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余代数を知りたいなら、これだ

先日「代数と余代数、クラスと余クラス」というエントリーを書きました。これは、あまり正確さは気にしない「おはなし」です。「おはなし」であっても、雰囲気や感じをつかむにはそれなりの意味があると思っています。もう少し補足をする気はあるのですが、正確で体系的な記述は、能力・気力・体力の点で僕の手には余ります。代数と余代数に関する(余代数が中心の)良い教科書や資料はたくさんありますので、おすすめできる解説を挙げておきます。

バート・ヤコブスとヤン・ルテンは、この分野の第一人者*1と言って間違いないでしょう。たまたまま僕が知っている範囲では、他に A. Kurz、M. Bidoit、R. Hennicker、R. Goldblatt、Dusko Pavlovic などの著作物が参考になると思います。隠蔽代数に関してはゴグエン(Joseph Goguen)のページから情報を得られます。

とりあえず余代数について知りたいなら"Exercises"を読んでみてください。この解説は、計算科学への応用を念頭に、圏論をあまり使わず、43ページとコンパクトに書かれています。より本格的な教科書なら"Universal"、終余代数(final/terminal coalgebra)の存在定理も書いてあります。もっと本格的かつ網羅的なら"Introduction"ですね。論理学や計算科学だと、なぜか本格的で難解な書籍にIntroductionとタイトルを付けるのが習慣みたいですが、"Introduction to Coalgebra"もこの慣例にならっているのかもしれません。

僕は、ヤコブスの"Introduction"はまったく読んでません。けど、ヤコブスの著作だから安心しておすすめできます。だいぶ前から出版予定の書籍のドラフトとしてインターネットに公開されていることは知ってました。はじめて見たときの倍以上に膨らんでいるので執筆は進んでいるのだと思いますが、まだ出版はされてないようです。

ルテンの"Universal"はよく参照されているのを見かけます。標準的なテキストなんでしょう。最初のほうに例がいっぱいあって面白いです。終余代数や余帰納法あたりは挫折しました。

結局、ある程度目を通したのは短い"Exercises"だけです(情けない)。それも、並列処理の実例である9節(Petersonのアルゴリズム)は飛ばしているし…。まー、バート・ヤコブスさんは説明がうまいので、ザッと読んでも余代数のエッセンシャルな部分は汲み取れます。圏と関手を全面的に使う代わりに、集合に対する多項式関手の対象部分(object part)だけを使ってます。実働している(らしい)仕様記述言語を使っているのも具体性があります。

"Exercises"で多項式関手を使っているのはゆえ在ることで、具体的でハッキリと構成できる関手というと多項式関手ってことになると思います。多項式関手に関しては、"Polynomial functors and polynomial monads", Nicola Gambino, Joachim Kock あたりを読むといいかもしれません。

*1:第一人者が二人いるのか? ってツッコミは置いといて。