コメント欄だと窮屈な感じなので、本文を使って応答します。bonotakeさんの自己ツッコミも参照
bonotake 2009/08/03 11:13
線形代数そんなに詳しくないのですが、双対空間V^* = V→R だから、V^*で構成される圏はFdVectじゃなくて、コンマ圏 (FdVect↓R) になったりしません?m-hiyama 2009/08/03 17:55
bonotakeさん、
> V^*で構成される圏はFdVectじゃなくて、
本文のほうで「V^*で構成される圏」を取り上げたつもりがないのですが、これは何を指しているのでしょう? V, fに「V, fの双対」を対応させる反変関手Dの像となっている圏のことですか?m-hiyama 2009/08/03 18:04
(すぐ上の続き)
ひょっとして、
> 有限次元ベクトル空間の圏は、もとの世界と鏡の世界が重なったような構造を持つのですが
ここの「鏡の世界」=「V^*で構成される圏」という解釈ですか?bonotake 2009/08/03 18:36
>V, fに「V, fの双対」を対応させる反変関手Dの像となっている圏
>ここの「鏡の世界」=「V^*で構成される圏」という解釈ですか?
あ、そうです。そういう解釈してました。
「双対空間V^* = V→R だから」の矢印「→」が、内部ホムのことかと思ったんですが、後でコンマ圏 (FdVect↓R) が出てくるので、「→」は射を表す矢印のようです。とりあえず「→」は射だとして話を進めます。
まず、Vの双対空間が V→R (Rはスカラー体)ってことはないです。FdVect内で、f:V→R の形の射は、線形形式、1次形式、コベクトルなどと呼ばれます。射 f:V→R が双対空間なのではなくて、fが標準双対空間の元(要素)と見なせる、ってことです。
それはそうとして、コンマ圏 (FdVect↓R) とはどういう圏かというと、当該コンマ圏(スライス圏)をCとすると:
- Cの対象は、a:V→R の形のFdVectの射。
- Cの2つの対象 a:V→R, b:W→R があるとき、aからbへの射fとは、FdVect内でf:V→W という射で、f;b = a であるもの。
- Cの対象 a:V→R の恒等射は、idV:V→V 。
- Cの射の結合は、FdVect内の射の結合で定義する。
Cの対象を分かりやすく言えば、「線形形式aを備えたベクトル空間V」です。もうひとつの対象「線形形式bを備えたベクトル空間W」があるとき、線形写像 f:V→W が線形形式を保つとは:
- b(f(x)) = a(x) (x∈V)
が成立すること。線形型式を備えたベクトル空間を対象として、線形形式を保つ線形写像を射とする圏が、(FdVect↓R) (FdVect/R とも書く)です。この(FdVect↓R)が双対性と関係あるかというと、あんまりないですね。
ついでに、次の等式に触れておきます(Rはスカラー体)。
- V* = FdVect(V, R) = HomFdVect(V, R)
この等式の言いたいことは分かるんだけど、こういう表現はやめたほうがいいでしょう*1。左辺のV*は、間違いなくFdVectの対象です。つまり、
- V*∈Obj(FdVect)
ところが右辺は、圏を外から見たときにはじめて認識される集合*2です。
- FdVect(V, R) ⊆ Mor(FdVect)
圏の射全体の集合の部分集合が対象である保証は全然ないので、それらを等号で結ぶのはかなりトンチンカンです。ホムセットFdVect(V, R)を対象と見なす手続きをちゃんとしないとマズイですね。対象とみなしたホムセットを内部ホムとかホム対象と呼びます。内部ホムを外部ホム(本来のホムセット)と同じ記号で表したり、意図的に混同して扱うこともありますが、さすがにイイカゲン過ぎるでしょう。
「V, fに『V, fの双対』を対応させる反変関手Dの像となっている圏」、あるいは「V*, f* で構成される圏」ですが、これはFdVectの部分圏で、FdVectと圏同値となります。
まず、VとV**のあいだに標準的な同型を構成できます。x∈Vに対して、
- x^(ψ) = ψ(x) (ψ∈X*)
と定義して、x|→x^ がその同型です。Vごとにこの同型を考えると、全体としては自然同型になります。双対を対応させる自己反変関手をDとすれば、今の自然同型は δ:: Id⇒D;D : FdVect→FdVect です。成分表示は、δV:Id(V)→D(D(V)) 。これらの事実をもとにチョット退屈な推論をすると、関手Dの像となっている部分圏が、もとの圏FdVectと圏同値なこと、つまり事実上同じ圏であることが出てきます。
おおざっぱに言えば、どんな V でも V* の双対なんだから、「V*, f* で構成される圏」はもとの圏と同じだってことです。