圏Cがデカルト圏だとして、Cの対象Aを掛け算する関手 (-×A) に随伴の相方Gがあれば、C(X×A, Y) = C(X, G(Y)) (イコールは集合の同型)が成立します。この G(Y) を、普通は YA と書いて「指数」とか「ベキ」と呼びます。
YA という書き方は、普通の指数との類似性を暗示するには好都合で、例えば、(YA)B = YA×B のような公式が自然に思えます。しかし、Aを右肩に乗せるので、指数が入れ子になると書きにくく見にくくなります。それに、プレーンテキストにおいて右肩添字を書くことはできません。
YA の代わりに [A, Y] と書く流儀もあって、これなら [B, [A, Y]] のような入れ子も簡単に書けます。この書き方は、デカルト圏、より一般に対称モノイド圏までは具合がいいのですが、必ずしも対称ではないモノイド圏の指数になると困ってしまいます。
圏Dにモノイド積 □ があって、これが対称とは限らないとき、D(X□A, Y) = D(X, G(Y))、D(A□X, Y) = D(X, H(Y)) となるG(Y)とH(Y)が一致する保証はありません。[A, Y] という書き方では、G(Y)とH(Y)の区別を付けられません。方向が問題なので、Y←A と A→Y で区別する方法がありますが、単に矢印を書くと他の矢印の用法と混乱します。折衷案として、[Y←A] と [A→Y] で書き分ければ、まーなんとかなります。
[Y←A] と [A→Y] はなんかミットモナイ感じ(特に根拠はない)もするので、特別な矢印記号を使う例もよくあります。が、特別な記号はまた「書くのが困難」という問題が生じます。そこで、論理の含意記号を流用するってテもあります。「⊃」と「⊂」があるので、Y⊂A と A⊃Y として使えます。
ところが、Y⊂A は集合の包含関係と同じ記号です。A⊃Y だって集合の包含と混同される危険がありますが、「⊃」を使う機会が少ないので「⊂」よりはマシなのです。
というわけで、どれも一長一短、推奨できる記法がありません。僕は、しょうがないのでケースバイケースで全部使いますが、「集合の包含じゃないよ」と断った上で、「Y⊂A と A⊃Y」がいいかな、と思っています。