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参照用 記事

圏論小ネタ:ヤン・バクスター方程式の圏論的な意味

先週末のエントリー「圏のクリーネスター構成 -- エフイチに触発されて」において、次の図を出しました。

これは、ヤン・バクスター方程式(Yang-Baxter equation)です。ライデマイスター移動III(Reidemeister move III)ともいいます。もともとはブレイドに関連する関係式なので、手前と奥が区別されていますが、アミダのように単なる交差だけを問題にするなら、手前と奥の区別は不要です。このエントリーでは、交差(対称、置換、ツイスト、フリップ、スワップなど色々な呼び名があります)だけを問題にします。

「圏のクリーネスター構成 -- エフイチに触発されて」と同じ記法を使うことにしますが、モノイド積は「+」、モノイド単位は「0」で表すことにします。(C, +, 0)がモノイド圏のとき、σa,b:a+b→b+a が対称を与える射の族だとします。σはヤン・バクスター方程式を満たす必要があります。ヤン・バクスター方程式は絵で描くほうが断然分かりやすいですが、記号テキストを使った表現は次です。

  • a,b+c];[b+σa,c];[σb,c+a] = [a+σb,c];[σa,c+b];[c+σa,b]

ヤン・バクスター方程式は基本的な関係ですが、より基本的な性質から導出できます。その性質とは:

  1. σが自然変換であること
  2. σが指数法則を満たすこと

σが自然変換であること

モノイド積+は、C×C→C という二項関手(双関手)です。Tをペア(二項タプル)の順番を入れ替える関手とします; T:C×C→C×C。すると、σは、関手+からT;+ への自然変換です。と言っても分かりにくいので順番に説明します。T;+ を +' と略記して、+ と +' を具体的に書き下します。中置演算子を前置の関手記号としても使います。

  1. +[(a, b)] = a+b
  2. +[(f, g):(a, b)→(x, y)] = (f+g:a+b→x+y)
  3. +'[(a, b)] = b+a
  4. +'[(f, g):(a, b)→(x, y)] = (g+f:b+a→y+x)

一般に、α::F⇒G:D→E が自然変換である条件(自然性)は、次の可換図式となります。


F(a)- F(f) →F(b)
| |
α_a α_b
| |
v v
G(a)- G(f) →G(b)

σ::+⇒+':C×C→C に関して書き下すと:


+[(a, b)]- +[(f, g)] →+[(x, y)]
| |
σ_(a,b) σ_(x,y)
| |
v v
+'[(a, b)]-+'[(f, g)]→+'[(x, y)]

もっと分かりやすい記法を使うと:


a+b - f+g → x+y
| |
σ_(a,b) σ_(x,y)
| |
v v
b+a - g+f → y+x

等式で書けば次のようです。

  • (f+g);σx,y = σa+b;(g+f)

絵で描くとずっと鮮明です。

σが指数法則を満たすこと

指数法則と言ったのは次の等式です。[追記]次の等式(同型)を文字通り解釈すると変ですね。下にある絵のほうを信じてください。x+yによる作用がxによる作用とyによる作用の繰り返しと同じって点では指数法則っぽいです。[/追記]

  1. σa,x+y = σa,xa,y; (間違っている)
  2. σa,0 = a
  3. σa+b,x = σb,xa,x; (間違っている)
  4. σ0,x = x

これはアクション性とかバニッシング法則と呼ぶこともあります。主張している内容は次の絵と同じことです。

ヤン・バクスター方程式の導出

次の絵の通り(絵の上段は自然性を再掲)。