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参照用 記事

高次圏: 無基底・無限階層 補足

本日(世間は振替休日*1)の「高次圏: 無基底・無限階層の世界とn-圏」に少し補足; 無基底・無限階層の発想(なんかいい呼び名がないかな?)の適用事例として、ドクトリン(ハイパードクトリンとは違う)なんかいいんでないかな。ドクトリン〈doctrine〉ってなんかよく分からん概念だけど、あれは無限タワーで理解できるかも。

最近気付いた例を述べると; ...[snip]... この状況を一般化すれば、n-インスタンスとn-クラスの関係を議論できます。このことは、意図的に無限タワーを作ってみて(少しだけ)分かったことです。

これはドクトリンを無限タワーで理解しようとした話なんです。少ししか分かってないけど。

とりあえず、ドクトリンのnLab項目をみてみましょう。

ドクトリンはセオリーの2次元(圏化)版で“2-セオリー”と呼ぶべきものだと書かれています。「ドクトリン=1-ドクトリン=2セオリー」「セオリー=1-セオリー=0-ドクトリン」です。セオリー=1-セオリーは、2-圏とみなしたドクトリン=2-セオリーの対象なのだと説明した後で:

one can also imagine considering 2-theories as objects of some 3-theory, and so on. (Unfortunately this approach involves us in an infinite regress when we look for a formal definition!)


次にように夢想する人がいるかもしれない; 2-セオリーは3-セオリーの対象だとみなせるだろう、そして3-セオリーは4-セオリーの…… などなど。(残念ながら、この発想を形式的定義として厳密化しようと試みると、我々は無限後退に巻き込まれてしまう。)

「残念ながら〈Unfortunately〉」とか「無限後退〈infinite regress〉」とかの言葉がありますね。これって、大幅な意訳(つうか憶測)すると「マイクロコスモ原理に阻まれちゃってダメみたい、トホホ」と嘆いてるのでは。

nLab著者も、僕と同じようにマイクロコスモ原理からの無限後退に悩んでいる様子です。でも、たぶん大丈夫。n-セオリーの無限タワーも、どこかで安定するか既存の無限タワーに合流するだろうと(楽観的に)予想できます。

最近たまたまチラ見したスタニスワフ・スザウィール〈Stanisław Szawiel〉の学位論文*2に、次のような段落があります。

In short, understanding category theory starts with a 2-category. This pattern repeats itself indefinitely: to understand the mentioned universal constructions in Cat properly, one needs to work with 3-categories. In general, the understanding of n-categories requires knowledge of (n + 1)-categories. The internal consistency of category theory demands the development of higher categories.

若干補足しながら意訳すると:

圏論で扱うモノ、つまり圏の全体は2-圏Catを構成するので、圏論を理解することは2-圏の学習なんだ、と言える。このパターンは無限に繰り返される: 圏論に登場するCatにおける普遍構成をチャンと理解するには、3-圏を知る必要がある。一般に、n-圏の理解には(n+1)-圏を知ることが要求される。こういう事情だから、圏論に内在する構造(それは決して矛盾したものじゃない)から言って、1次元圏論だけではなくて高次の圏論を開拓する必要があるんだ。

「n-圏を理解するには(n+1)-圏を知る必要がある」は、マイクロコスモ原理ですが、スザウィールはそれを悲観的に捉えている様子はありません。むしろ、高次圏論の必要性を正当化する積極的理由としてアピールしています。

マイクロコスモ原理を回避したり消し去ることは出来ないようなので、「圏論に内在する構造」とみなすのが正しい -- かどうか分からないけど、精神衛生上は良い態度ですね。

*1:僕も歳だけは敬われる立場になっている。歳だけ。

*2:"A Unified Approach to Opetopic Algebra" https://depotuw.ceon.pl/bitstream/handle/item/1115/doktorat.pdf