「ベキ等、正規化、計算、射影、観測」は、このエントリーの枕が長くなってしまったので独立させたものだったんです。でここでは、ベクトル空間の射影について、その基本事項を書きます。
内容:
- 射影の像と核
- 部分ベクトル空間による分解
- 直和(直積)空間との足し算による同型
- 例:偶関数と奇関数
●射影の像と核
Uがベクトル空間、P:U→U がP・P = P2 = P のときPを(U上の)射影(projection)と呼びます。次は明らかでしょう。
- I = λu.u は射影
- O = λu.0 は射影
- Pが射影のとき、I - P も射影
X = Im(P) = {x∈U | x = Pu となるuがある}、Y = Ker(P) = {y∈U | Py = 0}とするとき、次が成立します。
- 任意のu∈Uは、u = x + y (x∈X、y∈Y)と書ける。
- X∩Y = {0}
まず上のほうですが、x = Pu, y = u - Pu と置きます。x∈X は明らか。Py = P(u - Pu) = Pu - P2u = Pu - Pu = 0 なので、y∈Y。そして確かに、x + y = Pu + (u - Pu) = u。
二番目; z∈X∩Y とすると、z∈X から z = Pu と書けます。z∈Y から Pz = 0。これらから、z = Pu = PPu = Pz = 0。
言いたいことはこれで全部、もうオシマイです。が、同じことを別な視点から言い換えてみます。
●部分ベクトル空間による分解
ベクトル空間Uの部分ベクトル空間の全体をSub(U)とします。Sub(U)は、集合Xのベキ集合Pow(X)と似てます。X, Y∈Sub(U)のとき、X∩Y はまた部分ベクトル空間なので、(X∩Y)∈Sub(U)。しかし、X∪Y は部分ベクトル空間になりません。X∪Y を含む最小の部分ベクトル空間をX∨Yと書くことにします。定義から (X∨Y)∈Sub(U)。
記号のバランスを良くするために、X∩YをX∧Yとも書きます。すると、X∧YもX∨Yも部分ベクトル空間で、次のように特徴付けられます。
- X∧Yは、Z⊆XかつZ⊆Yとなる最大のZ
- X∧Yは、X⊆ZかつY⊆Zとなる最小のZ
また、X∨Y = {u∈U | x∈Xとy∈Y があり、u = x + y と書ける} である点に注意してください(各自確認)。
2つの部分ベクトル空間 X, Y∈Sub(U) の順序を考慮した組(X, Y)が次を満たすときUの分解(decomposition)と呼ぶことにします。
- X∨Y = U
- X∧Y = {0}
(X, Y)が分解なら、(Y, U)も分解です(それにもかかわらず、(X, Y)と(Y, X)は区別します)。(U, {0}), ({0}, U) は分解の例です。
(X, Y)が分解のとき、X∨Y = U から、u∈U は、u = x + y と書けます。この書き方が一意的であることが次のように分かります;
u = x + y = x' + y' とすると、x - x' = y - y'。z = x - x'(= y - y')とすると、z∈X、z∈Y だから、z∈X∧Y。
よって、z = 0。つまり、x - x' = y - y' = 0。
これから、x = x', y = y' となり、u = x + y という書き方は一意的。
(X, Y)が分解であるという仮定のもと、uを与えると、u = x + y となるx∈Xが一意的に存在することから、次の定義(イプシロン記法)は有効です。
- Pu = εx.[∃y∈Y.(x∈X で、u = x + y )]
この定義から Pu∈X。「a∈Xのときは、Pa = a (aはPの不動点)」であることはわかっているので、PPu = Pu となり、分解(X, Y)から射影Pが構成できます。逆に、射影Pから(Im(P), Ker(P))を作ると、それは分解になっています。P←→(X, Y) と対応するなら、(I - P)←→(Y, X) も対応します。特に、I←→(U, {0})、O←→({0}, U)。
●直和(直積)空間との足し算による同型
(X, Y)がUの分解である条件 X∨Y = U、X∧Y = {0} は、u∈U が x∈X とy∈Y の和として一意的に書けることでした。このことをまた少し言い換えてみます。
X×Yは集合としての直積として、そこにベクトル空間の構造を入れます。こうしてできたベクトル空間は、XとYの直和と呼ばれ、環和の記号を使い X(+)Y と書かれますが、ここではX×Y(直積の書き方)のままでいいとしましょう。
線形写像 S:X×Y→U を、S(x, y) = x + y と定義します。ここで、右辺の足し算はUの足し算です。もともとX⊆U、Y⊆U だったので、x∈Xとy∈YをUの元とみなしてU内で足すことができます。
Im(S) = {u∈U | x∈Xとy∈Yにより u = x + y }なので、Im(S) = X∨Y です。一方、Ker(S)はどうなるかというと、x + y = 0 である(x, y)ですから、x = -y、つまり、(x, -x)のような形をしています。x∈X、-x∈Y なので、x∈X∧Y。つまり、x←→(x, -x)という対応により、X∧YとKer(S)は同型なんです。
以上から:
結局、次が成立します。
- (X, Y) が分解 ⇔ S:X×Y→U が全単射
●例:偶関数と奇関数
今回は、有限次元であることを特に使わなかったので、無限次元空間にもいまの議論を適用できます。Uを区間[-1, 1]で定義された実数値関数の全体(連続とか、なんか適当な条件を付けてもいい)とします。
Uのベクトルとは、関数f:[-1, 1]→Rです。f∈U に対して、
- g(t) = 1/2(f(t) + f(-t))
で定義される関数gを対応させる写像をPとします。つまり、g = Pf。Pg = PPf を計算してみてください。PPfはgと同じなので、PPf = Pf が成立します。つまり、PはU上の射影です。Pが射影なので、Uが2つの部分空間に分解できます。
- Pの不動点であるようなfからなる空間
- Pf = 0 となるようなfからなる空間
Pの具体的な形から、それぞれの部分空間は:
- f(-t) = f(t) であるようなfからなる空間
- f(-t) = -f(t) であるようなfからなる空間
これは、任意の関数を偶関数と奇関数に分けたことになりますね。