昨日の記事「概リー/ラインハート代数とコジュール接続」への補足追記です。コジュール接続の圏の定義を変更したほうが便利な気がするので、それについて書きます。
内容:
要点:定義の変更箇所
概リー/ラインハート代数 上のコジュール接続の圏 の定義を変更します。「概リー/ラインハート代数とコジュール接続 // コジュール接続の圏」から変えるところは:
射の向きを逆にすることに実質的な意味はない(別にどっちでもいい)のですが、事例を見て多数派の方向に合わせました。
二番目・三番目の変更から、共変微分の差が現れます。共変微分の差とは、「接続形式、接続係数」などと呼ばれる量で、これを早めに導入したほうがいい気がしたので、射に対して「共変微分の差」を定義することにします。
射の定義
は概リー/ラインハート代数とします。 は環〈-可換代数〉だったので、-加群の圏を とします。PEペアの圏 は次のように定義します。
- (対象は-加群)
- (ホムセットは、結合すると恒等射になるペア達)
上のコジュール接続は と(記号の乱用を使わずに)書くことにして、コジュール接続の圏のホムセットを以下のように定義します。(対象はコジュール接続です。)
つまり、台加群〈underlying module〉のあいだの任意の(何の条件も付けない)PEペアがコジュール接続のあいだの射になります。 は次のような忘却関手を定義します。
忘却関手 は、コジュール接続から共変微分を忘れる関手で、充満忠実関手(ホムセットごとに同型)になります。
コジュール接続のあいだの射を一文字 で書いたとき、 か かは書き方の趣味の問題ですが、ここでは後者の書き方をします*1。射は、射影パート と埋め込みパート からなり、射の方向は射影パートの方向とします。「概リー/ラインハート代数とコジュール接続 // コジュール接続の圏」とは逆方向です。
共変微分の前送り
を2つのコジュール接続とします。 はコジュール接続のあいだの射です。共変微分の前送り〈pushforward〉を次のように定義します。
こうして定義した が加群 上の共変微分になることは「概リー/ラインハート代数とコジュール接続 // コジュール接続の圏」で確認しています。
共変微分の前送りは、前もって備わっている に限らず、任意の共変微分に対して有効です。加群 上の共変微分の全体を とすると、共変微分の前送りは次のような関手を定義するわけです。
忘却関手を挟むことにより、この関手を 上の関手と思うこともできます。
図式内の関手 を同じ記号 で表します(うるさく区別する必要はないので)。
今の定義では、 は単なる集合ですが、-アフィン空間/-加群等質空間の構造を与えることができます。
共変微分の差
コジュール接続 は、加群 に対して を添えた構造です。射 により共変微分 を前送りすると、 側の共変微分が得られます。
前送りされた共変微分と に備わる共変微分の差を取ることができます。この差を と書きます。
この差は(一般には)共変微分にはなりませんが、-線形写像〈加群射〉になります。
確認しましょう。 に限定せずに、任意の2つの共変微分 に対して、その差が-線形写像〈加群射〉であることを示します。
が足し算とゼロを保存するのはすぐ分かるので、右スカラー倍を保存するのを確認します。
したがって、 です。特に、 についても同じことが言えて:
共変微分の差の合成公式
前節の定義では、 ですが、次の同型があるので、 とみなすこともあります。
とみなした は、コジュール接続射 の接続形式〈connection form〉と呼ばれます。
ここでは、 のままで扱うことにして、 を求める公式を与えます。
一般に、PEペア による (係数が であることに注意!)の要素の前送りを次のように定義します。
この前送りを使うと、共変微分の差の合成公式を書き下せます。
計算してみましょう。まず、次の前提があります。
これらを使って:
これから、先の共変微分の差の合成公式が出ます。共変微分の差の合成公式は様々な形で利用されます。
*1:より詳しいことは「構造とその素材の書き表し方 // インスタンスの書き方」参照。