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参照用 記事

付点集合のファミリーの圏はトポスになる

アンドレ・ジョイアル〈André Joyal〉の講義動画 New variations on the notion of topos をボンヤリと見てました。ほとんど分かんないのだけど、たまに簡単な話も混じります。動画51分くらいから、付点集合〈pointed set〉とファミリーの話があるのですが、これはなんとか分かる話だったので紹介します。付点集合のファミリー達が作る圏はトポスになる、ということです。$`\newcommand{\cat}[1]{\mathcal{#1} }
\newcommand{\In}{\text{ in }}
\newcommand{\mrm}[1]{\mathrm{#1} }
\newcommand{\hyp}{\text{-} }
\newcommand{\id}{\mathrm{id} }
`$

内容:

ジョイアルの記法

まず、ジョイアルが使っている記法を紹介しますが、次の二点は変更します。

  1. ジョイアルは反図式順記法を使ってますが、射の結合は図式順記法で書きます。
  2. ジョイアルのレトラクション $`r`$ は、射影〈プロジェクション〉 $`p`$ に変更します。射影と呼ぶほうが普通〈多数派〉だと思うので。

内容は後で説明します。とりあえず記法だけ:

  • $`{\bf Set}_\bullet`$ : 付点集合〈pointed set〉の圏
  • $`{\bf Fam}(\cat{C})`$ : 圏 $`\cat{C}`$ のファミリーの圏
  • $`(\varphi, \Phi): (A_i \mid i\in I) \to (B_j \mid j\in J)`$ : ファミリーの圏の対象と射
  • $`\coprod_{i \in I}\langle A_i\rangle = (A_i \mid i\in I)`$ : 形式的余積〈formal coproduct〉としてのファミリー
  • $`\langle \hyp \rangle : \cat{C} \to {\bf Fam}(\cat{C})`$ : 余積完備化の埋め込み
  • $`[\cat{C}^\mrm{op}, {\bf Set}]`$ : $`\cat{C}`$ 上の前層の圏
  • $`{\bf Fam}({\bf Set}_\bullet) \cong {\bf Set}^\cat{S}`$ : 付点集合のファミリーの圏の余前層表示、$`\cat{S}`$ は、“2つの対象/4つの射”からなる圏

ファミリーの圏

圏 $`\cat{C}`$ のファミリー〈family〉とは、適当な集合 $`I\in |{\bf Set}|`$ から $`|\cat{C}|`$ への写像です。$`(A_i \mid i\in I)`$ と $`(B_j \mid j\in J)`$ が2つの“$`\cat{C}`$ のファミリー” のとき、そのあいだの射はペア $`(\varphi, \Phi)`$ で定義されます:

  • $`\varphi : I \to J \In {\bf Set}`$
  • $`\Phi_i : A_i \to B_{\varphi(i)} \In {\bf Set} \:\text{ for }i\in I`$
  • $`\Phi = (\Phi_i \mid i\in I)`$

$`\Phi`$ の居所〈habitat〉をパイ型を使って書けば:

$`\quad \Phi \in \prod_{i \in I} {\bf Set}(A_i, B_{\varphi(i)})`$

したがって、$`(\varphi, \Phi)`$ は依存ペア(第二成分の型が第一成分の値に依存する)です。

圏 $`\cat{C}`$ のファミリーを対象として、ファミリーのあいだの射を射とする圏ができるので、それを $`{\bf Fam}(\cat{C})`$ とします。

$`{\bf 1} \in |{\bf Set}|`$ を集合圏の特定された終対象だとして、$`{\bf 1} \to |\cat{C}|`$ というファミリーは $`\cat{C}`$ の対象と1:1対応します。この事実から、$`\cat{C}`$ の対象をファミリーとみなし、$`\cat{C}`$ の射をファミリーのあいだの射とみなせます。これで、標準的な埋め込み $`\cat{C} \to {\bf Fam}(\cat{C})`$ が定義できます。この埋め込みによる像を $`\langle A\rangle, \langle f\rangle`$ のように書くことにします。埋め込み関手は次のように書けます。

$`\quad \langle\hyp \rangle : \cat{C} \to {\bf Fam}(\cat{C})`$

圏 $`\cat{C}`$ が余積〈直和 | 離散余極限〉を持つとは限りませんが、$`{\bf Fam}(\cat{C})`$ 内に埋め込まれると、そこでは余積を持ちます。

$`\quad \coprod_{i \in I}\langle A_i\rangle = (A_i \mid i\in I)`$

ファミリーが、$`\cat{C}`$ の対象・射の形式的余積を与えるとみなします。すると、ファミリーの圏 $`{\bf Fam}(\cat{C})`$ は、$`\cat{C}`$ の自由余積完備化ということになります。

埋め込み $`\langle\hyp \rangle`$ は、圏 $`\cat{C}`$ からその自由余積完備化〈離散余極限完備化〉への標準的埋め込みとみなせます。

$`\cat{C}`$ 上の前層の圏 $`[\cat{C}^\mrm{op}, {\bf Set}]`$ は、自由余極限完備化〈自由余完備化 | free cocompletion〉なので、余積完備化である $`{\bf Fam}(\cat{C})`$ は前層の圏の部分圏になります。埋め込み $`\langle\hyp \rangle`$ も包含関手とみなせば、次のような部分圏の系列ができます。

$`\quad \cat{C} \subset {\bf Fam}(\cat{C}) \subset [\cat{C}^\mrm{op}, {\bf Set}]`$

付点集合の圏のファミリーの圏

$`{\bf Set}_\bullet`$ を付点集合〈pointed set〉と基点を保つ写像から構成される圏とします。適当な圏 $`\cat{S}`$ を取ると、次の圏同値が成立します。

$`\quad \mrm{Fam}({\bf Set}_\bullet) \cong {\bf Set}^\cat{S}`$

ここで、右辺は関手圏を表します。関手圏は(関手の反変・共変を除けば)前層の圏なので、次のように書いても同じです。

$`\quad \mrm{Fam}({\bf Set}_\bullet) \cong [\cat{S}, {\bf Set}] = [(\cat{S}^\mrm{op})^\mrm{op}, {\bf Set}]`$

圏 $`\cat{S}`$ は、2つの対象と4つの射を持つ圏ですが、指標を用いて記述できます。

signature Bundle {
  sort X
  sort Y
  operation p : Y → X
}

signature SectionedBundle {
  sort X
  sort Y
  operation p : Y → X
  operation s : X → Y
  equation s;p = id_{X} : X → X
}

指標 Bundle が記述するのは、集合論的バンドル(幾何的バンドルではない)で、単なる写像(全射とは限りません)です。2つの対象と(恒等射 $`\id_{X},\, \id_{Y}`$ を含めて)3つの射を持つ圏の記述ともみなせます。指標 SectionedBundle は、$`s`$ という射を追加して合計4つの射、そして射のあいだの関係式

$`\quad s;p = \id_{X} : X\to X \In \cat{S}`$

を要求しています。

指標 SectionedBundle が記述する圏が $`\cat{S}`$ です。“指標 SectionedBundle のモデル = $`\cat{S}`$ から $`{\bf Set}`$ への関手”は、付点集合のファミリーに一致します。なぜかというと:

$`M:\cat{S} \to {\bf Set} \In {\bf CAT}\\
\quad M(X) = I \;\in |{\bf Set}|\\
\quad M(Y) = E \;\in |{\bf Set}|\\
\quad M(p) = \pi : E \to I \In {\bf Set}\\
\quad M(s) = \sigma : I \to E \In {\bf Set}`$

と置いて、

$`\text{For } i \in I\\
\quad A_i := \pi^{-1}(i) \;\in |{\bf Set}|\\
\quad a_i := \sigma(i) \;\in A_i`$

と置くと $`( (A_i, a_i) \mid i\in I)`$ が付点集合のファミリーになるからです。射に関しても対応をとれます。

これで、$`{\bf Fam}({\bf Set}_\bullet)`$ は小さい圏 $`\cat{S}`$ 上の“前層の圏”とみなせることが分かりました。小さい圏上の前層の圏はトポスになります(nLab項目category of presheaves の Proposition 2.4. と「前層トポスの部分対象分類子〉参照)。したがって、付点集合の圏 $`{\bf Set}_\bullet`$ のファミリーの圏 $`{\bf Fam}({\bf Set}_\bullet)`$ はトポスになります。ジョイアルは、これは observation(示唆的な事例といった意味でしょうか)だと言っています。