ここ最近書いている一連の記事はゆるく関連しています。
「共変微分と平行移動は同値な概念である」というよく知られた事実を、できるだけハッキリと記述したいなー、と思っているのです。「共変微分と平行移動の同値性」は、次の過去記事である程度は取り上げました。
しかし、この過去記事の内容は、一部分だけ切り出して述べているだけで、全体的な構造は明らかではありません。(一部分だけの)定式化も未整理な印象があります。「共変微分と平行移動の同値性」を全体的・包括的に、かつスッキリと記述したいのです。
「共変微分と平行移動の同値性」を明らかにするには、次の3つの質問に答える必要があります。
- 共変微分とは何か?
- 平行移動とは何か?
- 同値とは何か?
共変微分はベクトルバンドルに載る作用素なので、ベクトルバンドルEと作用素∇を組にして (E, ∇) をコジュール接続と呼びました(「コジュール接続の圏」)。単一のコジュール接続だけではなくて、コジュール接続の圏 KoszConnection も定義しました(詳細は書いてないが)。これは、「共変微分とは何か?」に答えたとみなしていいでしょう(もっとちゃんと書けばね)。
同様に、「平行移動とは何か?」に答えるには、ベクトルバンドルEとなんらかの仕掛けΠを組にした (E, Π) を対象とする圏 ParTransport を明確に定義すればいいでしょう。
「同値とは何か」と言えば、圏 KoszConnection と 圏 ParTransport が圏同値であることです。実際には、圏同値より強く圏同型がいえそうです。つまり、下の、圏と関手の図式が可換になります。
そうなると、やるべきことは次のようになります。
- 圏 ParTransport を構成する。
- 関手 F:ParTransport→KoszConnection を構成する。
- 関手 G:KoszConnection→ParTransport を構成する。
- 上記の可換図式が成立することを証明する。
これで、共変微分=コジュール接続の世界と、平行移動の世界を自由に行ったり来たりできるようになります。この往来の応用例がないとつまらないですね。例えば曲率概念を、コジュール接続の世界と平行移動の世界でそれぞれ定義して、相互関係を見るとかは面白そうです*1。
圏 ParTransport の構成の第一歩として、ベクトルバンドルE上の代数的平行移動を定義してみました。これでは不十分で、なんらかの方法で局所的・無限小的構造を与える必要があります。
局所的・無限小的構造に、バンドルの自明化が絡むとは思うのですが、とってつけたような定義は気分も悪いし理解もしにくいでしょう。「そりゃーそうなるよね」的な自然な定式化はないのかなー、と、ゆるく思案中。
[追記]ここから下は追記。[/追記]
ニュートン/ライプニッツの定理〈微積分の基本定理〉は次の形をしています。
共変微分においてこれに相当する等式はどんなものでしょう。おそらく、
こんなんでしょうね。
出てきている記号を説明すると:
- γ : Mの点pから点qに至るパス
- Ep, Eq : ベクトルバンドルEのファイバー
- Π : 代数的平行移動の意味での平行移動関手
- Π(γ) : ファイバーのあいだの線形同型写像
- e, A : Πに対応する共変微分∇の、フレームeによる接続係数がA(「騙されるな、接続係数(クリストッフェル記号)の仕掛け」参照)
- : フレーム〈局所自明化〉eを使った乗法的積分〈product integral | 積積分〉
通常のニュートン/ライプニッツの定理における積分は「無限の足し算」ですが、共変微分版の積分は「無限の掛け算」です。パスγの両端のあいだのマクロな線形同型写像が、微小量である接続係数の積み重ねで表現できる、という内容です。積み重ねるときに「無限の掛け算」を使います。
ニュートン/ライプニッツの定理を、足し算版と掛け算版に分けて考えたほうがよさそうです。
- 足し算版ニュートン/ライプニッツの定理: 無限小の差を全部(無限に)足し合わせたら、有限の加法的量が得られる。
- 掛け算版ニュートン/ライプニッツの定理: 無限小の比率を全部(無限に)掛け合わせたら、有限の乗法的量が得られる。
足し算と掛け算は指数・対数で行き来できます。
*1:具体的には、アンブローズ/シンガー定理〈The Ambrose–Singer theorem〉の解釈とか。