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参照用 記事

コジュール接続の圏

先週ボンヤリと考えていたことがあったんですが、ちょっと面倒になってきて気力萎え。だけど、いつかまた興味と気力が湧いたときに参照できるようにメモ書きを残しておきます。思い出すときのヒントは書きますが、詳しい話ではありません。あやふやなところもあります。

コジュール接続とは、ベクトルバンドルEと、E上の共変微分∇で構成される構造です。コジュール接続の全体を圏に仕立てると嬉しい気がします。例えば、曲率が自然変換になるんじゃないかと(未確認)。

グロタンディーク構成を何度も繰り返し使います。なんだか「指標のパラメータ化とグロタンディーク構成」と関係しそうな気がします。

内容:

コジュール接続

バンドルの「接続」には色々な種類があります。

接続の種類 接続を載せる対象物 定義の手段
エーレスマン接続 任意のバンドル 水平部分空間の分布
主接続 G-主バンドル Gのリー環に値を取る微分形式
コジュール接続 ベクトルバンドル セクション空間の共変微分作用素

他にもあるかも知れませんが、よく使われる接続はこの三種類でしょう。エーレスマン、コジュールは人名です。

  • シャルル・エーレスマン〈Charles Ehresmann〉
  • ジャン=ルイ・コジュール〈Jean-Louis Koszul〉

コジュールは、「コシュル」、「コスル」というカタカナ表記も見ますが、Forvoで発音を聞くと「コジュール」に近いようです。長音記号「ー」のところにアクセント*1があります。なお、主接続は(一般化された)カルタン接続とも言います。カルタンは Élie Cartan です。

ここで使う記法は次の記事にあります。

より詳しい説明は:

さて、コジュール接続〈Koszul connection〉は、ベクトルバンドルEと共変微分∇の組 (E, ∇) ですが、∇は次のようなR-線形作用素です。

  •  \nabla : \Gamma(E) \to \Gamma(E \underset{|E|}{\otimes} T^\ast(|E|) )

ここで、|E|はEの底空間で、\underset{|E|}{\otimes} は、ベクトルバンドルの(|E|上の)テンソル積を表します。∇はR-線形ではあっても、Φ|E| = C(|E|) 係数では線形ではなくて*2ライプニッツ法則を満たします。

共変微分の空間

ベクトルバンドルEに対して、E上の共変微分〈covariant derivative〉の集合を CovDer(E) とします。とりあえず、CovDer(E) は単なる集合だとします。どんなベクトルバンドル上にも共変微分が存在するので、CovDer(E) は空ではありません。

 \Gamma(end(E)\underset{|E|}{\otimes} T^\ast(|E|) ) は、代数〈多元環〉バンドル end(E) に値を持つ1次微分形式の空間になります。これを End1Form(E) と書いて、エンド1-形式〈endo1-form〉の空間/加群と呼びます。加群とみなすときの係数可換環は Φ|E| = C(|E|) です。もちろん、End1Form(E) の要素を、Eのエンド1-形式と呼びます。

Eのセクション s∈Γ(E) と、Eのエンド1-形式 a∈Γ(end(E)\underset{|E|}{\otimes}T*(|E|)) があるとき、aが左から作用する掛け算 a・s を次のように定義します。

  • For p∈|E|,
    (a・s)(p) := evp(a(p), s(p))

evp は、点pにおける end(Ep)×Ep→Ep という評価射〈evaluation {morphism | map}〉です。この掛け算は、(-・-):End1Form(E)×Γ(E)→Γ(E) という(ベクトル空間および加群の)双線形写像を定義します。これは、行列と縦ベクトルの掛け算の類似物です。

∇∈CovDer(E), a∈End1Form(E) のとき、∇ + a は共変微分になります。掛け算の演算子を明示的に書くなら、∇ + (a・) となります。ライプニッツ法則を確認してみます*3

For s∈Γ(E), f∈Φ|E|
    (∇ + (a・))(fs)
 =  ∇(fs) + a・(fs)
 =  df\otimess + f∇s + f(a・s)
 =  df\otimess + f(∇s + a・s)
 =  df\otimess + f(∇ + (a・))s

同様にして、次も示せます。

  • ∇, ∇'∈CovDer(E) ならば、(∇ - ∇')s = a・s となる a∈End1Form(E) が一意的に存在する。

一般に、集合Sに群Gが右から*4作用(記号'*')しているとして、次が成立するとき、SとG作用からなる構造をG-主等質空間〈G principal homogeneous space〉と呼びます*5

  • (s, g)  \mapsto (s, s*g) : S×G→S×S は全単射となる。

群Gを主等質空間の構造群〈structure group〉と呼ぶことにします。

集合 CovDer(E) と可換群〈アーベル群〉End1Form(E)Ab の組み合わせは主等質空間になります。ここで、End1Form(E)Ab は、加群の足し算だけ考えたアーベル群のこと*6です。集合 CovDer(E) への可換群 End1Form(E)Ab の作用は:

  • (∇, a)  \mapsto ∇ + (a・)

主等質空間の構造群は単なるアーベル群であって、加群やベクトル空間ではないことに注意してください*7。選んだひとつの共変微分に対する、他の共変微分の“差分”(End1Form(E)Ab の要素)がいわゆる“接続係数”を定めます。ただし、共変微分の空間 CovDer(E) には、特別な基準点は存在しません。一様というかノッペラボウ。

ベクトルバンドルとEPペアの圏

ベクトルバンドルとバンドル射の圏を VectBundle とします。バンドル射 f = (ftot, fbase) : E→F は、次の図式を可換にするものです。

\require{AMScd}
\begin{CD}
E_{tot}   @>{f_{tot}}>>  F_{tot} \\
@V{\pi_E}VV              @VV{\pi_F}V \\
E_{base}  @>{f_{base}}>> F_{base}
\end{CD}

多様体 M∈|Man| を固定して、底写像(底空間のあいだの写像)が idM であるバンドル射からなる圏は VectBdl[M] とします。「M上のバンドル射」と言った場合、VectBdl[M] の射を指すとします。VectBdl[-]:ManCAT はインデックス付き圏になり、次の圏同型が成立します。

 {\bf VectBundle} \cong {\displaystyle \int_{\to\:{\bf Man}}} {\bf VectBdl}[\mbox{-}]

積分記号はグロタンディーク構成(平坦化)です(「グロタンディーク構成と積分記号」参照)。

f:E→F in VectBundle に対して、|E|上のバンドル射 f~:E→(fbase)#F が決まります(上付きシャープはベクトルバンドルの引き戻しです)。さらに、バンドル射 f~ から Γ(hom(E, (fbase)#F)) の要素(セクション)が決まります。この過程がfのセクション化です(「ベクトルバンドル射の逆写像: 記法の整理をかねて // ベクトルバンドル射のセクション化」参照)。fのセクション化(で得られたセクション)を、σ(f) と書くことにします。

バンドル射 f = (ftot, fbase) : E→F in VectBundle の代わりに、底写像 fbase とfのセクション化 σ(f) の組 (fbase, σ(f)) を使っても同じことです。これをヒントに、ベクトルバンドルのあいだに新しい射を定義します。

新しい射は、ベクトルバンドルのあいだのEPペア〈EP pair〉と呼びます。EPベアは、別な文脈で紹介したことがあります。

ベクトルバンドル E, F のあいだのEPペアは、底写像 φ:|E|→|F| と、セクション s∈Γ(hom(E, φ#F)), セクション t∈Γ(hom(φ#F, E)) の組 (φ, s, t) です。次の条件を要求します。

  • すべての点 p∈|E| において、s, t を線形写像 sp:Ep→Fφ(p), tp:Fφ(p)→Ep とみなして、sp;tp = idEp が成立する。

sをEPペアの埋め込み〈embedding〉、tをEPペアの射影〈projection〉と呼びます。

EからFへのEPペア (φ, s, t) を一文字fで表したときは、f = (fbase, femb, fproj) と書くことにします。

ベクトルバンドルの引き戻しを使うと、EPペアの結合が定義できます。これにより、ベクトルバンドルを対象として、EPペアを射とする圏が構成できるので、それを EppVectBundle とします。VectBundleEppVectBundle は、対象類を共有しますが、別な圏です。EPペアから射影を取り除くと、EppVectBundleVectBundle という忘却関手を定義できますが、VectBundleEppVectBundle という有益な関手は構成できそうにありません。

共変微分のインデックス付き圏とグロタンディーク構成

前節で定義した EppVectBundle をベース圏〈インデックス圏 | インデキシング圏〉とするインデックス付き圏〈indexed category〉を定義しましょう。EppVectBundle の対象 E に対して、圏 CovDer[E] を割り当てるような対応と、f:E→F in EppVectBundle に対する反変関手 CovDer[f]:CovDer[F]→CovDer[E] を構成します。

まず、ベクトルバンドルEに対する圏 CovDer[E] を定義します。

  • 対象: Obj(CovDer[E]) = |CovDer[E]| := CovDer(E) = (E上の共変微分の集合)
  • 射: Mor(CovDer[E]) := CovDer(E)×End1Form(E) = (E上の共変微分とEのエンド1-形式のペアの集合)
  • dom: dom(∇, a) := ∇
  • codcod(∇, a) := ∇ + a = ∇ + (a・)
  • id: id(∇, a) = (∇, 0)
  • 結合: (∇, a);(∇', b) := (∇, a + b) (∇' = ∇ + a)

CovDer[E] は、集合 CovDer(E) 上の主等質空間構造を利用して定義した圏で、連結した(どの2つの対象のあいだにも射が存在する)やせた亜群(亜群は、すべての射が可逆である圏)になります。

f:E→F in EppVectBundle とします。fに対して、反変関手 CovDer[f]:CovDer[F]→CovDer[E] を構成する必要があります。CovDer[f] を f* と略記します。関手 f* を対象パートと射パートに分けましょう。

  • f*Obj:CovDer(F)→CovDer(E)
  • f*Mor:CovDer(F)×End1Form(F)→CovDer(E)×End1Form(E)

EPペア f = (fbase, femb, fproj) を、記法の簡略化のために、f = (φ, s, t) と書きます。そして、対象パート f*Obj は次のように定義します。

  • f*Obj(∇) := (t*)\circ#∇)\circ(s*)

ここで、

  1. s* は、埋め込みセクション s∈Γ(hom(E, φ#F)) を、バンドル射 E→φ#F とみなして、さらに前送り作用でセクション空間の写像 Γ(E)→Γ(φ#F) とみなしたもの。
  2. φ#∇ は、ベクトルバンドルの引き戻しに伴う、共変微分の引き戻し φ#∇:Γ(φ#F)→Γ(φ#F\otimesT*(|E|)) 。
  3. t* は、射影セクション t∈Γ(hom(φ#F, E)) を、バンドル射 φ#F→E とみなして、さらに前送り作用でセクション空間の写像 Γ(φ#F)→Γ(E) とみなしたもの。
  4. \circ は、反図式順の写像作用素)の結合〈合成〉記号。

f*Obj(∇) が、実際に共変微分になっていることは確認が必要です(これはたぶん大丈夫)。

関手 f* を射パート f*Mor は次のようにします。

  • f*Mor(∇, b) := (f*Obj(∇), (φ, s)(b))

ここで、(φ, s) は、ペア (φ, s) から誘導されるバンドル射 f':E→F に反変関手 End1Form を適用した End1Form(f'):End1Form(F)→End1Form(E) のことです。

対象パート f*Obj と射パート f*Mor の組み合わせが、実際に関手 f* = CovDer[f] :CovDer[F]→CovDer[E] になっていることも確認が必要です(だんだん疲れてきた)。

CovDer[-] がインデックス付き圏になっていることを確認できれば、グロタンディーク構成は機械的に適用できます。コジュール接続の圏はそうやって定義します。

 {\bf KoszConnection} := {\displaystyle \int_{\to\:{\bf EppVectBundle}}} {\bf CovDer}[\mbox{-}]

もうひとつ別な方法でも KoszConnection を構成したいですね。

 {\bf KoszConnection} := {\displaystyle \int_{\to\:{\bf Man}}} {\bf KoszConn}[\mbox{-}]

もちろん、ふたつの定義の同値性*8を期待しています(あー疲れる)。

曲率

(E, ∇) がコジュール接続のとき、その曲率〈curvature〉とは、∇から定義した偏微分作用素達が交換できない度合いを測る量です。あるいは、Eの一点でのベクトルを、底空間内の無限小な平行四辺形に沿って一周させて戻ったときのズレを測る量です。

コジュール接続 (E, ∇) の曲率を R(E, ∇) と書きます。ベクトルバンドルEが了解されているときは、R と書いてもかまいません。R は、ベクトルバンドル end(E)\otimesΛ2(T*(|E|)) のセクションになります。このベクトルバンドルのセクション空間/加群を End2Form(E) と書いて、Eのエンド2-形式〈endo2-form〉の空間/加群と呼びましょう。

コジュール接続 (E, ∇) に対して、そのスカラー場(関数と同義)の可換環を次のように書きます。

  • Scalar(E, ∇) := C(|E|)

Scalar(E, ∇) は、共変微分∇にも、ベクトルバンドルEにも無関係で、底空間|E|だけで決まる可換環です。|E|上の任意のベクトルバンドルFのセクション空間 Γ|E|(F) は、Scalar(E, ∇)-加群とみなせます。特に、Scalar(E, ∇) 自身はScalar(E, ∇)-加群です(なにしろ、Scalar(E, ∇) = C(|E|) なので)。

Eのエンド2-形式の加群 End2From(E) にも、ダミーの∇を入れて、End2From(E, ∇) と書くことにします。すると、(E, ∇) \mapsto Scalar(E, ∇) も (E, ∇) \mapsto End2Form(E, ∇) も、コジュール接続の圏からC(-)係数加群の圏*9への関手となります。

  • Scalar : KoszConnection → C-Mod
  • End2Form : KoszConnection → C-Mod

共変微分∇はダミーの引数なので、ScalarもEnd2Formも、実質的にはベクトルバンドルとEPペアの圏 EppVectBundle 上で定義されている関手です。

共変微分∇が関わってくるのは、曲率 R(E, ∇) においてです。曲率は、次のような自然変換じゃないかと思います。

  • R :: Scalar ⇒ End2Form : KoszConnection → C-Mod

確認する前に萎えたのですけど……

*1:正確にはストレス・アクセントなのかな。

*2:伝統的微分幾何では、セクション空間のあいだのR-線形作用素が、関数係数でも線形になるときにテンソル的〈tensorial〉と言うようです。共変微分は被微分セクション変数に関してテンソル的ではありません。

*3:計算のなかで、テンソル積の対称性を暗黙に使っているところがあります。

*4:左からでも同様です。

*5:G-torsor という呼び名もあります。

*6:加群の圏からアーベル群の圏への忘却関手の値。

*7:CovDer(E) は、実数係数のアフィン空間の構造を持ちます。2つの共変微分を通る直線(実数パラメータ表示)とか、複数の共変微分の重心を求めることが出来ます。

*8:このテの圏同型/圏同値が、一般論から自動的に出てこないかなー、と長年夢想しています。グロタンディーク構成に関する“フビニの定理”です。

*9:きちんと解釈するには、可換環層の上の加群層を考えます。