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参照用 記事

双線形写像のカリー化

カリー化と線形代数微分幾何に関する小ネタです。

内容:

設定と約束

RとFは可換環で、R⊆F (RはFの部分可換環)だとします。A, B などはF-加群だとします。R⊆F だったので、A, B などはR-加群でもあります。文字の使用法は次のように約束しましょう。

文字 用途
α, β Rの要素
f, g Fの要素
a, b, a', b' A, B の要素
K 双線形写像

微分幾何での想定(あくまで一例)は:

  1. R = R
  2. F = C(M) (Mは多様体
  3. A = ΓM(TM) (TMはM上の接ベクトルバンドル
  4. B = ΓM(E) (EはM上のベクトルバンドル
  5. K = ∇ : ΓM(TM)×ΓM(E)→ΓM(E) (二変数とみなした共変微分

各種の写像〈関数〉の集合を次のように書くことにします。

  1. Map(A, B) : 集合(とみなした)Aから集合(とみなした)Bへの写像の全体
  2. R-Lin(A, B) : R-加群(とみなした)AからR-加群(とみなした)BへのR-線形写像の全体
  3. F-Lin(A, B) : F-加群AからF-加群BへのF-線形写像の全体
  4. R-BiLin((A, B), C) : R-加群(とみなした) A, B から C へのR-双線形写像の全体
  5. (F, R)-BiLin((A, B), C) : F-加群Aと、R加群(とみなした)Bからの、左変数〈第一変数〉に関してF-線形、右変数〈第二変数〉に関してR-線形な双線形写像の全体

Rに関する双対と、Fに関する双対を次のように書きます。

  • A{}^{\underset{R}{\ast}} := R-Lin(A, R)
  • A{}^{\underset{F}{\ast}} := F-Lin(A, F)

A, B などは、F-加群として次の良い性質を持つと仮定します。

  •  (A^{\underset{F}{\ast}})^{\underset{F}{\ast}} \cong A
  •  F\mbox{-}Lin(A, B) \cong B\otimes_{F}A^{\underset{F}{\ast}}

以下、Fに関する双対とFに関するテンソル積しか出てこないので、(-){}^{\underset{F}{\ast}} \otimes_{F} を単に (-)*, \otimes と書きます。

カリー化

K:A×B→C が K∈(F, R)-BiLin((A, B), C) だとします。つまり、次が成立します。

  1. K(a + a', b) = K(a, b) + K(a', b)
  2. K(fa, b) = fK(a, b)
  3. K(a, b + b') = K(a, b) + K(a, b')
  4. K(a, αb) = αK(a, b)

Kの左カリー化を K とします。カリー化については「リー微分は共変微分か? -- 代数的に考えれば // カリー化, ラムダ記法と無名ラムダ変数」を参照してください。

とりあえず、集合と写像のレベルで:

  • K:B→Map(A, C)

実際には、b∈B に対する K(b)∈Map(A, C) はF-線形写像です。計算してみます。

  (K(b))(a + a')
= K(a + a', b)
= K(a, b) + K(a', b)
= (K(b))(a) + (K(b))(a')

  (K(b))(fa)
= K(fa, b)
= fK(a, b)
= f(K(b))(a)

したがって、左カリー化 K は次のような写像になります。

  • K:B→F-Lin(A, C)

F-Lin(A, C) \cong C\otimesA* という同型を使うと、

  • K:B→C\otimesA*

とみなしてかまいません。

共変微分

最初に述べた微分幾何での設定で考えましょう。

  1. R = R
  2. F = C(M) (Mは多様体
  3. A = ΓM(TM) (TMはM上の接ベクトルバンドル
  4. B = C = ΓM(E) (EはM上のベクトルバンドル
  5. K = ∇ : ΓM(TM)×ΓM(E)→ΓM(E) (二変数とみなした共変微分

∇の左カリー化 ∇ は次の写像になります。

  • ∇:ΓM(E)→ΓM(E)\otimesΓM(TM)*

ΓM(TM)* = Ω(M) = (M上の1次微分形式の加群) なので、

  • ∇:ΓM(E)→ΓM(E)\otimesΩ(M)

ニ変数の∇と、それをカリー化した ∇ を区別せずに書いてあることが多いので注意しましょう。∇←→∇ と同様な置き換えや同一視はしばしば使われます。