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参照用 記事

「M.W.ホプキンスの観察」への気長なアプローチ

2000年代の初頭に、マーク・ウィリアム・ホプキンス(Mark William Hopkins)は次のように語っていました。

この認識と主張を「M.W.ホプキンスの観察」と呼ぶことにします。

ゴラン(Jonathan S. Golan)は、彼の2003年の著書 "Semirings and Affine Equations over Them" の11ページで、「M.W.ホプキンスの観察」に触れています。

Recently, the physicist Mark William Hopkins has been developing interesting, but as yet unpublished, analogies between formal language theory and quantum field theory.



最近(2003年当時)、物理学者のマーク・ウィリアム・ホプキンスは、まだ出版されてはいないのだが、「形式言語理論と場の量子論の類似性」という非常に興味深い話題を探求している。

「M.W.ホプキンスの観察」の詳細は結局unpublishedなままで、マークが今どこで何をしているかもわかりません。

僕は長年「M.W.ホプキンスの観察」に実質的な内容を与えたい、と思い続けてきました。幾分の進捗はあったと言えますが、まだまだ中途半端です。

形式言語理論と場の量子論の対応をキチンと理解するには、その2つに共通する枠組みを与え、さらにどこが違うかをハッキリさせる必要があります。共通の枠組みを求めるには、お互いに歩み寄らねばなりません。

形式言語理論はもっと代数的・幾何的な定式化をすべきだし、場の量子論から物理固有の要素を捨象する必要もあります。「引き算と無限個の足し算は両立しない」で引用したマルクス・バナルマーコス・バンナーグ(Markus Banagl)の論文は、場の量子論形式言語理論にグッと近づけた印象を受けました。

この論文に刺激を受けて、また「M.W.ホプキンスの観察」について考えてみようかなー、と思ったりしています。


まず、場の量子論の側から考えていくことにします。

場の量子論の抽象的で扱いやすい定式化というと、アティヤ(Michael Atiyah)による位相的場の量子論(toplogical quantum field theory; TQFT)があります。これは、物理のバックグラウンドがなくてもナントナクは理解できます。しかし、環や加群に関する引き算を持つ線形代数に依存しています。形式言語理論では引き算はうまく定義できません。

また、位相的場の量子論を構成するときには、多様体幾何学も必要だし、物理的解釈では得体の知れない測度や積分が出てきたりします。ここらへんも、形式言語理論とはギャップがあるところです。

今回言及したバナルバンナーグの正値TQFT(positive TQFT)は、引き算を使いません。モノイドと半環がベースになります。「正値」は、負の元を持たないこと(without negative)に由来しているのでしょう。測度や積分を使わず、代わりに無限和を使います。引き算と無限和は両立しないので、無限和を使いたいなら引き算は捨てるしかありません。つまり、モノイドと半環の使用は必然的なのです。

バナルバンナーグの正値TQFTは、幾何っぽさ/物理っぽさがだいぶ抜けています。しかしそれでも、多様体の議論は随所に残っています。形式言語理論と多様体を直接結びつけるのは難しそうなので、多様体が表立っては出てこないようにしたいところです。

位相的場の量子論の舞台となる圏は、多様体コボルディズムの圏です。コボルディズム圏は、圏論的には、モノイド二重圏(monoidal double category)という構造を持ちます。であるなら、モノイド二重圏(あるいは類似の圏)から出発すれば、多様体の議論を避けられそうです。

必ずしも幾何的意味を持つとは限らないモノイド二重圏に対して、場の量子論の道具立てとなる概念(の対応物)を順に準備していきます。

正値TQFTのシナリオは良いヒントとなりそうですが、正値TQFTの構成をなぞって形式言語理論とうまく連絡できるとも限りません。事例を参照しながらの修正が必要でしょう。


形式言語理論の側から共通の枠組みに接近するには、形式言語理論をできるだけ代数的に書き下すことでしょう。「形式言語理論のための代数」はその試みのひとつです。

また、トレース付き圏、コンパクト閉圏、テンソル半加法圏などをベースに、形式言語やプログラムの意味論を展開するのも代数化のあり得る方向性です。

使える方法があまりに多様過ぎて、相互の関係が掴み切れなかったり、方向が定まらないのが問題です。断片的でも面白いトピックを拾っていくのも健全なやり方かも知れません。


正値TQFT(Positive TQFT)というヒントを手に入れたとはいえ、僕が使える時間も気力もごく僅かです。滞っているブログがアクティブに復活するとも思えません。となると、「M.W.ホプキンスの観察」に形を与え実例を作る作業もたいして進まないでしょう。進むにしてもとてもユックリです。まー、しょうがないです。気長にちょっとチョットずつアプローチします。