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参照用 記事

マックレーンの五角形の絵

高階の構造が簡単になってしまう現象を確認しようと思ってるんですが、普通の計算を追いかけるのは出来そうにないので、絵を使おう、と。ところが、しばらく絵を描いてなかったら、うまく絵も描けない、と。それで、モノイド圏の一貫性のひとつであるマックレーンの五角形の絵でも描いてみるか、と。

以下では、逆三角形∇を、なんらかの意味の掛け算として使います。例えば、Aが集合として、∇:A×A→A のように書きます。∇は二項演算ということですね。今の例では、Aと∇は、集合圏の対象と直積自乗から自分への射となっています。より一般に、モノイド圏 C = (C, ×, 1) 内の二項演算を表すために∇を使います。

恒等射idAのAが知られているとき、idAを大文字アイIで略記します。射f, gのモノイド積 f×g を単なる併置(juxtaposition)f g で略記していいとします。恒等射のモノイド積 I×I は I I、空白も書かなければ II となります。モノイド積に関するベキ(累乗)を考えると、I1 = I, I2 = II, I3 = III, ... となるので、ローマ数字(「ギリシャ数字」は誤用とか)のようになります。I0 は何も書かないのがふさわしいですが、その意味は id1 です。

結合律とマックレーンの五角形

以上に説明した記法を使うと、∇の結合律は次のように書けます。

  • (∇ I);∇ = (I ∇);∇

掛け算(二項演算)∇を使って4つのモノを掛け算する方法はいくつかあります。全部列挙すると次の5つです。

  1. (∇ ∇);∇
  2. (I I ∇);(I ∇);∇
  3. (I ∇ I);(I ∇);∇
  4. (I ∇ I);(∇ I);∇
  5. (∇ I I);(∇ I);∇

これらが全部同じ結果を与えますよ、ってことを絵に描くと次のようになります。マックレーンの五角形です。

マックレーンの五角形は、モノイド圏の結合律に関する可換図式ですが、文字通り「二分木を連続変形するときのパラメータの空間」ともみなせます。これはほんとに、「5頂点、5辺、1面」の図形です。より一般にはアソシアヘドロン(associahedron)と呼ばれる図形となるようです。

串団子の変形

先の図で、1から5の番号の横に串団子のような印が添えられています。これは、それぞれの計算に登場する3つの掛け算(∇)の配置を簡略に表したものです。∇の代わりに●を使い、余分な線は省略しています。

この串団子を使ってマックレーンの五角形を描いてみましょう。

団子(黒丸)から出る点線の矢印が、団子の移動方向を示しています。移動した結果の団子は赤丸で囲ってあります。1から5へ、反時計回りにたどっていきます。

この図は、全体の一部だけを取り出して略記しただけなので、現象の本質を捉えているようなことはないでしょう。その点はご注意ください。

結合律の適用箇所

結合律を与える同型射は、associator, associative law, associative structure isomorphism とか呼ばれ、α(アルファ)で表記されることが多いようです。ここでもαを使います。αは自然変換なので α::(∇ I);∇⇒(I ∇);∇ と書くのがふさわしいでしょう。また、αは可逆なので、α-1::(I ∇);∇⇒(∇ I);∇ が存在します。

マックレーンの五角形の辺を周回するとき、二分木のどの部分にαを適用するかを描いてみました。赤、青、緑で囲んだ部分にαまたはα-1が適用されて、二分木が変形します。図中、変形の矢印の上に書かれている記号はなんだかイイカゲンだし間違ってたりするので信用しないでください

マックレーンの五角形は、絵の描き方を思い起こす練習にはちょうどいいようです。