このブログの更新は Twitterアカウント @m_hiyama で通知されます。
Follow @m_hiyama

メールでのご連絡は hiyama{at}chimaira{dot}org まで。

はじめてのメールはスパムと判定されることがあります。最初は、信頼されているドメインから差し障りのない文面を送っていただけると、スパムと判定されにくいと思います。

参照用 記事

共変微分と平行移動の同値性

ここ最近書いている一連の記事はゆるく関連しています。

「共変微分と平行移動は同値な概念である」というよく知られた事実を、できるだけハッキリと記述したいなー、と思っているのです。「共変微分と平行移動の同値性」は、次の過去記事である程度は取り上げました。

しかし、この過去記事の内容は、一部分だけ切り出して述べているだけで、全体的な構造は明らかではありません。(一部分だけの)定式化も未整理な印象があります。「共変微分と平行移動の同値性」を全体的・包括的に、かつスッキリと記述したいのです。

「共変微分と平行移動の同値性」を明らかにするには、次の3つの質問に答える必要があります。

  1. 共変微分とは何か?
  2. 平行移動とは何か?
  3. 同値とは何か?

共変微分ベクトルバンドルに載る作用素なので、ベクトルバンドルEと作用素∇を組にして (E, ∇) をコジュール接続と呼びました(「コジュール接続の圏」)。単一のコジュール接続だけではなくて、コジュール接続の圏 KoszConnection も定義しました(詳細は書いてないが)。これは、「共変微分とは何か?」に答えたとみなしていいでしょう(もっとちゃんと書けばね)。

同様に、「平行移動とは何か?」に答えるには、ベクトルバンドルEとなんらかの仕掛けΠを組にした (E, Π) を対象とする圏 ParTransport を明確に定義すればいいでしょう。

「同値とは何か」と言えば、圏 KoszConnection と 圏 ParTransport が圏同値であることです。実際には、圏同値より強く圏同型がいえそうです。つまり、下の、圏と関手の図式が可換になります。

 \require{AMScd}
\begin{CD}
{\bf ParTransport}  @>{F}>>  {\bf KoszConnection} \\
@|                           @| \\
{\bf ParTransport}  @<{G}<<  {\bf KoszConnection}
\end{CD}

そうなると、やるべきことは次のようになります。

  1. ParTransport を構成する。
  2. 関手 F:ParTransportKoszConnection を構成する。
  3. 関手 G:KoszConnectionParTransport を構成する。
  4. 上記の可換図式が成立することを証明する。

これで、共変微分=コジュール接続の世界と、平行移動の世界を自由に行ったり来たりできるようになります。この往来の応用例がないとつまらないですね。例えば曲率概念を、コジュール接続の世界と平行移動の世界でそれぞれ定義して、相互関係を見るとかは面白そうです*1

ParTransport の構成の第一歩として、ベクトルバンドルE上の代数的平行移動を定義してみました。これでは不十分で、なんらかの方法で局所的・無限小的構造を与える必要があります。

局所的・無限小的構造に、バンドルの自明化が絡むとは思うのですが、とってつけたような定義は気分も悪いし理解もしにくいでしょう。「そりゃーそうなるよね」的な自然な定式化はないのかなー、と、ゆるく思案中。


[追記]ここから下は追記。[/追記]

ニュートンライプニッツの定理〈微積分の基本定理〉は次の形をしています。

 {\displaystyle \int_{a}^{b}}f(x) dx = F(b) - F(a)

共変微分においてこれに相当する等式はどんなものでしょう。おそらく、

 \overline{\displaystyle \int_{e}}_{\,\gamma} (1 + A\, dt) = \Pi(\gamma) \: : E_p \to E_q

こんなんでしょうね。

出てきている記号を説明すると:

通常のニュートンライプニッツの定理における積分は「無限の足し算」ですが、共変微分版の積分は「無限の掛け算」です。パスγの両端のあいだのマクロな線形同型写像が、微小量である接続係数の積み重ねで表現できる、という内容です。積み重ねるときに「無限の掛け算」を使います。

ニュートンライプニッツの定理を、足し算版と掛け算版に分けて考えたほうがよさそうです。

  • 足し算版ニュートンライプニッツの定理: 無限小の差を全部(無限に)足し合わせたら、有限の加法的量が得られる。
  • 掛け算版ニュートンライプニッツの定理: 無限小の比率を全部(無限に)掛け合わせたら、有限の乗法的量が得られる。

足し算と掛け算は指数・対数で行き来できます。

*1:具体的には、アンブローズ/シンガー定理〈The Ambrose–Singer theorem〉の解釈とか。