昨日、行きがかり上 という記号を導入しました。偏微分の記号 の分母と分子をひっくり返したものです。
誰かこの記号を見たことありますか? (見たことある方は教えてくださいませ。)
は の“逆”なのですが、偏微分作用素としての逆ではありません。線形代数的な逆です。
数・関数・行列などの掛け算記号を省略せずに、一律にドットで書きます(これ、重要!)。Haskellのセクション記法を借りて、左からaを掛ける写像を (a・)、右からaを掛ける写像を (・a) と書きます(これも重要)。偏微分作用素を含んだ行列の計算を次のように決めます。
として、掛け算は:
クドイですが、ドットは掛け算です。偏微分作用素としての作用ではありません。通常は、誤解を避けるために左から関数を掛け算します(掛け算記号なし)。しかしそうすると、お馴染みの行列計算のルールと整合しません。
この計算は多様体上の座標近傍(座標写像 x の定義域)U上でも意味を持ちます。掛け算する写像 は、次のようなベクトルバンドルの写像を定義します。
- RnU→TM|U over U
ここで、RnU はファイバーがRn(要素は縦一列の行列だと思う)であるU上の自明ベクトルバンドル、TM|UはMの接ベクトルバンドルのUへの制限です。底空間U上で考えているので over U と書いてます。
この写像はファイバーごとに可逆、全体としても可逆なので、逆写像を持ちます。それを と書くと約束します。
- : TM|U→RnU over U
バンドル写像 は、セクション空間の写像を誘導するので、同じ記号で表します(オーバーロード)。
- : Γ(TM|U)→Γ(RnU) over U
これだけのことです。
まだ一日しか使ってませんが、 って、メチャクチャ便利なんじゃないのかな。例えば、xからyへの局所座標の取り替えに伴う接ベクトル場Vの成分表示の変換公式は次のように書けます。([追記]等式を修正して別な形を「あるいは」の後に追加。[/追記])
あるいは、
これ、すごく自然で簡潔です。ええんちゃう(似非関西弁)。
あらためてシミジミと感じたことは:
因習に囚われずに、適度な演算子記号/関数記号をちゃんと入れれば、分かりやすさはだいぶ改善されます。
[追記 date="翌日"]
だいぶ分かった。ちょっと考えて、 かと思ったのですが、そうではないですね。 は、 とも とも違うナニモノカです。
「 は微分作用素、 は微分形式」ということをすっかり忘れて、純粋に線形代数の文脈で考えると、
が成立します。ここで、右肩マナナスイチは逆線形写像、右肩アスタリスクは双対線形写像です。この等式の解釈には微妙なところ(コベクトルとフォームを同一視するか区別するか)がありますが、肝心なのは、線形代数だけで考えることです。
記号の約束として、
部分可逆な t:Rn⊇→Rn に関して次の等式も成立します。あくまで、線形代数のなかでの等式です。
ここで、 はtのヤコビ行列で、ナカグロ〈センタードット〉は、反図式順で書いた“線形写像(または行列)の結合(または掛け算)記号”です。
さらにシミジミと感じたことは:
[/追記]
*1:[追記]「関手と自然変換の計算に出てくる演算子記号とか // 酷い話」で、関手の縦結合も横結合も演算子記号を省略して並置で書く、という例を紹介しました。当然に、解釈も計算もできなくなります。「二項演算を並置で書く」が許されるのは演算ひとつまでです! 一緒に使う二つ以上の演算に対して「並置で書く」ルールを適用するのは極悪ですが、実際に存在するのが腹立たしい。[/追記]