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拡張された係数を持つ微分形式の空間の書き方

共変外微分の系列」で登場したド・ラーム複体や共変外微分の系列は、i = 0, 1, 2, ... で番号付けられた*1微分形式の空間と、隣り合う番号の微分形式の空間のあいだの外微分作用素からなる系列です。微分形式の空間を大文字オメガで表すのは、割と安定した習慣です。番号は上付き添字です。つまり、Ωi ですね。Ωi の後に括弧が付くことが多いです。

  • Ωi(ナニカ)

括弧内のナニカの種類により解釈が変わるので、ややこしい。

  1. Ωi(M) -- Mは多様体
  2. Ωi(U) -- Uは開集合
  3. Ωi(V) -- Vはベクトル空間
  4. Ωi(ξ) -- ξはベクトルバンドル
  5. Ωi(F) -- Fは加群

これらはどれも略記です。では、略記じゃなくてチャンと書いたらどうなるのでしょうか?

準備

次の記事に書いてあることを手短かにまとめます。

Mはなめらかな多様体として、CM(U, R) を、Mの開集合U上で定義された、なめらかな実数値関数の集合とします。マリオス〈Anastasios Mallios〉に従って、次の書き方も使います。

  • AM(U) := CM(U, R)

AM(U) はR-ベクトル空間であり、可換環でもあるとみなします。また、開集合Uを動かすことによりM上の層を定義できます。層は特別な前層ですが、前層 AM が値をとる圏は、CRngR = (R-ベクトル空間でもある可換環の圏) です。「R-ベクトル空間でもある可換環」は短くR-可換環と呼ぶことにします。M上のR-可換環層 AM 上の加群層の圏を AM-Mod-Sh[M] と書きます。

ξはM上のベクトルバンドルだとします。ξの大域セクションの全体を ΓM(ξ) と書き、局所セクションの空間は次のように定義します。

  • ΓM(U, ξ) := ΓU(ξ|U)

ΓM(U, ξ) はRベクトル空間として扱い、R-可換環 AM(U) 上の加群とみなします。Uを動かした ΓM(-, ξ) はM上の層となり、圏 AM-Mod-Sh[M] の対象になります。

M上のベクトルバンドルの圏を Vect-Bdl[X] とすると、ΓM は、ξ \mapsto ΓM(-, ξ) という対応になり、ベクトルバンドル射を加群層の射に対応付けるので、ΓM:Vect-Bdl[X]→AM-Mod-Sh[M] という関手になります。

記号'\otimesM'は、2つのベクトルバンドルの“M上のテンソル積”の意味で使います。'\otimesM'は、圏 Vect-Bdl[X] における演算です。一方、記号'\otimesAM'は、2つの加群層の“可換環層 AM に対するテンソル積”の意味で使います。'\otimesAM'は、圏 AM-Mod-Sh[M] における演算です。

略記の解釈

任意のベクトル空間Vに対して、Triv(M, V) は、M上のVをファイバーとする自明ベクトルバンドルのことだとします。

  • Triv(M, V) = (M×V, M, V, π1)

T*M は、Mの余接ベクトルバンドル、Λiξ は、ベクトルバンドルξを外積の意味でi乗したベクトルバンドルです。

さて、略記を解釈しましょう。

  1. Ωi(M) は、ΓM(M, ΛiT*M) の略記。
  2. Ωi(U) は、ΓM(U, ΛiT*M) の略記。
  3. Ωi(V) は、ΓM(M, Triv(M, V) \otimesM ΛiT*M) の略記。
  4. Ωi(ξ) は、ΓM(M, ξ \otimesM ΛiT*M) の略記。
  5. Ωi(F) は、ΓM(M, ΛiT*M) \otimesAM F の略記。

このなかで、1番と2番は通常の微分形式の空間ですが、3, 4, 5番はそれぞれ、ベクトル空間、ベクトルバンドル加群層へと係数域が拡張されています。拡張された係数を持つ微分形式は、接続〈共変微分〉の議論などで出てきます。

ΩiM(U) := ΓM(U, ΛiT*M) とするならば:

  1. Ωi(M) は、ΩiM(M) の略記。
  2. Ωi(U) は、ΩiM(U) の略記。
  3. Ωi(V) は、ΩiM(M) \otimesAM ΓM(M, Triv(M, V)) の略記。
  4. Ωi(ξ) は、ΩiM(M) \otimesAM ΓM(M, ξ) の略記。
  5. Ωi(F) は、 ΩiM(M) \otimesAM F の略記。

他にも、略記の仕方はいくらでもあるでしょうが、ΓM(開集合, ベクトルバンドル) と \otimesM, \otimesAN で書き下してみると、意味がハッキリするでしょう。

*1:ときに、負の番号も使うことがあります。