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参照用 記事

最強のモナドとモナド工場の秘密

Mがモノイドのとき、集合Aに対して F(A) = A×M と定義すると、これをもとに集合圏の上のモナドを作れます。より詳しくは次の記事を参照してください。

二番目の記事で次のように書きました。

モノイドの実例は他にも大量にあるので、スタンピングは、モナドの大量生産を可能にします。つまり、スタンピングの技法をマスターすれば、モナド工場を手に入れたことになります。

スタンピングとは、F(A) = A×M のように、直積で掛け算する関手のことです。集合圏に限らず、モノイド圏CとそのなかのモノイドMがあれば、MをもとにC上のモナドFを構成できます。

C内のモノイドの圏を Monoid(C)、C上のモナドの圏を Monad(C) とすると、Monoid(C)→Monad(C) という埋め込み関手があることになります。この埋め込みの像を特定する方法はないだろうか? と去年(2012年)の春に考えていました。

タイトルにあるように、よく分かりませんでした。

モノイドで表現されるモナドの特徴付け、どなたかご存知ですか?

たまたま、Kruna Segrt Ratkovic, "Morita theory in enriched context"という論文を眺めていたら、答が書いてありました。ポイントはテンソル強度だったんです。

モノイド圏C上のモナド F = (F, η, μ) に対して τA,B:A×F(B)→F(A×B) という自然変換で特定の性質を満たすものがFのテンソル強度です。「モナドとテンソル強度のサンプル」に、テンソル強度の説明があります。

テンソル強度付きのモナドモナド(strong monad)と呼びます。強モナドは、単なるモナドより都合がいいことがあります。特にクライスリ圏に積を作るときにテンソル強度が利用されます。Kruna Segrt Ratkovicは、最強モナド(very strong monad)という概念を定義します。最強モナドとは、テンソル強度の成分 τA,B:A×F(B)→F(A×B) が常に同型射となるものです。

「モノイドで表現されるモナドの特徴付け」の結論を言うと、「Fがモノイドで表現されるモナド ⇔ Fは最強モナド」だったのです。Iをモノイド圏の単位対象とすると、同型なテンソル強度を使って F(I) にモノイド構造を構成できます。M = F(I) と置くと、F(-) は (-)×M と同値な関手となり、導かれるモナドも同値となります。この事実の証明に特別な技巧は必要ありません。定義を順番に適用するだけです。

なーるほど、テンソル強度だったのかぁ。モナドを大量生産するモナド工場から出てきたモナドは、実は最強モナドだったのですね。最強(very strong)であることが、工場製品のあかしであると。

同型なテンソル強度の存在は、モナドの原料であるモノイドの存在を導きます。同型でないにしろ、テンソル強度付きのモナド(強モナド)はモノイドから作られたモナドに近いことになります。テンソル強度にモノやエピの条件を付ければ、最強モナドに近づきます。より、モノイドっぽくなる、ということです。テンソル強度って、モノイドっぽさを計る物差しだったんですね。


誰も気が付かないと寂しいから、不粋ならが自分で書いてしまおう:タイトルの「最強のモノイド」は映画『最強のふたり』、「モノイド工場の秘密」は映画『チャーリーとチョコレート工場』の原作児童小説『チョコレート工場の秘密』をもじったつもり。どちらもお勧めの映画。