まだ十分に若い頃の僕は、毎日早朝、地下鉄日比谷駅で日比谷線から千代田線に乗り換えていました。駅のトイレに入ると、ときにホームレスの人が裸になって体を洗っていることがあります。
そんなことが何度かあると、顔見知りになってしまうのです、話をしたりはしないんだけど、顔は憶えてしまうってことですけどね。当時、印象に残ったのは、盲目の若いホームレスでした。歳は僕と同じくらいでしょうか。僕は彼の顔を憶えたけど、彼は僕の姿を見ることができません。つまり、彼にとって、僕は存在しないも同じでした。
今日、渋谷で彼に会いました。僕と同じように白髪混じりのオジサンになってました。相変わらずホームレスらしいけど、意外にこざっぱりしていて、元気そうにみえました。二十数年前の日比谷駅でそうであったように、今日の再会も彼にとっては存在しないものですけど。