このブログの更新は Twitterアカウント @m_hiyama で通知されます。
Follow @m_hiyama

メールでのご連絡は hiyama{at}chimaira{dot}org まで。

はじめてのメールはスパムと判定されることがあります。最初は、信頼されているドメインから差し障りのない文面を送っていただけると、スパムと判定されにくいと思います。

参照用 記事

奇妙なユークリッド空間とデカルト構造

ユークリッド空間って何なんだろう?」への追記ですが、別エントリーとします。

ユークリッド空間って何なんだろう?」において:

標準ユークリッド対象の「標準」が何であるかを一般的に規定することは出来ませんが、個々の典型的ケースにおいては、常識的な標準構造を定義できます。

ここに出てくる標準性をチャンと定義することは無理な気がします。「常識的なアレ」とか「一番自然なヤツ」とかを定義するわけだから、こりゃ難しいよね。

奇妙なユークリッド空間

ユークリッド空間って何なんだろう?」で提示した標準ユークリッド対象の定義だと、常識的でもなく自然でもない標準ユークリッド対象を作れます。

コンパクト位相空間の圏をCompTopとしましょう。CompTopのなかに標準ユークリッド対象を構成します。まず、E0は一点空間とします。n≧1 に対するEnを次のように定義します; 普通に位相を入れたRnを一点コンパクト化した空間を作ります。これの台集合は Rn∪{∞} で、無限遠点が余分です。Rn原点と∞を同一した空間をEnとします。Enはコンパクトで台集合はRnです。E1は「8」の形で、E2は球面(それを地球表面だと思って)の北極と南極を引っ付けた図形です。

以上の定義で、コンパクト位相空間の圏CompTopは標準ユークリッド対象を持つことになります。が、変形した円や球をユークリッド空間と呼ぶのは違和感があります。奇妙なユークリッド空間を排除する方法はないのでしょうか?

デカルト構造を取り入れる

標準性をチャンと定義するのは無理にしても、変なユークリッド空間を排除する方法はあります。

具象圏Cの標準ユークリッド対象は、自然数の集合NからCの対象類|C|への単射でした。これは、離散圏とみなしたNからCへの関手です。よって、Cの標準ユークリッド対象は関手 E:NC として記述できます。

関手としての標準ユークリッド対象の定義域を離散圏Nから一般化します。次のような圏Lを考えます。

  • |L| = N
  • Lデカルト圏(直積と終対象を持つ圏)で、足し算 n + m が対象の直積、0が終対象を与える。

このようなLローヴェル・セオリー(Lawvere theory)と呼びます。Lデカルト圏なので、i番目の射影 πni:n→1 とか終対象への唯一の射 !n:n→0 などを持ちます。

一般のローヴェル・セオリーを考えるのは一般化のし過ぎだと思うので、最小のローヴェル・セオリー、つまりローヴェル・セオリーの圏の始対象をLとします。Lは、射影πniや終対象への射!nを持ちますが、余計な射は持たないものです。

LからSetへの関手Eで、E(1) = Rで直積を保つものを考えます。この関手 E:LSet が、{Rn | n = 0, 1, 2, ...}の代わりになります。関手Eは、集合のN-インデックス族だけでなくて、そのあいだの射影関数も一緒に考えたものになります。

Cデカルト構造(終対象と直積)を持つ具象圏とします。Cの台集合関手 U:CSet は、単なる忠実関手ではなくて、デカルト構造を保つ(respect, preserveする)関手とします。この状況で、関手 F:LC標準ユークリッド対象(standard Euclidean objects)だとは、次が成立することだと定義します。

  • '*'を関手の図式順結合として F*U = E : LSet

定義のなかにデカルト構造が含まれることから、Fn = F(n) は、F1 = F(1) の直積でなくてはなりません。これにより、前節の奇妙なユークリッド空間の例は、標準ユークリッド対象の定義を満たさないことになります。

デカルト空間やユークリッド空間の概念のなかには、「単一の集合/空間から直積構成で作られるもの」という暗黙の前提が入っているように思えるので、標準ユークリッド対象の系列が、単一の生成対象(generating object)と直積で構成されると規定するのは自然な気がします。