過去の記事「リー微分は共変微分か? -- 代数的に考えれば」において、「リー微分は共変微分である」という間違ったことを書いていました。「間違った! リー微分は共変微分じゃない」に、間違いだと気付いた経緯が書いてありますが、その経緯はすごい回り道を経由しているので、端的な修正は「リー微分は共変微分か? -- 代数的に考えれば」への追記部分を参照してください。
「リー微分は共変微分である」と僕が間違って判断した原因は、共変微分の条件(公理)のひとつを忘れていて確認してなかったからです。さらに、条件を忘れていた原因をたどると、共変微分の条件をまとめた「双対接続ペア // 接続付き加群」の書き方が不親切だったからです。
上記引用部分で共変微分の条件(公理)を4種類出しています。
3番目の定義では、∇:M→[Der(A), M]A という写像が共変微分ですが、4番目の定義では、∇(m)(X) を ∇X(m) と書き方を変えて述べています。そのまま引用すると:
この書き方を使えば:
- ∇XはR-線形である。
- ∇X(m + m') = ∇X(m) + ∇X(m')
- ∇X(r・m) = r・∇X(m) for r∈R
- ∇Xはライプニッツ法則を満たす。
∇X(a・m) = X(a)・m + a・∇X(m) for a∈A
「リー微分は共変微分か? -- 代数的に考えれば」(修正前)では、この4番目の定義を採用して、「∇XはR-線形である」ことと、「∇Xはライプニッツ法則を満たす」ことをチェックしてOKとしています。
しかし、∇:M→[Der(A), M]A というプロファイル(∇の域と余域の情報)のなかに、∇X と書いたときのXに関するA-線形性が含まれています。つまり、次の法則は暗黙に仮定されているのです。
- m∈M を固定して ∇(-)(m) はA-線形である。
- ∇(X + Y)(m) = ∇X(m) + ∇Y(m)
- ∇(aX)(m) = a∇X(m)
この法則がもとの記事に明示的には書いてなかったので、共変微分の定義として引用するときにスッパリ忘れてしまった、というわけです。
次の2つの不注意から間違った判断に至ったのです。
- 共変微分の定義を記述するとき、(間違いではないが)不親切だったこと
- それを引用するとき、迂闊にもプロファイルに含まれるA-線形性を抜かしてしまったこと
こういうことが起こり得るから、不親切も迂闊もよろしくない、ということでオチ。すんませんでした。