少し前の話ですが、10月26日(土曜)に「SGL読書会 第8回=最終回」というイベントがありました。
MacLane and Moedijk, ”Sheaves in Geometry and Logic: A First Introduction to Topos Theory” (SGL、またの名を『萌え本』、ISBN: 978-0387977102) をテキストにした読書会です。僕は最終回で初めての参加でした。ジョニー深川さん(id:hiroki_f)がペンシルベニアに留学するので、その壮行会を兼ねているとのことで顔を出しました。
そこで、佐藤桂さんやふじた・ともみ(漢字は分からない)さんの話に「丸山さん」という名前が何度も登場していました。現在はオックスフォードにおられる丸山善宏さんのことです。
その丸山さんの雑誌記事(「数学セミナー」2012年5月号)を僕は読んでないし入手も出来ないのですが、インターネットで次のPDF記事を見つけました。[追記 date="2017-01-04"]残念ながら、PDFがダウンロード出来なくなっているようです。[/追記]
- 圏論的双対性の理論入門
- http://researchmap.jp/?action=multidatabase_action_main_filedownload&download_flag=1&upload_id=45909&metadata_id=16302
これはもの凄く示唆に富む論説です。
古典論理のストーン双対性を圏論的な双対性の有限的/コンパクトな典型的事例として位置付け、無限的/非コンパクトなケースとしては幾何的論理を対比させています。幾何的論理(geometric logic)は、「SGL読書会」のテキストである"Sheaves in Geometry and Logic"の主要なテーマでしょう(たぶん、僕は最終回だけしか出てないので半分憶測)。
古典論理のストーン双対性が、代数幾何の枠組であるスペクトルやスキームと類似であることも詳しく解説されています。ここらへんの話題は、2005, 2006年あたりに僕も取り上げたことがあります。具体的な計算も書いてあるので、多少は参考になるかもしれません。
似た話題を扱った他の記事は、次のエントリーから参照されています。
特に、「当方記事には過ぎた続編」であるtri_iroさんの「ゲーデルの不完全性定理を代数学を使って表現してみた」は素晴らしいです。
丸山さん論説で、「なっるほどー!」と感激したのは、丸山さんが提唱する圏論の三つの特徴です。
- universal normativity
- understanding conferrability
- ontological picturalism
英語が難しすぎて辞書を引かないと分からない、いや、辞書(英辞郎ですが)引いても出てないし。おそらく無理に訳さないほうがいいだろうとは思いながらも、日本語にしてみれば:
- 普遍的規範性
- 理解授与可能性
- 存在論的絵図主義
とでもなるでしょうか。
universal normativity に関しては、「数学における一つの有効な普遍的normを与える」「色々な数学的概念の在り方あるいは在るべき姿を普遍的な仕方で規定する」と丸山さんは説明されていますが、これは割と広く認識されていることでしょう。
ontological picturalism の説明は「圏論の技術は絵的議論に満ちており、絵は数学の存在論を提供するものとさえ捉えられる」と記されています。picturalismという語は珍しいと思うのですが、ボブ・クックも Quantum Picturalism という言葉を使っていました(「ボブ・クックの「お絵描き大好き 量子絵図主義」」)。僕は"picturalism"を「絵図主義」としました(適切かどうかは怪しいけど)。
さて、二番目の特徴 understanding conferrability、これが僕には一番「なっるほどー!」。まさに understanding(理解)をconferred(授かった)感じです。understandingを丸山さんは「単なるexplanationを超え出た」と表現してますが、「納得感」「腑に落ちる感覚」のことでしょう。同じ事実であっても、圏論的な定式化で示されると「あー、そうなんですね」以上の「おー、そうだったのかぁ」な感じがする -- たぶん、そんなことだろうと思います。
僕の解釈と説明は、曖昧で感覚的なものですが、この三つの特徴自体が understanding conferrable でした。