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参照用 記事

イデアルと論理 番外:ベキ等(idempotent)元のはなし

イデアルと論理」に入れようかと思ったけど、これも「よしなしごと」だから番外にする。

イデアルと論理」は、なんだか整数(普通の整数=有理整数)で手間取っているのだけど、先走りして言うと、論理とのアナロジーでは、2変数以上の体係数多項式環とか、コンパクトハウスドルフ空間上の連続関数の環とかのほうが重要で、整数環はちょっと別世界かもしれない。別世界だけど馴染みはある。基本概念はどっちでも同じだから、馴染みがある整数を素材にしているって感じ。

さて、どんな環Aでも、1と0はx・x = xを満たすけど、それ以外にx・x = xを満たす(つまりベキ等な)xがあると、環の(非自明な)直積分解を作れる。実際に構成してみる。xがベキ等なら、x' = 1 - xもベキ等だとわかる(簡単!)。x'・x = 0もわかる(簡単!)。つまり、xとx'は「直交する1の分解」を与える。

xの倍数全体をA1、x'の倍数全体をA2とする。A1とA2はAとは単位元1を共有しないが、それぞれxとx'を単位元に取り直せば環になる。a∈Aに対して、(ax, ax')∈A1×A2を対応させる写像をFとすると:

  • Fの核を求めてみる。F(a) = 0 = (0, 0)∈A1×A2 とは、 「ax = 0 かつ ax' = 0」。そのとき、 a = a・1 = a(x + x') = ax + ax' = 0 + 0 = 0 となるから、Fの核は{0}。よって、Fは単射。(xとx'が1の加法的分解を与えてるところがミソ。)
  • (ax, bx')∈A1×A2に対して、ax + bx'∈Aを考えると、F(ax + bx') = ((ax+bx')x, (ax + bx')x') = (ax, bx')となるので、Fは全射。(xとx'が直交、つまり掛けると0になるところがミソ。)

ベキ等元x, yのあいだには、x・y = x ⇔ x ≦ y として順序が入る。0が最小、1が最大になる(逆順にしてもOKだ)。この順序で極大なベキ等元が位相的には連結成分になる。連結成分とは、極小な閉開(clopen)集合。一般の閉開集合は、連結成分の集合論的(or 幾何学的)直和で表現できる。([追記 date="11-30"]この段落は、暗黙の仮定とギャップが多すぎ、補足を参照。[/追記]

説明の都合上、0とも1とも異なるベキ等元を想定しているが、すべての議論は0, 1にも通用する(自明なケースとして)。これらから分かることは、次の概念が互いに対応していること:

  1. ベキ等元
  2. 環の直積分解(直積構成された環との同型)の成分
  3. 位相空間の閉開集合

この対応は、コンパクトハウスドルフなX上のRまたはC値連続関数の環では特に見やすい。([追記 date="11-30"]補足にもう少し詳しく書いておきました。[/追記]

非自明な(0, 1以外の)ベキ等元がない環は、直積に分解できないという意味である種の“単純性”を持つし、非自明な(空集合と全体集合以外の)閉開集合を持たない空間は連結空間

逆に、ベキ等元をイッパイ持つ環が実はブール代数。すべての元がベキ等なら、x + 1 = (x + 1)^2 = x^2 + 2x + 1 = x + 2x + 1 から 2x = x + x = 0 が出るので、標数が2になる。位相のほうで言えば、連結空間の対極にある、ものすごく連結でない空間。その名も全不連結空間だね。

全不連結空間は、究極的にバラバラな空間だが、それでも離散空間とは違う。無限個の点を持つ離散空間はコンパクトではありえないが、コンパクトな無限全不連結空間はある。これは不思議な感じがする -- 不思議だが本当だ

※ベキ等元と関係したベキ零元のはなしに続く。