アミダを導入してブレイドを扱わないのもモッタイナイので、少しだけブレイド(braid; 組みひも)の話をします。前に進むのではなくて、幾分横にそれた話題なので「第8歩」ではなくて「付録」ってことにします。
内容:
アミダからブレイドへ
アミダの横棒は、左から降りてきた場合は右横(→)への移動、右から降りてきた場合は左横(←)への移動を意味します。これをもっとハッキリと示すために、横棒の代わりにバッテン(X字形)を使うと親切でしょう。
バッテンは二本の線が交差する所ですが、「\」が上(手前)を通るか、それとも「/」が上を通るかを区別することにすると、アミダからブレイドになります。下図はブレイドの例です。
そもそもブレイド(組み紐)は、何本かの紐<ひも>(細いロープ)を編み上げたものです。次の図は『組みひもの数理 (アウト・オブ・コース)』からスキャンした図ですが、下部(床、ボトム)と上部(天井、トップ)に横木があって、紐は釘(ペグ)に結わえ付けます。
ブレイドの実物は、工芸品っぽいアクセサリとかズボンのベルトなどでも見受けられます。竹や籐の細工物とかにもブレイドがあるかな。それと、髪の毛の三つ編みもブレイドの例ですね。
- 檜山のベルトは革紐のブレイドだ:
- この人の髪もブレイドのような気がする。
ブレイドの表示
ブレイドの理論では、紐がほんとに編まれているか(からんでいるか)が問題で、からまないで重なっているだけの紐は引き伸ばして(なるべく重なりをはずして)考えます。例えば、次の左のブレイドの紐を思いっきり引っ張ってピンッと張ると左のブレイドになるので、左右のブレイドは“等しい”とみなします。
しかしここでは、“からまないで重なっているだけの交差”もそのまま(伸ばさないで)保存しておきましょう。つまり我々は、上の図の右と左はまったく異なったブレイドとみなします。
では、どんなブレイドなら等しいとみなすのでしょうか。アミダの場合と同様に、適切な表示(表現)を見つけて、その表示が等しいときにブレイドも等しいとします。ブレイドの表示としては、アミダのときに使った数列表示を使いましょう。ただし、2種類の交差を符号で区別します。
- 「\」が上なら負(マイナス)
- 「/」が上なら正(プラス)
正負の区別をハッキリと書き込めば、バッテンをやめてアミダ方式(横棒)に戻ってもかまいません。次は、[+1, -1, -2, + 2]3 という表示を持つブレイドです。
アミダの話とスムーズに連携するように、符号付き数列の表示が等しいときに、同じブレイドだと定義します。この定義は、通常の(引き伸ばしてから比べる)定義と異なり、伸ばさないでみたままの図形としてのブレイドを問題にしているので、混乱しないように、我々が扱うブレイドはブレイド図と呼ぶことにします。
ブレイド図の圏
ブレイド図は、横棒に符号(プラス/マイナス)を付けたアミダと事実上同じなので、幅(縦線の数)や段数(横棒の数)を定義できます。幅が同じ2つのブレイド図A, Bを、上下にピッタリくっつけると、結合A;Bが定義できて、アミダと同様にしてブレイド図の圏が定義できます。
「ブレイド図=符号付きアミダ」と見なした上で、与えられたブレイド図から符号(プラス/マイナス)を全て取り去ってしまう操作を放電(discharge)と呼びましょう。ブレイド図Aを放電した結果をDischarge(A)と書くと、Discharge(A)はアミダです。このDischargeは次の性質を持ちます。
- Discharge(A;B) = Discharge(A);Discharge(B)
- Discharge(idn) = idn
二番目の等式で、左側のidnはブレイド図で、右側のidnはアミダです(ただし、図形としては区別が付きませんが)。
今後、アミダの話をするなかでブレイド図が出てくるかも知れません。あるいは、この付録だけでブレイドは二度と登場しないかもしれません。ブレイドの様々な側面は『組みひもの数理 (アウト・オブ・コース)』に色々と紹介されています。