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参照用 記事

これならいじれるぞ、2-圏の簡単な例

2-圏(厳密な2-圏、強2-圏)の例としては、たいてい“圏の圏”Catが使われます。確かにCatは面白いし、Catを2-圏として理解することは役に立つとは思います。が、Catは難しいですよね。「n-圏とは何だろう」において、より簡単な2-圏の例として順序集合の圏を紹介しました。でも、まだ難しいような… そこで今日は、行列だけで2-圏を作ってみます。

内容:

  1. 非負行列の圏
  2. 非負行列の順序
  3. ホム圏と横結合
  4. 2-圏の法則
  5. 参考エントリー

非負行列の圏

ゼロまたは正の数を非負の数といいます。整数でも実数でも、非負ならなんでもいいです。成分がすべて非負の数からなる行列を、ここでは非負行列と呼ぶことにします。

非負行列を掛け算しても非負行列です。単位行列は非負行列です。よって、非負行列の全体は圏となります。行列の圏部分圏です。この圏をNNMat(NonNegative Matrix)と呼ぶことにすると:

  • |NNMat| = Obj(NNMat) = 非負の整数 = {0, 1, 2, ...}
  • NNMat(n, m) = m行n列の非負行列の全体
  • domは列の数、codは行の数
  • idn単位行列
  • 射の結合(composition)は行列の掛け算

非負行列の順序

AとBは、同じサイズ(列の数と行の数)の行列だとします。成分どうしを比較して、どの成分に関してもAよりBが大きいとき、A≦B と定義します。A[j, i]を「j行i列の成分」だとしてハッキリと書くと:

  • A, B∈NNMat(n, m)、
  • どんな 1≦i≦n, 1≦j≦m に対しても A[j, i]≦B[j, i]、
  • このとき、A≦B。

この関係≦はあきらかに順序関係です。

  • A≦A
  • A≦B かつ B≦C ならば A≦C
  • A≦B かつ B≦A ならば A=B (これは使わない)

あまりにも素朴(悪い意味でナイーブ)で、こんな順序を定義しても意味が無いように思えますが、そうでもないんです。次の性質があります。

  • A, B∈NNMat(n, m)、C, D∈NNMat(m, k) のとき、A≦B かつ C≦D ならば CA ≦ DB

ここで、CAは普通の行列の掛け算です。掛け算を逆順に書くときはセミコロンを使うことにして(つまり、A;C = CA)、圏論ぽい記法で書くと:

  • A, B:n→m、C, D:m→k のとき、A≦B かつ C≦D ならば A;C ≦ B;D

ホム圏と横結合

2-圏とは、ホムセットが単なる集合ではなくて圏の構造を持つものです。非負行列の圏におけるホムセットはNNMat(n, m)ですが、上で述べたことから順序集合になります。ところが、順序集合は圏とみなせるんですよね。「はじめての圏論 その第3歩:極端な圏達」を参照してください。

これで、各ホムセットが圏になっている構造ができました。A≦B であるような行列のペア (A, B) がホム圏(圏であるホムセット)の射です。わかりやすいように、そのようなペアを [A≦B] と書きましょう。高次圏の用語法で言い換えると:

  • NNMatの0セルは非負整数である。
  • NNMatの1セルは非負行列 A:n→m である。nとmは0セル。
  • NNMatの2セルは [A≦B]::A⇒B:n→m である。nとmは0セル、AとBは1セル。

ホム圏の対象は非負行列、ホム圏の射は順序です。ホム圏における射の結合は、順序の推移律で与えられます。

  • [A≦B];[B≦C] = [A≦C]

さて、各ホムセットが圏になっているだけではまだ不十分で、2-圏では2セルの横結合(水平結合、並列結合)が必要です。横結合は星印で表すことが多く、スター積と呼ぶこともあります。順序の横結合=スター積は次のように定義されます。

  • A, B:n→m、C, D:m→k のとき、[A≦B]*[C≦D] = [A;C≦B;C]

この定義が有効(well-defined)であることは、「A≦B かつ C≦D ならば A;C ≦ B;D」が保証します。

2-圏の法則

NNMatの0セルと1セルは圏を構成していました。ホムセットNNMat(n, m)は圏となりますが、この圏(ホム圏)の対象は1セル、射は2セルです。2セルをα、βなどで表し、特に [A≦A]はιAとします。次は、「圏になってます」の表現です。

  • (α;β);γ = α;(β;γ)
  • α;ιA = α
  • ιA;α = α

横結合に関しても結合律と単位律は成立します。

  • (α*β)*γ = α*(β*γ)
  • α*ιI = α
  • ιI*α = α

ここでιIは、正確に書くと、サイズnの単位行列Inに対する[In≦In]のことです。

2セルの縦結合と横結合のあいだには次の関係があります。

  • (α;β)*(γ;δ) = (α*γ);(β*δ)
  • ιAB = ιA;B

これは交替律です。

参考エントリー