)ともみなせます。
ド・ラーム複体は、ド・ラーム・コホモロジーを定義する手段であるだけではなくて、それ自身で(コホモロジーを取らなくても)多様体Mに備わった計算システムと捉えることができます。ド・ラーム複体をベースに、より複雑な計算システムを構成することができます。後で述べる共変外微分系列がその例です。
共変微分の復習
共変微分については、次の記事で触れています。
が、ザッと復習しておきます。
ξを多様体M上のベクトルバンドルとします。セクションの空間 ΓM(ξ) はR-ベクトル空間であり、可換環 Ω0M 上の加群にもなっています。これらの構造を前提に、ξの共変微分と呼ばれる作用素を定義できます。
共変微分〈covariant derivative〉∇は、次の形の作用素です。
- ∇ : ΓM(ξ) → ΓM(ξ)Ω1M
ここで、テンソル積の記号''は、可換環Ω0M上の加群に対するテンソル積です。ベクトルバンドルのファイバーごとのテンソル積を'M'と書くなら、次の同型があります。
- ΓM(ξ)Ω1M = ΓM(ξ)ΓM(T*M) ΓM(ξ M T*M)
これは、セクションをとる関手が、ベクトルバンドルのテンソル積を加群のテンソル積に写すことを意味しています。
関数fは右から掛けていますが、ちゃんと統一性があれば、左右どっちでもいいです。
共変微分を備えたベクトルバンドル〈vector bundle with covariant derivative〉は、M上の微積分の舞台を提供します。さらに、局所的計算を可能とするために、層を導入しておきます。
開集合 U⊆M ごとに、次の共変微分を考えます。
- ∇U : ΓM(U, ξ) → ΓM(U, ξ)Ω1M(U)
Mのすべての開集合に渡ってこれらを総合すると、ベクトル空間かつ加群の層のあいだのライプニッツ射ができ上がります。これもまたξの共変微分と呼びます。
共変外微分とその系列
多様体M上のベクトルバンドルξの共変微分∇に基づいて、ド・ラーム複体と類似の系列を構成します。ただし、∇ベースの系列が複体になるとは限りません。むしろ、複体にならないことに意味があったりします。
最初から層の形で ΩiM(U, ξ) (i = 0, 1, 2, ...)を導入します。UはMの開集合です。
- Ω0M(U, ξ) := ΓM(U, ξ)
- Ω1M(U, ξ) := Ω0M(U, ξ)Ω1M(U)
- Ω2M(U, ξ) := Ω0M(U, ξ)Ω2M(U)
- 以下同様
''は、可換環Ω0M(U)に関する加群のテンソル積です。ベクトルバンドルのテンソル積(と外積)を使うなら:
- Ω0M(U, ξ) := ΓM(U, ξ)
- Ω1M(U, ξ) := ΓM(U, ξ M T*M)
- Ω2M(U, ξ) := ΓM(U, ξ M (T*M ∧M T*M))
- 以下同様
ベクトルバンドルで見ると、余接バンドル T*M のk重の外積 ΛkMT*M に、ξをテンソル積したバンドルを作ることになります。セクションを取ると、微分形式の値を実数からξに拡張したものになります。
ΩiM(U, ξ) (i = 0, 1, 2, ...)のあいだを繋ぐ微分作用素が共変外微分〈covariant exterior derivative〉 ∇iU です。まず、∇0U : Ω0M(U, ξ) → Ω1M(U, ξ) は、∇U そのものだとします。その他の ∇iU : ΩiM(U, ξ) → Ωi+1M(U, ξ) は、次の基本的な定義を拡張して計算できます。
- ∇iU(sω) = (∇Us)ω + (-1)is(diUω)
ここで、diU は通常の外微分(ド・ラーム複体に現れる外微分)です。
以上で、ベクトルバンドルξと共変微分∇に伴う共変外微分〈外共変微分〉の系列が作れました。座標(チャート/アトラス)を使わないで定義したので、計算の労力はかかりませんでしたが、具体的な座標により表示するとなるとだいぶゴチャゴチャした感じになります。
バンドルの共変微分とバンドルの接続は、同じ概念の違った表現方法です。共変外微分の系列が複体にならない度合い、つまり ∇0;∇1 = ∇1∇0 は、バンドルの曲率(物理ではフィールドストレングス)と呼ばれる重要な量になります。共変外微分系列を導入したので、曲率の議論をする準備は出来ました。