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参照用 記事

指数法則に類似のセクション公式

コンストラクタやクローニングの表示的意味論:多オブジェクト系とフォック構成 (1)」の続きである「(2)」を書こうかと思ったんですが、「(2)」で使うであろう、ちょっとした公式を先に説明しておきます。

ex + y = ex×ey という指数法則はご存知でしょう。eの右肩(指数)に乗った足し算が、右辺では掛け算になっています。exp(x) := ex と置いて、少し一般化すれば次の公式になります。

  • exp(x1 + x2 + ... + xn) = exp(x1)×exp(x2)× ... ×exp(xn)

この公式に類似した集合に関する同型を紹介します。

内容:

総和と総積

x1, x2, ..., xn というn個の数があったとき(同じ値が重複して出現してもよい)、これらすべての和 x1 + x2 + ... + xn を総和記号であるΣ(大文字シグマ)を使って次のように書きます。

  • Σi = 1 .. n(xi)

Σに対する下付きを使うのが面倒なので、次の書き方も許しましょう。

  • Σ(i = 1 .. n | xi)

さらに、I = {1, 2, ..., n} とすれば、

  • Σ(i∈I | xi)

と書けます。

同様に、x1, x2, ..., xn をすべて掛け算した積 x1×x2× ... ×xn を総積記号であるΠ(大文字パイ)を使って次のように書きます。

  • Πi = 1 .. n(xi)
  • Π(i = 1 .. n | xi)
  • Π(i∈I | xi)

集合の総和と総積

X1, X2, ..., Xn は、数ではなくて集合の族だとします。つまり、n個の集合(同じ集合が重複して出現してもよい)が与えられているとします。

これらすべての集合の直和 X1 + X2 + ... + Xn も総和記号Σを使って書きましょう。なお、直和とは、互いに共通部分がないように必要ならコピーを作って合併することです。

  • Σi = 1 .. n(Xi)
  • Σ(i = 1 .. n | Xi)
  • Σ(i∈I | xi)

集合Xi達すべての直積 X1×X2× ... ×Xn もΠを使って書きます。

  • Πi = 1 .. n(Xi)
  • Π(i = 1 .. n | Xi)
  • Π(i∈I | Xi)

バンドルとセクション

今まで I = {1, 2, ..., n} としてきましたが、Iは任意の集合とします。{Xi | i∈I} は、Iを添字集合(インデックス集合)とする集合族とします。ただし、Xiは空ではないとしておきます。つまり、i∈I ごとに空でない集合Xiが割り当てられているのです。Iがどんな集合であっても、Xi達の直和は構成できるので、Σ(i∈I | Xi) は意味を持ちます。

E := Σ(i∈I | Xi) と置くと、y∈E とは、「k∈I が一意的に定まって y∈Xk」のことです。y∈E ごとにkが一意に決まるので、その対応をπ(小文字パイ)とすると、π:E→I という写像が定義されることになります。

E := Σ(i∈I | Xi) と π:E→I をバンドルと呼びます。バンドルはもともと幾何学的な概念ですが、位相的な条件を抜き去ると、ここでの定義となります。{Xi | i∈I} が与えられれば、π:Σ(i∈I | Xi)→I は自動的に作れるので、添字集合がIで空でないメンバーを持つ集合族とI上のバンドルは1:1に対応します(対応はup-to-isoですが)。

π:E→I がバンドルであるとは、結局のところ、πが全射であることと同じです。あえてバンドルと言うのは、i∈I ごとに π-1(i) が“ファイバー”として生えているイメージを強調するためです。π:E→I に対して、写像 f:I→E が、f;π = idI を満たすときセクションと呼びます。f(i)がπ-1(i)に入っているような写像がセクションです。

Iを横軸、π-1(i)達を長さが不揃いな縦軸の束<たば>だと考えると、点 (i, f(i)) 達は、普通の感覚で「関数のグラフ」に見えることになります。各縦軸ごとにグラフ上の点は一点だからです。

セクション集合と直積

一般に、π:E→I がバンドルのとき、このバンドルのセクションの全体を Γ(π:E→I)、あるいは(不正確だが)より簡単に Γ(E) と書きます。定義を繰り返すと: f∈Γ(E) とは、f:I→E で、f;π = idI のことです。

Σ(i∈I | Xi) は、本来「添字集合がIで、空でないメンバーを持つ集合族の総和」を意味するものです。集合の総和の意味を少し拡張解釈して、π:Σ(i∈I | Xi)→I というバンドル構造も一緒に考えることにします。

Σ(i∈I | Xi) をバンドルと考えれば、そのセクション集合 Γ(Σ(i∈I | Xi)) が定義できます。f∈Γ(Σ(i∈I | Xi)) とは、fが、f(i)∈Xi であるような写像 f:I→Σ(i∈I | Xi) ということです。

指数法則に類似のセクション公式

前節の f∈Γ(Σ(i∈I | Xi)) の定義から、fはIを添字集合に持つタプルです。つまり、Γ(Σ(i∈I | Xi)) はタプルの集まりです。タプルの集まりを直積と呼ぶのでした。ですから、

  • Γ(Σ(i∈I | Xi)) = Π(i∈I | Xi) (集合の同型の意味で)

和が積になるという点で指数法則に似てるでしょ。