このブログの更新は Twitterアカウント @m_hiyama で通知されます。
Follow @m_hiyama

メールでのご連絡は hiyama{at}chimaira{dot}org まで。

はじめてのメールはスパムと判定されることがあります。最初は、信頼されているドメインから差し障りのない文面を送っていただけると、スパムと判定されにくいと思います。

参照用 記事

その2:XMLへの招待 -- その技術と思想 第20回 (1999年12月)

これは、檜山が1999年末に書いた「月刊アスキー」連載記事の原稿です。体裁を調整しただけで一字一句の変更もしていません。原稿提出後に「月刊アスキー」の編集者(西村さんです)による修正が多少入ったかも知れませんが、ほぼこのまま掲載された内容です。10年以上前の記事なので、ここで公開しても問題なかろうと判断しました。リンク先の多くは今は残ってないと思いますが、そのままとします。原稿中の脚注は、ブログの脚注となっています。

まったくそのままのテキスト原稿は http://www.chimaira.org/archive/xml020.txtエンコードShift_JIS)にあります。また、このエントリーの前後のエントリーも参照してください。




XMLへの招待 -- その技術と思想
第20回 XMLページコンテスト、XMLフェスタ、XML開発者の日
檜山正幸
最終変更時刻: 1999/12/22 06:36:07



今回は、「XML WWWページコンテスト」の入賞作品の紹介と「XML開発者の日(第2回)」の模様を報告しよう。また「XMLフェスタ」についても触れる。これらのイベントの成果は、日本のXML技術・XMLユーザーが着実に水準を上げ、裾野を拡げていることを示している。

XML開発者の日」から生まれた2つのイベント

今年の3月に行われた「第1回 XML開発者の日」は、予想外の成功をおさめた。そして当然に「第2回 XML開発者の日」が企画されたのだが、さらに2つの新しいイベントを生み出すことになった。「XML WWWページ コンテスト」と「XMLフェスタ」である。

XML WWWページ コンテスト」は、XML技術を利用したWebページ(以下XMLページ)を広く募集して、優秀な作品を表彰しようという企画だ。一方「XMLフェスタ」は、XML関連の製品・サービスの展示、講演・セミナー、パネルディスカッションなどから構成される総合的なXMLイベントとなっている。

3つのイベントは、それぞれ次のような役割を持つ*1

  • XML開発者の日」 -- 技術者・研究者の議論と親睦の会合。
  • XML WWWページ コンテスト」-- Web上での表現を競う場。
  • XMLフェスタ」 -- 活用事例やビジネス情報を提供。

これらのイベント群により、技術者、ビジネスマン、Webデザイナという、XMLにかかわる多様な人々に情報提供・情報交換の場を提供できる。

実際、「コンテスト」の結果発表と表彰、「XML開発者の日」を含む3日間(11月11日〜13日)には、多くの人々がつめかけ、XMLの現状や可能性を語り合った。

なぜXMLページコンテストなのか?

最初に「XML WWWページ コンテスト」の発端からの開催、そして審査までの経緯を述べよう。

XML技術は実にさまざまな分野に応用されている。特に注目されているのは、企業間の商取引や受発注のデータとしてXMLを利用する試みである。また、リレーショナルデータベースに代わるデータベース技術としても期待されている。しかしながら、このような大規模ビジネス応用は、一般のPCユーザーからは遠い世界の出来事にようにも思える。実際、電子商取引XMLが応用されたところで、ユーザーからXMLデータが見えるわけではない。

XMLがビジネスに応用されのは事実だが、XML応用がビジネスだけに限られないのもまた事実。XMLの用途や可能性を限定すべきではない。より一層の普及のためには、もっと身近にXMLを感じる機会が欲しい。誰でもが試すことができて、誰でもが見られるXML応用の形、それはWebページだろう。

MicrosoftのIE5は、ほぼ完全なXMLブラウザだから、XMLページのためのクライアント環境は既に揃っている。今すぐに、アイディアと工夫次第で、XML技術を活用したWebページができるはずだ。そして、優れたXMLページは人々にXMLの力をデモンストレートし、さらに多くのXMLページを生み出し、XMLが浸透する助けとなるだろう。

いま述べたことがXMLページコンテスト開催の動機だった。幸いにも、「第1回 XML開発者の日」の収益と企業からの寄付金をもとに実現することができた。W3Cで活躍する村田真さん、日本XMLユーザーグループ代表の川俣晶さんと共に、私も運営と審査員をつとめた。審査はなかなかに手間がかかる作業だったが、それは実に楽しい時間でもあった。

エントリ作品と審査結果

応募締め切りの10月1日までに15の作品がエントリされた。この数は少ないようだが、その水準の高さからいえば、第1回コンテストとしてはたいへんな充実ぶりだった。審査する側としては15でも相当な数で、もし30あったらと想像するとちょっとぞっとする。

これらの作品は、http://www.xml.gr.jp/99contest/ からリンクをたどってアクセスできる。ともかく、まずはご覧になっていただきたい。楽しい作品、見事なプログラミング、予想外のWebページに遭遇できる。審査の総評や入賞作品に対する審査員コメントも読むことができる。

最終的な選考は10月29日にアスキー内の会議室をお借りして行った。村田、川俣、檜山の他に、ページデザインの立場から鈴木徹さん( (株)アイアイジェイ メディアコミュニケーションズ)にも審査に参加していただいた。 結果は次のとおりだ(作者敬称略)。

Jon Bosak氏も感嘆した素晴らしい入賞作品たち

XMLフェスタ」の基調講演には、XMLの父ともいえるJon Bosak氏*2をお招きした。夕方からのレセプションの席で、Bosak氏は「アメリカでは、これほどのXMLページは見たことがない」と語っていた。この言葉はお世辞ではない。日本のXMLぺージは世界的にも高い水準なのだ。

一席の「European Geografic」は、ヨーロッパの地図と地誌データを表示するページだが、ベクトルグラフィックスを使ってスケーラブル(サイズ変更可能な)な地図を実現している(画面$1)。地図そのもの、対話的に表示される様々なデータ(首都、面積、産業別人口など)は、すべてXMLファイルに格納され、XSLTVBScriptにより表示と対話機能を与えている(画面$2)。クライアント(IE5)側で計算や描画を行うので反応は軽快である。それでいて、ラスタ画像データをまったく含まないのでデータ転送量も抑えられている。再利用性や発展性も高く、大規模なシステムになっても高速性を失わない作りとなっている。

  • ==>画面$1 [小林裕治氏作「European Geografic」]

このページがXMLであることを実感するには、ブラウザのソース表示を眺めるとよい。独自タグにより地図・地誌データがマークアップされている。もちろん、別なデータを用意することにより、ヨーロッパ以外の地図システムを作ることは容易だ。XML応用の良きお手本となるページだ。

  • ==>画面$2 [「European Geografic」のXMLソース]

二席には2つの作品、「日曜かてい教師おやじ」と「SmartDoc」が入っている。「日曜かてい教師おやじ」は抜群のコンセプト、「SmartDoc」は技術力で圧倒した作品である。

「日曜かてい教師おやじ」は、算数や英語の問題を提示・採点するページである(画面$3)。一見、表面上は、一昔前のCAI(Computer Assisted Instruction)のようであまりパッとしないかもしれないが、発想と仕掛けが素晴らしい。学習用問題はXMLファイルで与えられる。これらの問題はメールやWebページを通して収集され、インターネット上の問題リポジトリ(貯蔵庫)を形成する。(残念ながら、収集と貯蔵のメカニズムはできあがっていなかった。) 提示される練習問題は、これらのリポジトリから抽出編成される(予定)なのだ。未完とはいいながら、そのプランが評価され二席となった。

  • ==>画面$3 [中村/高橋/川村/大東 氏作「日曜かてい教師おやじ」]

SmartDoc」はユニークな応募作である。Webページというよりはソフトウェアが作品なのだ。XML応用としては正統派であり、単一のXML文書から、HTML、LaTeX、JavaHelpなどへ変換するプログラムがSmartDocである。応募のWebページは、SmartDocにより作られたHTMLページであり、SmartDocを解説するものとなっている(画面$4)。SmartDocは実用性が高い優れたXML応用ソフトウェアであり、Webページもよくできている。抜群の技術力で(XMLページと呼んでよいか疑問であったが)二席をもぎ取った。

  • ==>画面$4 [浅海智晴氏作「SmartDoc」]

その他の作品も力作ぞろい

その他の三席が5作品あり、それぞれに個性的な機能や表現を競っている。三席と選外の境界は微妙であった。もっと正直に言えば、審査員の好みと運で決まってしまったのである。選外でも見るべき作品は多い。

三席の「あめ湯」は実に楽しい作品だ。エンターテイメント性とイラストの質では一番といってよい。「国旗国歌法」は、表現はいまひとつだが、リンク機構(XLink)を使った点で野心的。「The TOWER」はサーバサイドでのXML応用を見せてくれた。「Healing Square」は努力賞である。知恵を絞った工夫や、かけた労力には頭が下がる。「MY EXOTIC FAMILIES」は標準的な作りで新奇性には欠けるが、少し変更して各自のページを作る下敷きには向いている。

選外で私の一押しは「XML暴走族」(http://user.shikoku.ne.jp/kyss/zoku/top.xml)だ。わけの分からない情熱が横溢している。文字通り暴走しているページだが、草の根XMLパワーを見せつけてくれた。

みなさんも、http://www.xml.gr.jp/99contest/ を訪れて、力作の数々を鑑賞していただきたい。

第2回も活気と熱気に満ちた「XML開発者の日

11月13日(土曜)は、「第2回 XML開発者の日」だった。次の9つの発表が行われた。

  1. Unicodeテキスト処理とその周辺 (前寺正彦)
  2. 迷走する統一文字団への諫言(かんげん)楽組曲 (小林龍生 + 川俣晶)
  3. XML法情報データベースの課題(夏井高人)
  4. 改正法律対応の法令データベース(和田悟)
  5. 法令とリンク情報(小松弘)
  6. XMLエディタ実装の手法と問題点 (難波亮丞 + 檜山正幸)
  7. XMLを使った電子出版交換フォーマット JepaX (渋谷誠)
  8. XMLデータベースを用いたワークフロー管理システム (桑原のりあき)
  9. DSIG: XML文書への電子署名 (丸山宏)

文字では雰囲気を伝えることができないのが悔しくてならないのだが、簡単にその内容を紹介しよう。

午前中は文字に関する話題が2件。最初の発表者は前寺さん。この発表は、Unicode標準を復習し、規格の曖昧さや実在する実装の不具合などを詳細に報告したものだ。ここまで執拗にUnicodeの動向を追いかけている日本人がいることに驚いたり、感心したり。次はおなじみの小林さん、川俣さんのタッグチーム。Unicodeコンソーシアムの内部から(小林)、そして外部から(川俣)、最近のUnicode拡張*3の動きを厳しく批判した。

午後の3件は、いずれもSHIP(社会・人間・情報プラットフォーム)プロジェクトからの報告である。法律情報データベースにXMLを応用する計画と、さまざまな問題点を指摘した*4。夏井さんの情熱的なトークには、会場からも熱心な質問があった。和田さんによる改版履歴管理(versioning)問題の指摘、小松さんによる階層構造や参照の精密な分析など、XML専門家にも新鮮な話題だった。

次の2件は、XMLオーサリング(文書作成)と出版に関するもの。難波さんの発表(私もほんの少しお手伝いした)では、WYSIWYGワープロユーザーインターフェースを備えながらも、内部的には完全なXMLエディタとして設計された「一太郎Ark」の構造や開発上の問題点を、とぼけたジョークをまじえながらも切々と語った*5。渋谷さんは、日本の電子出版の標準フォーマットとすべく開発が進んでいるXMLタグセットJepaXに関して報告。オーサリングと出版の環境が整うことで、XML文書が紙に取って代わる状況が見えてくる。

最後の二件は、XMLを現実のビジネス、シビアな応用へと適用する話である。桑原さんは、現実に稼働してるワークフロー管理システムを、CORBAやXMLデータベースeXelonとの関係を含めて解説された。丸山さんの発表は、現在ホットなXML電子署名の諸側面を要領よくまとめた報告である。このお二人の発表には、会場から実務的な質問がさかんに浴びせられた。

このように羅列してしまうと、 なんだかたんたんと発表が進んでいったようだが、実際は違う。タイムキーバーの村田さんと私は大いに苦労した。どの発表も中身が濃く、規定の時間ではもの足りない。会場からの質問も次から次に湧き起こる。熱のこもった質疑応答が続く。お昼とお茶の時間を大幅に短縮しても、30分、40分と時間が超過してしまう。これが朝10時から午後6時半まで。ほとほと疲れ果てた。が、こんなに心地よい疲れもまたとない。日本でもXML技術が着実に進化していること、その水準は世界に引けを取らないことを楽しく確認できた一日だった。

Jon Bosak氏の語ったXMLチームワーク

XMLフェスタ」の初日、Jon Bosak氏による「XMLチームワーク」というタイトルの講演が行われた。チームワークの意味は、XML関連諸仕様の関係でもあるし、業界、企業、人々が互いに協力して、XML基盤を構築し、また応用していく体制を意味する。

  • ==> イメージ [「XMLフェスタ」で語るJon Bosak氏]

XMLそれ自体は、色を持たない技術である。どのような対象にも応用できるし、どのようにも運用できる。使い方によっては、非効率や混乱をまねくかもしれない。XMLだけで再利用性や相互運用性を保証できるわけではない。使う側が注意深く使うとき、期待された能力を発揮できるのがXMLである。そして、有効な使い方の鍵を握るのは、多くの場合、人々の協力や合意である。

ベンダーが不注意に非準拠な製品を作ったり、ユーザー集団(たとえば企業)が、それぞれに非互換なタグセットを設計すると、相互運用性は実現しない。今や、オープンで公平なプロセスにより、協調してXMLプラットフォームを整備すべき時期が来ている。XMチームの一員として行動すること、それを自覚しなくてはならない。

さて次は

私はXHTMLの意義を高く評価している。前回XHTMLに簡単に触れたが、もう少し深く掘り下げる価値がある話題だ。という次第で、次回はXHTMLインパクトとは何であるか、XHTMLをどう利用すべきか、などについて考えることにしよう。

参考URL

*1:XMLフェスタ」という名称の使い方はやや混乱を招いたようだ。「XMLフェスタ」は、「XML開発者の日」と「XMLページコンテスト」を含むイベント群全体を指すつもりだったが、実際には11月11日/12日の展示・セミナーなどを指す意味で使っていた。もう少し整理したネーミングが必要なようだ。

*2:XMLのアイディアをW3Cに提案し、XML WG議長として「XML 1.0」制定の中心人物であった。現在は、XML CG (Coordination Group)の議長である。

*3:ルビ(フリガナなどの上付き、横付きの小さな文字)、数学記号などをUnicodeの範囲内で実現しようという提案。

*4:XMLの元となったSGMLは、法律データベースのプロジェクトから生まれたものだ。その意味で、法律とマークアップ技術は、伝統的に関係が深いのだ。

*5:難波さんと私の発表内容の一部は、http://www.justsystem.co.jp/ark/ の下に発見できるだろう。このページは、開発者の赤裸々な声がのっていて、なかなか楽しめる。