計算科学で使う圏論は、だいたいは半世紀ほど前には出来ていたものです。例えば随伴関手; http://en.wikipedia.org/wiki/Adjoint_functors#History によると1950年代ですね(The idea of an adjoint functor was formulated by Daniel Kan in 1958. )。米田の補題はそれより前の1954年です。モナドの理論にしても、ベックの分配法則も含めて、1960年代には出来上がっていたと言っていいでしょう。スピヴァックの関手データモデルはごく最近の話題ですが、使っている圏論は初等的なものです。
というわけで、21世紀のモダンな圏論を知る/使うような機会はないですね。ジェイコブ・ルーリー(Jacob Lurie)が何やらやっているらしい事は知ってますが、僕の手が届くようなシロモノじゃないし。スピヴァックを通じて、間接的にルーリー的な発想をチョビっとはうかがい知ることが可能かなぁー?? という程度。
昨日、渋谷のMARUZEN&ジュンク堂書店に寄ったら、雑誌バックナンバーのコーナーで:
- 数理科学 2012年8月号 導来圏をめぐって
を見つけました。最初のページは http://www.saiensu.co.jp/preview/2012-4910054690828/201208.pdf で読むことができます。
同誌の上原北斗さんの記事「速習! 導来圏」によると、導来圏も新しいものではなくて「1960年代にGrothendieckと彼の学生Verdierによって導入された概念である」と。これもグロタンディークかよ、って感じです。とはいえ、上に引用した高橋篤史さんの緒言からも分かるように、解説記事は21世紀に入ってからの発展を話題にしています。
高橋さんの「導来圏の雰囲気」で雰囲気を感じて、上原さんの「速習! 導来圏」で速習した気分になって、あとの記事はチラ見。雰囲気と気分以上の理解は得られないのですが、現在の数理物理(のある分野)における圏論の使い方は凄まじいものがあるなー、と思いました。物理的直感に対応する理論的な存在物が導来圏あたりに棲んでいるらしいのですね。ふーむ。
導来(derived)という言葉の感じから、「ナントカの導来圏」と使うのだと思いますし、実際そのような用例が多いですが、上原さんの記事によると:
アーベル圏から上記の方法で作る導来圏が導来圏の起源であるが、最近はアーベル圏以外からでも似たような操作でできる三角圏のことを導来圏と呼ぶことも多い。
どこから来たかの由来を問題にしないなら、導来圏≒三角圏 みたいです。僕の印象では、計算科学とアーベル圏はあまり相性がよくないように思えます。しかし、アーベル圏以外からも導来圏が作れるなら、僕も導来圏に出会うチャンスがあるのかも/ないのかも。
このエントリーのタイトルは、高橋篤史さんの記事冒頭のエピソードから取ったものです。