N君に「で、離散集合ってなんですか?」と聞かれて、どう答えていいか困ってしまいました。
対話
N君 :「実数の全体は連続集合ですよね」
檜山:「そうだね」
N君 :「自然数の全体は離散集合ですよね」
檜山:「うん、そうだね」
N君 :「有限集合は離散集合ですよね」
檜山:「はい、そうだね」
N君 :「つまり、可算集合は離散集合ですよね」
檜山:「ん? いやっ、… あれ?」
連続と離散
「連続集合」はたまに使う言葉ですが、その意味はあんまりハッキリしません。R(実数の全体)の基数(濃度)を連続濃度と呼ぶので、Rと同じ基数を持つ集合を連続集合と呼んでいるのではないかと思います。この用法だと、「連続」とはいいながら、位相とは何の関係もなくて、単に集合を基数で分類・特徴づけしているだけです。
歴史や語源を僕は知りませんが、たぶん(たぶんです)、RやRn、その部分集合などを連続体と呼んでいたことから、形容詞「連続」が「連続体と同等の」という意味で使われたのでしょう。
一方の「離散集合」ですが、これは集合の基数による分類・特徴づけとは関係ないように思えます。形容詞「離散」が「自然数(またはその部分集合)と同等の」という意味で使われている気がしないのです。もちろん、言葉の使用・運用は多様なので、「離散=可算」の用例が絶対ないとは断言できませんが。
離散集合は、集合の話ではなくて、位相の文脈で使われる言葉でしょう(多くの場合は)。つまり、離散集合は離散位相空間と同義だと思われます。
「連続」と「離散」は、対になる言葉としてよく一緒に使われますが、「連続集合←→離散集合」に関しては、対としての対称性はないようです。
離散空間としての離散集合
位相空間Xが離散であることの定義は簡単で、Xのすべての部分集合が開集合になることです。連続集合であるRを離散空間にすることもできます。位相空間Xの部分集合Aが離散集合であるとは、Xの位相から誘導されたAの位相(相対位相)により、Aが離散であることです。
上記のような定義を採用すると、「有限集合は離散集合である」もあやしくなります。集合{0, 1}の開集合族を{{}, {0, 1}}と決めると、({0, 1}, {{}, {0, 1}})は離散空間にはなりません。「有限集合を台とする位相空間は離散空間である」は正しくないのです。とはいえ、我々が有限集合に想定する位相は離散位相なのだとは思います。
「自然数の全体は離散集合」も同様な事情で、我々がNに暗黙に想定する位相が離散位相なのでしょう。典型的には、Rに普通の位相(詳細略)を考えて、N⊆R からの相対位相は離散位相です。
「可算集合は離散集合」と言われれると「あれ?」となるのは、この言い回しは「可算集合の上に載る位相構造は離散である」と解釈できるからです。こうなると正しくない。Rの普通の位相と Q⊆R から誘導されるQの位相は離散位相ではありません。
言葉の国語辞書的な意味や語感・印象に基いて話していると、「あれ?」な状況(アレな状況)になったりしますね。