昨日の記事に実例がなかったのでそれを追加します。
いくつかの準備から:
FinSetを有限集合の圏とします。×は普通の直積、1 = {0} として、(FinSet, ×, 1, α, λ, ρ) はモノイド圏になります。α, λ, ρを具体的に書くと:
FdVectRは有限次元実ベクトル空間の圏です。以下、下付き添字のRは省略して、FdVectと書きます*1。FdVectには、直和やテンソル積でモノイド積を入れることが多いですが、今はモノイド積は考えません。モノイド圏として扱うのはFinSetのほうです。
Aが有限集合、Vが有限次元ベクトル空間のとき、新しいベクトル空間MapSpace(A, V)を次のように定義します。
上記の定義から、MapSpace(A, V)はFdVectの対象(つまり、有限次元ベクトル空間)になります。
では、モノイド圏上の加群圏を定義しましょう。
C = (FinSetop, ×, 1, α, λ, ρ) とします。CはFinSetと同じですが、射の向きはひっくり返しておきます。モノイド構造はひっくり返しても変わりません。ひっくり返すのは技術的な理由でたいした意味はありません。そして、D = FdVect とします。Cはモノイド圏、Dは単なる圏と捉えます。
二項関手 :C×D→D を定義しましょう。
- A∈|C|, V∈|D| に対して、AV := MapSpace(A, V) ∈|D|
f:A→B in C、ψ:V→W in D に対して、fψ:AV→BW は次のように定義します。
- f:A→B in C とは、f':B→A in FinSet なので、x∈MapSpace(A, V) に対して、x|→f';x;ψ という写像を定義すると、これはMapSpace(B, W)に入る。(fψ)(x) := f';x;ψ として、fψ : MapSpace(A, V)→MapSpace(B, W) を定義する。
次の同型は容易に構成できるでしょう。
- α'A,B,V : (A×B)V → A(BV)
- λ'V : 1V → V
マックレーンの五角形・三角形も具体的に確認できます。
有限集合をコンパクト領域、有限次元ベクトル空間をバナッハ空間に拡張した例は、次に記事に書いてあります。
僕が加群圏にちょっと興味をいだいたのは、変則的なラムダ計算のモデルとして加群圏が使えないかな? と思ったからです。思っただけで、よく分かってません*2。