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ゲージ変換の解釈

主バンドルの基本的なこと (1/2)」で述べたように、マーシュ〈Adam Marsh〉の論説・書籍を読み始めました。

障害というか、困難を感じる点は、物理と微分幾何の概念・用語の対応関係がよく分からないことです。物理的概念そのものは「どうせ分からんからいいや」とハナから諦めているのですが、物理起源の言葉がよく出現するので、それを微分幾何的に解釈する必要はあります。

この記事では、「ゲージ変換」という言葉の解釈を試みてみます。

内容:

バンドルの圏

主バンドルの基本的なこと (1/2) // 特定の空間上のファイバーバンドルの圏」、「主バンドルの基本的なこと (1/2) // 底空間を特定しないファイバーバンドルの圏」の復習をしましょう。Man = Man(∞) = (なめらかな多様体となめらかな写像の圏) をベースに考えます。ファイバーバンドルの全空間、底空間、典型ファイバーはすべてManの対象であり、射影はManの射です。ファイバーバンドルを単にバンドルともいいます。

ファイバーバンドルに、構造群〈structure group〉と呼ばれる群を一緒に考えることが多いのですが、ここでは構造群を考えません。ちなみに、構造群とゲージ群〈gauge group〉は完全に同義語なので、今言ったことを言い換えると「ゲージ群を考えません」なので、ゲージ群は一切出てきません

すべてのバンドルとバンドル射(ファイバーバンドルの準同型写像)の全体からなる圏をBundleとします。Bundleの対象は、ξ = (Eξ, Bξ, Fξ, πξ) のように書きます。ξからηへのBundleの射は、f:Eξ→Eη, φ:Bξ→Bη in Man のペア (f, φ) で、f;πη = πξ;φ を満たすものでした。これを、(f, φ):ξ→η in Bundle と書きます。

ξ, η∈|Bundle| に対して、ホムセット Bundle(ξ, η) は、バンドル射 (f, φ) からなりますが、底空間の写像φを特定の写像 ψ:Bξ→Bη に固定したバンドル射の全体を Bundle(ξ, η)[ψ] と書きます。

  • Bundle(ξ, η)[ψ] := {(f, φ)∈Bundle(ξ, η) | φ = ψ : Bξ→Bη in Man}

多様体X(Manの対象)をひとつ選んで、圏Bdl[X]を次のように定義します。

  • |Bdl[X]| := {ξ∈|Bundle| | Bξ = X}
  • Bdl[X](ξ, η) := Bundle(ξ, η)[idX]

多様体Xごとに圏Bdl[X]を作ることができます。各Bdl[X]はBundleの部分圏になります。

自明バンドルの圏

前節で、すべてのバンドルからなる圏Bundleと、X∈|Man|ごとの圏Bdl[X]を定義しました。バンドルのなかでも特に簡単なバンドルとして自明バンドルがあります。自明バンドルだけからなる圏を定義しましょう。

X, F∈|Man| に対して、バンドル (X×F, X, F, π1) を定義できます。ここで、π1は直積の第一射影です。この形のバンドルを、自明バンドル〈trivial {fiber}? bundle〉、直積バンドル〈{direct}? product {fiber}? bundle〉などと呼びます。

自明バンドルもバンドルなので、自明バンドルからの/自明バンドルへのバンドル射は普通に考えることができます。したがって、自明バンドルを対象とするBundleの充満部分圏TrivBundleを考えることができます。

同様に、Bdl[X]内の自明バンドルとバンドル射(底空間では恒等射)だけからなるBdl[X]の充満部分圏TrivBdl[X]も考えることができます。

これで、以下のような圏を定義できました。

  • Bundle
  • Xごとに Bdl[X]
  • TrivBundle
  • Xごとに TrivBdl[X]

同型射の圏と自己同型射の圏

この節は、圏の一般論です。Cを任意の圏とします。

Cの同型射〈可逆射 | isomorphism〉だけからなる部分圏を IsoC 、または Iso_C と書きます。念のため、Iso_C の対象類とホムセットを書くと:

  • |Iso_C| := |C|
  • Iso_C(A, B) := {f∈C(A, B) | fは同型射}

A, B が対象として同型でないときは、Iso_C(A, B) = 空集合 となることに注意してください。

Cの自己同型射〈automorphism〉だけからなる部分圏を AutC 、または Aut_C と書きます。念のため、Aut_C の対象類とホムセットを書くと:

  • |Aut_C| := |C|
  • Aut_C(A, B) := (A = B ならば {f∈C(A, A) | fは同型射}、そうでないなら空集合)

ホムセット Aut_C(A, B) は、A = B のときしか実質的な意味がないので、Aut_C(A) と書きます。

すべての射が可逆である圏を亜群〈groupoind〉と呼びます。Iso_C も Aut_C も亜群となります。対象Aに対して、Iso_C(A, A) 、 Aut_C(A, A) = Aut_C(A) は群になります。亜群 Aut_C は、対象ごとにひとつの群 Aut_C(A) があるだけなので、単に群の寄せ集めです。

ゲージ変換とゲージ変換群

「ゲージ変換」という言葉の語源やら物理的解釈やらは一切無視して、単に「どんな意味で使われているのか」だけに注目すると、

  • バンドルの圏の同型射または自己同型射をゲージ変換と呼ぶ

だと思われます。

「バンドルの圏」は何種類かあるので、表にまとめてみると:

バンドルの圏 同型射の圏 自己同型射の圏
Bundle Iso_Bundle Aut_Bundle
Bdl{X] Iso_Bdl[X] Aut_Bdl[X]
TrivBundle Iso_TrivBundle Aut_TrivBundle
TrivBdl{X] Iso_TrivBdl[X] Aut_TrivBdl[X]

この表で、同型射/自己同型射の圏が8種類出てきますが、これらの圏(亜群になっている)の射をゲージ変換〈gauge {transform | transformation}〉と呼んでいるようです。どの圏の射なのかは文脈によります。いずれの場合でも、ゲージ変換は可逆です。

ゲージ変換の集まりで群になっているものを、たぶんゲージ群と呼ぶのでしょうが、どうも次の2つのケースがありそうです。

1. ゲージ変換からなる亜群(群ではない)をゲージ変換群と呼ぶ。
2. ゲージ変換からなる群(ほんとに群)をゲージ変換群と呼ぶ。

同型射の圏 Iso_Bdl[X] をゲージ変換群と呼ぶことは、一番目の用法の例になります。ホムセットは Aut_TrivBdl[X](ξ) をゲージ変換群と呼ぶことは、ニ番目の用法の例になります。

混乱を避けるには、ゲージ変換からなる亜群はゲージ変換亜群〈gauge transformation groupoid〉と呼び、ほんとに群のときだけゲージ変換群〈gauge transformation group〉と呼ぶほうがいいでしょう。

最初に注意したように、今までの話でゲージ群=構造群は一切出てきてません。ということは、ゲージ群とゲージ変換群は別物だと分かります。ゲージ群を考えるならば、それはゲージ変換群と関係しますが、ゲージ群なしでもゲージ変換/ゲージ変換亜群/ゲージ変換群を定義できます。