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参照用 記事

コジュール接続の圏 再論

昨日の記事「概リー/ラインハート代数とコジュール接続」への補足追記です。コジュール接続の圏の定義を変更したほうが便利な気がするので、それについて書きます。%
\newcommand{\hyp}{\mbox{-} }%
\newcommand{\id}{\mathrm{id} }%
\newcommand{\u}[1]{\underline{#1} }%
\newcommand{\In}{\mbox{ in }}%
\newcommand{\On}{\mbox{ on }}%
\newcommand{\For}{ \mbox{For }  }%

内容:

要点:定義の変更箇所

概リー/ラインハート代数 R 上のコジュール接続の圏 {\bf KoszConn}[R] の定義を変更します。「概リー/ラインハート代数とコジュール接続 // コジュール接続の圏」から変えるところは:

  1. EPペアの向きを逆にしたPEペアを使う。
  2. 共変微分を保存するという条件を落として、PEペアに何の条件も付けずに射とする。
  3. 共変微分の保存は保証されなくなるので、共変微分の差を考慮することにする。

射の向きを逆にすることに実質的な意味はない(別にどっちでもいい)のですが、事例を見て多数派の方向に合わせました。

二番目・三番目の変更から、共変微分の差が現れます。共変微分の差とは、「接続形式、接続係数」などと呼ばれる量で、これを早めに導入したほうがいい気がしたので、射に対して「共変微分の差」を定義することにします。

射の定義

R = (A, B, \Omega)概リー/ラインハート代数とします。A は環〈K-可換代数〉だったので、A-加群の圏を A\hyp{\bf Mod} とします。PEペアの圏 PE(A\hyp{\bf Mod}) は次のように定義します。

  •  |PE(A\hyp{\bf Mod})| := |A\hyp{\bf Mod}| (対象はA-加群
  •  PE(A\hyp{\bf Mod})(X, Y) := \{(p, e)\in A\hyp{\bf Mod}(X, Y)\times A\hyp{\bf Mod}(Y, X) \mid e;p = p\circ e = \id_Y \} (ホムセットは、結合すると恒等射になるペア達)

R 上のコジュール接続は E = (\u{E}, \nabla_E) と(記号の乱用を使わずに)書くことにして、コジュール接続の圏のホムセットを以下のように定義します。(対象はコジュール接続です。)


\quad {\bf KoszConn}[R](E, F) := PE(A\hyp{\bf Mod})(\u{E}, \u{F})

つまり、台加群〈underlying module〉のあいだの任意の(何の条件も付けない)PEペアがコジュール接続のあいだの射になります。E \mapsto \u{E},\; (p, e) \mapsto (p, e) は次のような忘却関手を定義します。

\quad U : {\bf KoszConn}[R] \to PE(A\hyp{\bf Mod}) \In {\bf CAT}

忘却関手 U は、コジュール接続から共変微分を忘れる関手で、充満忠実関手(ホムセットごとに同型)になります。

コジュール接続のあいだの射を一文字 f で書いたとき、f = (f_p, f_e)f = (p_f, e_f) かは書き方の趣味の問題ですが、ここでは後者の書き方をします*1。射は、射影パート p_f と埋め込みパート e_f からなり、射の方向は射影パートの方向とします。「概リー/ラインハート代数とコジュール接続 // コジュール接続の圏」とは逆方向です。

共変微分の前送り

E = (\u{E}, \nabla_E),\; F = (\u{F}, \nabla_F) を2つのコジュール接続とします。f: E \to F \In {\bf KoszConn}[R] はコジュール接続のあいだの射です。共変微分前送り〈pushforward〉を次のように定義します。


\quad f_*(\nabla_E) := (p_f \otimes_A \id_\Omega)\circ \nabla_E \circ e_f

こうして定義した f_*(\nabla_E)加群 \u{F} 上の共変微分になることは「概リー/ラインハート代数とコジュール接続 // コジュール接続の圏」で確認しています。

共変微分の前送りは、前もって備わっている \nabla_E に限らず、任意の共変微分に対して有効です。加群 X \in |A\hyp{\bf Mod}| 上の共変微分の全体を CovDer(X) とすると、共変微分の前送りは次のような関手を定義するわけです。

  •  CovDer:PE(A\hyp{\bf Mod}) \to {\bf Set} \In {\bf CAT}
  •  \For f:X \to Y \In PE(A\hyp{\bf Mod}),\; CovDer(f) := f_* :CovDer(X) \to CovDer(Y) \In {\bf Set}

忘却関手を挟むことにより、この関手を {\bf KoszConn}[R] 上の関手と思うこともできます。

\xymatrix @C+1pc{
  { {\bf KoszConn}[R] } \ar[dd]_{U} \ar[dr]^-{CovDer'}
  &{}
\\
  {}
  &{ {\bf Set}  }
\\
  { PE(A\hyp{\bf Mod}) }  \ar[ur]_-{CovDer}
  &{}
}

図式内の関手 CovDer' を同じ記号 CovDer で表します(うるさく区別する必要はないので)。

今の定義では、CovDer(E) = CovDer(\u{E}) は単なる集合ですが、K-アフィン空間/A-加群等質空間の構造を与えることができます。

共変微分の差

コジュール接続 E = (\u{E}, \nabla_E) は、加群 \u{E} に対して \nabla_E \in CovDer(\u{E}) を添えた構造です。射 f:E \to F \In {\bf KoszConn}[R] により共変微分 \nabla_E を前送りすると、F 側の共変微分が得られます。

\quad f_*(\nabla_E) = (p_f, e_f)_*(\nabla_E) \in CovDer(\u{F})

前送りされた共変微分F に備わる共変微分の差を取ることができます。この差を \gamma(f) と書きます。

\quad \gamma(f) := \nabla_F - f_*(\nabla_E)

この差は(一般には)共変微分にはなりませんが、A-線形写像加群射〉になります。

\quad \gamma(f):\u{F} \to \u{F}\otimes_A \Omega \In A\hyp{\bf Mod}

確認しましょう。\gamma(f) = \nabla_F - f_*(\nabla_E) に限定せずに、任意の2つの共変微分 \nabla, \nabla' \in CovDer(\u{F}) に対して、その差がA-線形写像加群射〉であることを示します。

(\nabla' - \nabla):\u{F} \to \u{F}\otimes_A \Omega が足し算とゼロを保存するのはすぐ分かるので、右スカラー倍を保存するのを確認します。

\For a\in A, \eta\in \u{F}\\
\quad (\nabla' - \nabla)(\eta \cdot a) \\
= \nabla'(\eta \cdot a) - \nabla(\eta \cdot a) \\
= (\nabla'(\eta)\cdot a + \eta\otimes d(a)) - (\nabla(\eta)\cdot a + \eta\otimes d(a)) \\
= \nabla'(\eta)\cdot a   - \nabla(\eta)\cdot a  \\
= (\nabla' - \nabla)(\eta)\cdot a

したがって、 (\nabla' - \nabla)\in A\hyp{\bf Mod}(\u{F}, \u{F}\otimes_A\Omega) です。特に、\gamma(f) についても同じことが言えて:

\quad \gamma(f) \in A\hyp{\bf Mod}(\u{F}, \u{F}\otimes_A\Omega)

共変微分の差の合成公式

前節の定義では、\gamma(f) \in A\hyp{\bf Mod}(\u{F}, \u{F}\otimes_A\Omega) ですが、次の同型があるので、\gamma(f) \in End_A(\u{F})\otimes_A \Omega とみなすこともあります。


\quad A\hyp{\bf Mod}(\u{F}, \u{F}\otimes_A\Omega) \\
= Hom_A(\u{F}, \u{F}\otimes_A\Omega) \\
\cong (\u{F}\otimes_A\Omega) \otimes_A \u{F}^{* A} \\
\cong (\u{F}\otimes_A \u{F}^{* A}) \otimes_A\Omega \\
\cong End_A(\u{F})\otimes_A\Omega

\gamma(f) \in End_A(\u{F})\otimes_A \Omega とみなした \gamma(f) は、コジュール接続射 f接続形式〈connection form〉と呼ばれます。

ここでは、\gamma(f) \in Hom_A(\u{F}, \u{F}\otimes_A\Omega) のままで扱うことにして、\gamma(f;g) = \gamma(g\circ f) を求める公式を与えます。

一般に、PEペア f = (p_f, e_f):X \to Y \In PE(A\hyp{\bf Mod}) による Hom_K(X, X\otimes_A \Omega) \in |K\hyp{\bf Vect}| (係数が K であることに注意!)の要素の前送りを次のように定義します。

\For \psi\in Hom_K(X, X\otimes_A \Omega)\\
\quad f_*(\psi) := (p_f \otimes_A \id_\Omega)\circ \psi \circ e_f \in Hom_K(Y, Y\otimes_A \Omega)

この前送りを使うと、共変微分の差の合成公式を書き下せます。

\quad \gamma(g\circ f) = g_*(\gamma(f)) + \gamma(g)

計算してみましょう。まず、次の前提があります。

  1. f:E \to F \In {\bf KoszConn}[R]
  2. g:F \to G \In {\bf KoszConn}[R]
  3. \nabla_F = f_* (\nabla_E) + \gamma(f) \On Hom_K(\u{F}, \u{F}\otimes_A \Omega)
  4. \nabla_G = g_* (\nabla_F) + \gamma(g) \On Hom_K(\u{G}, \u{G}\otimes_A \Omega)

これらを使って:


\quad \nabla_G
= g_* (\nabla_F) + \gamma(g) \\
= g_* ( f_*(\nabla_E) + \gamma(f)) + \gamma(g) \\
= (g_* \circ f_*)(\nabla_E) + g_*(\gamma(f)) + \gamma(g) \\
= (g \circ f)_* (\nabla_E) + (g_*(\gamma(f)) + \gamma(g) )\\

これから、先の共変微分の差の合成公式が出ます。共変微分の差の合成公式は様々な形で利用されます。