「圏の鎖複体を作りたい」において、圏Cに対して鎖複体を作りました。余鎖複体もすぐに作れます。定石に従って作っただけでは何も面白くないのですが、もう少し面白いことの準備としてやってみます。
復習:圏C上の鎖複体
k次元チェーンの集合をChk(C) と書くことにして、k = 0, 1, 2, 3 に対してもう一度具体的に定義を書き下しておきましょう。
- Cの0-単体 = Cの対象
- Cの1-単体 = Cの射
- Cの2-単体 = (cod(f) = dom(g) であるf, gの組 [f, g])
- Cの3-単体 = (cod(f) = dom(g), cod(g) = dom(h) であるf, g, hの組 [f, g, h])
係数は整数(Z)を使うことにして、
- Chk(C) = (Cのk-単体の形式的線形結合の全体)
必要なら、Z以外の係数を使ってもいいですが、ここではZに固定しておきます。
境界作用素 δ1:Ch1(C)→Ch0(C)、δ2:Ch2(C)→Ch1(C)、δ3:Ch3(C)→Ch2(C) は次の通り; ただし、f:A→B、g:B→C、h:C→D。
- δ1(f) = B - A
- δ2([f, g]) = f + g - f;g
- δ3([f, g, h]) = [f, g] + [f;g, h] - [f, g;h] - [g, h]
混乱の心配がないなら、δk(k = 1, 2, 3)を単にδと書き、δ([f, g]) は δ[f, g] と丸括弧を省略することもあります。
コチェーン(余鎖)を考える
ホモロジーよりコホモロジーのほうがたいてい面白いので、チェーン加群の双対を考えることにします。
まず、Aはアーベル群(=Z加群)だとして、A係数のコチェーン加群Chk(C, A)を次のように定義します。
- Chk(C, A) = HomZ-Mod(Chk(C), A)
Z-Modは加群の圏のことです。つまり、ω∈Chk(C, A) とは、ωがChk(C)からAへの足し算を保存する写像であることです。コチェーンはすべてギリシャ小文字で表すことにしますが、α、βなどは0-コチェイン、φ、ψなどが1-コチェイン、ξ、ηなどは2-コチェインだとします。特定の次元を意識しないときはω、τなどを使います。
コバウンダリ(余境界)作用素dk(とりあえず k = 1, 2, 3)は、δkの双対です。つまり、ω∈Chk-1(C, A) と c∈Chk(C) に対して、(dk(ω))(c) = ω(δk(c)) と定義されます。ξ∈Ch2(C, A), φ∈Ch1(C, A), α∈Ch0(C, H) として具体的に書き下すと:
- (d3(ξ))[f, g, h] = ξ(δ3[f, g, h]) = ξ[f, g] + ξ[f;g, h] - ξ[f, g;h] - ξ[g, h]
- (d2(φ))[f, g] = φ(δ2[f, g]) = φ(f) +φ(g) - φ(f;g)
- (d1(α))(f) = α(δ1(f)) = α(B) - α(A)
鎖複体: Ch0 ←δ1 - Ch1 ←δ2 - Ch2 ←δ3 - Ch3余鎖複体: Ch0 - d1→ Ch1 - d2→ Ch2 - d3 → Ch3
定義からすぐに、([追記]下の等式の上付き添字が間違っていたので訂正[/追記])
- d2(d1(α)) = 0
- d3(d2(φ)) = 0
dd = 0 なので、1次元と2次元のA係数コホモロジーはお約束通りに定義できます。が、アーベル群係数の話はこれ以上はしないで、係数を可換とは限らない群、亜群、モノイド圏などに一般化することします。そうすると、ベクトル空間や加群の議論が使えなくなるので、コホモロジーがうまく定義できなくなっちゃうのですけど、それでもコチェーンやコサイクルを調べることはできます。特に、一般化された係数におけるコサイクル条件が具体的に何を意味するかは面白いと思います。でも、スンマセン、それは次の機会に。