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参照用 記事

デカルト閉圏におけるお絵描き計算の基礎

昨日の圏論勉強会に少し顔を出しました。そしたら、たけをさんがお絵描き計算(絵算;pictorial calculation)をしていました(この記事を参照)。けっこうめんどくさい計算をお絵描きしていたので、その場でお絵描き2級を授与しました(少し、はやまった気もするが)。

使っていた描き方は、「デカルト閉圏における絵算 詳細編」のものですが、実は「デカルト閉圏における絵算 オマケ」で補足訂正しているので、新しい流儀を使ってくださいな。新しい描き方を使うと、ベータ変換、イータ変換がより直感的になります。そのことを以下で説明。

内容:

新しい描き方

ラムダ抽象(カリー化)により分岐とループができますが、新しい描き方では:

  1. 分岐ノードを小さな丸で描く。必要なら文字「λ」で印を付ける。
  2. ループの向きは逆方向だと考える。
  3. 指数を表す線は(それが必要なときは)二重線にする。
  4. 「左から右」以外に、「下から上」でもよい*1

指数baの線(ワイヤー、ケーブル)は、順方向のbと逆方向のaを束ねたものだと考えるのです。ですから、evalの接合部分を写実的に描くとこうなります。

青いワイヤーが逆行しているのがミソ。

ベータ変換のアニメーション

ベータ変換に相当する等式 evala,ba(f), ida) = f は、次のようになります。

これをアニメーション(というか、パラパラ漫画)にしましょう。説明は図の後。


  1. ラムダ抽象(λ)とevalの接合器をはずしてワイヤーを露出させます。
  2. aのワイヤーを少し左側に引っ張ると、S字形になります。
  3. aのワイヤーをもっと引っ張るとS字が消えます。
  4. ワイヤーをピンッと張って完了。

引き伸ばしとジグザグ等式

ベータ変換のアニメーションで注目すべきことは、その途中で

  • S字形のワイヤーが出現して、それが引き伸ばされる

ことです。

イータ変換は、ある意味でベータ変換の逆と言えますが、その本質的部分は Λa(evala,b) = idba です。この等式をアニメーションで変形すると、Z字形のワイヤーが引き伸ばされことになります(是非描いてみてください)。

S字形/Z字形のワイヤーの引き伸ばしは、実はコンパクト閉圏の基本的な性質です。次の絵は、「お絵描き圏論」にある絵です。

S字形/Z字形のワイヤーが真っ直ぐに引き伸ばせることは、「三角等式」「剛性(rigidity)等式」などと呼ばれますが、僕は「ジグザグ等式」という用語が気に入ってます。

ジグザグ等式は、コンパクト閉圏の親類になっている圏、例えばテンソル圏でも中心的な役割を演じ、結び目理論、統計力学、表現論、量子群などとも関係するそうです*2

関連するエントリー

圏論的指数が、“計算”の世界とどう関係するかは「圏論的指数の周辺:ラムダ計算、デカルト閉圏、ノイマン型コンピュータ」に書きました。圏論的指数の定義とその周辺のことは「圏論的指数の定義」にあります。

デカルト閉圏の基礎となるデカルト圏については「なぜ『光が影を作ること』と『主張の一部を再主張すること』が関係するのか;あるいは、デカルト圏入門」で説明しました。閉圏という概念については「モノイド圏、豊饒圏、閉圏と内部ホム」が多少は参考になるでしょう。

物理学者もお絵描きが好きなことは、「ボブ・クックの『物理系実務者のための圏論入門』」「『物理系実務者のための圏論入門』への補遺+檜山の戯言」を見ればわかるでしょう。

*1:前もって約束しておけば、どんな向きでもかまいません。

*2:当然ながら(^^; 僕は理解できないけど。