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参照用 記事

構造記述のための指標と名前 2/n 圏の記述

構造記述のための指標と名前 1/n 基本」で、指標を使って構造を記述する方法の基本を述べたので、実際にその方法を使って構造(代数系)を記述してみます。例題は小さい圏です。小さい圏を指標で記述するので、ターゲット〈標的環境〉は集合圏です。集合圏において、圏の形式的な記述を実行します。これは、圏論を使って圏を定義することになります。$`\newcommand{\mrm}[1]{ \mathrm{#1} }
\newcommand{\cat}[1]{ \mathcal{#1} }
%\newcommand{\op}{ \mathrm{op} }
\newcommand{\In}{\text{ in }}
%\newcommand{\Imp}{\Rightarrow}
%\newcommand{\u}[1]{\underline{#1}}
\newcommand{\o}[1]{\overline{#1}}
\newcommand{\twoto}{ \Rightarrow }
\newcommand{\id}{ \mathrm{id} }
\newcommand{\hyp}{\text{-} }
%\newcommand{\dblcat}[1]{\mathbb{#1}}
\newcommand{\NFProd}[3]{ \mathop{_{#1} \!\underset{#2}{ \times }\,\!_{#3} } }
\newcommand{\obj}[1]{ {{#1}\!\downarrow} }
%%
\require{color}
\newcommand{\NN}[1]{ \textcolor{orange}{\text{#1}} } % New Name
\newcommand{\NX}[1]{ \textcolor{orange}{#1} } % New EXpression
\newcommand{\T}[1]{\text{#1} }
\newcommand{\SeeDiag}{\:\langle\!\langle\text{see diagram}\rangle\!\rangle }
%%
`$

内容:

ハブ記事:

書き方の約束

構造記述のための指標と名前 1/n 基本」の最後に次のように書きました。

応用編として続きの記事を書く予定ではいますが、もう色は付けないかなぁ。だって、色付けるの手でやってるからめんどくさいんだもん。色が付いてなくても、名前の種類や用法を判別できるようになってくださいな。

というわけで、すべての名前を色分けはしませんが、指標名と構成素役割り名の最初の出現だけはオレンジ色にします*1。初出で宣言された後は、(当該のスコープ内では)既知名として扱われ、特に色は付けません。

構造記述のための指標と名前 1/n 基本」では、変数を導入して変数に値を束縛するには次のニ行を使っていました。

$`\quad \T{variable }X\\
\quad \T{let }X := \cdots
`$

これは冗長なので、以下の一行で済ませます。

$`\quad \T{let }X := \cdots
`$

$`\T{let}`$ で導入された変数名は一時的に使うだけで、外部に公開される名前ではありません。

圏の指標

小さい圏を定義します。小さい圏は、集合圏のなかで定義されます。つまり、小さい圏の指標のターゲット〈標的環境〉は集合圏だということです。「圏を定義するのに圏を前提するのか?」と怪訝に思うかもしれませんが、圏を定義するのに圏を前提します! スノーグローブ現象/マイクロコスモ原理(「依存アクテゴリーに向けて // スノーグローブ現象/マイクロコスモ原理」参照)は避けようがないことがあるので、そこは開き直ります*2

集合圏 $`{\bf Set}`$ をターゲットとする小さい圏〈small category〉の指標は次のようになります。幾つかの注意事項をすぐ後に書きます。

$`\T{signature }\NN{SmallCategory}\T{ within } ({\bf Set} \T{ as CategoryWithFiberedProduct})\\
\{ \\
\:\T{data}\\
\quad \NN{Obj}\\
\quad \NN{Mor}\\
\quad \T{let } \cat{C}_0 := \T{Obj}\\
\quad \T{let } \cat{C}_1 := \T{Mor}\\
\quad \NN{dom} : \cat{C}_1 \to \cat{C}_0\\
\quad \NN{cod} : \cat{C}_1 \to \cat{C}_0\\
\quad \NN{id} : \cat{C}_0 \to \cat{C}_1 \\
\quad \T{define }\NN{MorPair} := \cat{C}_1 \NFProd{\T{cod}}{ \cat{C}_0 }{\T{dom}} \cat{C}_1\\
\quad \T{let }\ \cat{C}_2 := \T{MorPair}\\
\quad \T{define }\NN{fst} := \pi_1^{ \T{cod}, \T{dom} } : \cat{C}_2 \to \cat{C}_1 \\
\quad \T{define }\NN{snd} := \pi_2^{ \T{cod}, \T{dom} } : \cat{C}_2 \to \cat{C}_1 \\
\quad \NN{comp} : \cat{C}_2 \to \cat{C}_0\\
\:\T{laws}\\
\quad \NN{id-dom} \SeeDiag \\
\quad \NN{id-cod} \SeeDiag \\
\quad \NN{comp-dom} \SeeDiag \\
\quad \NN{comp-cod} \SeeDiag \\
\quad \NN{assoc} \SeeDiag \\
\quad \NN{lunit} \SeeDiag \\
\quad \NN{runit} \SeeDiag \\
\}
`$

この指標によって新規導入され公開される名前は以下のものです。初出をオレンジ色にしているのですぐ分かります。

  1. $`\T{SmallCategory}`$ : 小さい圏〈small category〉
  2. $`\T{Obj}`$ : 圏の対象集合〈set of objects〉
  3. $`\T{Mor}`$ : 圏の射集合〈set of morphisms〉
  4. $`\T{dom}`$ : 射に、域〈domain〉を対応させる写像
  5. $`\T{cod}`$ : 射に、余域〈codomain〉を対応させる写像
  6. $`\T{id}`$ : 対象に、恒等射〈identity〉を対応させる写像
  7. $`\T{MorPair}`$ : 結合可能〈composable〉な射のペア
  8. $`\T{fst}`$ : 結合可能な射のペアの第一〈first〉成分
  9. $`\T{snd}`$ : 結合可能な射のペアの第二〈second〉成分
  10. $`\T{comp}`$ : 結合〈compsition〉演算
  11. $`\T{id-dom}`$ : 恒等射の域に関する法則
  12. $`\T{id-cod}`$ : 恒等射の余域に関する法則
  13. $`\T{comp-dom}`$ : 結合結果の域に関する法則
  14. $`\T{comp-cod}`$ : 結合結果の余域に関する法則
  15. $`\T{assoc}`$ : 結合演算の結合法則〈associative law〉
  16. $`\T{lunit}`$ : 結合演算と恒等射の左単位律〈left unit law〉
  17. $`\T{runit}`$ : 結合演算と恒等射の右単位律〈right unit law〉

このなかで、$`\T{MorPair}, \T{fst}, \T{snd}`$ は定義された名前です。

小さい圏のターゲット〈標的環境〉である圏 $`{\bf Set}`$ は特定されたファイバー積を持つ圏と考えます。そのことを
$`\quad \T{ within } ({\bf Set} \T{ as CategoryWithFiberedProduct})`$
が表しています*3

「特定されたファイバー積を持つ」とはどういうことか? 説明します; 以下は、与えられたコスパンに対するプルバック図式のフレーム/テンプレート(「圏論におけるフレーム充填問題」参照)だとします。

$`\quad \xymatrix {
? \ar@{.>}[r] \ar@{.>}[d]
\ar@{}[dr]|{?\,\text{p.b.} }
& B \ar[d]^g
\\
A \ar[r]_f
& C
}\\
\quad \In {\bf Set}
`$

集合圏なら、疑問符の対象と点線の射、それと四角形内部を埋める等式〈2-射〉が存在します。が、フレーム充填問題(ここでは、極限錐を求める問題)の解が一意的とは限りません。幾つかある解のなかからひとつを選んで〈特定して〉次のように表します。

$`\quad \xymatrix {
{A \NFProd{f}{C}{g} B} \ar[r]^-{\pi_1^{f, g}} \ar[d]_{\pi_2^{f, g}}
\ar@{}[dr]|{=\,\text{p.b.} }
& B \ar[d]^g
\\
A \ar[r]_f
& C
}\\
\quad \In {\bf Set}
`$

したがって、$`({\bf Set} \T{ as CategoryWithFiberedProduct})`$ では、$`\NFProd{\hyp}{\hyp}{\hyp}`$ と $`\pi_i^{\hyp, \hyp }`$ という名前(記号、書き方)を既知名として使うことができます。実際、指標内で使っています。

上記の指標では、$`\cat{C}_0, \cat{C}_1, \cat{C}_2`$ のような変数名を $`\T{let}`$ で導入しています。$`\T{define}`$ は公開される名前を定義しますが、$`\T{let}`$ は一時的な変数名を値〈右辺〉に束縛するだけです。これらの変数名は、後の記述を簡潔にする目的だけで使われる一時的な名前です。必須というわけではありません。

$`\cat{C}_0, \cat{C}_1, \cat{C}_2`$ の導入は、実は二重圏の記述への準備です。二重圏では、(1-圏とは習慣が違い)下付きの 0, 1 で対象と射を識別する習慣です。カリグラフィー体フォントの $`\cat{C}_0`$ だと、目視で圏に“見えてしまう”かもしれませんが、$`\cat{C}_0, \cat{C}_1, \cat{C}_2`$ は集合です。$`\cat{C}_0 := |\cat{C}|, \cat{C}_1 := \mrm{Mor}(\cat{C})`$ と約束されていると思ってください。

$`\SeeDiag`$ は、別な場所で図式〈diagram〉により記述されることを示します。法則はすべて図式により記述します。それらの図式は次節にします。

図式による記述

等式的法則の図式による記述については、「構造記述のための指標と名前 1/n 基本 // 図式による法則の記述」で説明しています。

最初の4つの法則の図式達は以下です。残りの法則については、次節でスパンに関する補足をした後に示します。

$`\quad \xymatrix@C+1pc{
\cat{C}_0 \ar[d]_{\T{id}} \ar@{=}[r]
\ar@{}[dr]|{\underset{\nearrow}{=}\, \T{id-dom}}
& \cat{C}_0 \ar@{=}[d]
\\
\cat{C}_1 \ar[r]_{\T{dom}}
& \cat{C}_0
}\\
\quad \In {\bf Set}
`$

$`\quad \xymatrix@C+1pc{
\cat{C}_0 \ar[d]_{\T{id}} \ar@{=}[r]
\ar@{}[dr]|{\underset{\nearrow}{=}\, \T{id-cod}}
& \cat{C}_0 \ar@{=}[d]
\\
\cat{C}_1 \ar[r]_{\T{cod}}
& \cat{C}_0
}\\
\quad \In {\bf Set}
`$

$`\quad \xymatrix@C+1pc{
\cat{C}_2 \ar[d]_{\T{comp}} \ar[r]^{\T{fst}}
\ar@{}[dr]|{\underset{\nearrow}{=}\, \T{comp-dom}}
& \cat{C}_1 \ar[d]^{\T{dom} }
\\
\cat{C}_1 \ar[r]_{\T{dom}}
& \cat{C}_0
}\\
\quad \In {\bf Set}
`$

$`\quad \xymatrix@C+1pc{
\cat{C}_2 \ar[d]_{\T{comp}} \ar[r]^{\T{snd}}
\ar@{}[dr]|{\underset{\nearrow}{=}\, \T{comp-cod}}
& \cat{C}_1 \ar[d]^{\T{cod} }
\\
\cat{C}_1 \ar[r]_{\T{cod}}
& \cat{C}_0
}\\
\quad \In {\bf Set}
`$

1番目のペースティング図(可換図式と同じこと)をテキスト等式で書いてみると:

$`\quad \T{id-dom} :: \T{id};\T{dom} \twoto \id_{\cat{C}_0} \In {\bf Set}`$

名前 '$`\T{id}`$' のコンフリクト〈バッティング | かち合い〉が発生してしまいました。右辺の $`\id_{\cat{C}_0}`$ は集合圏の恒等射の意味であり、左辺の $`\T{id}`$ は指標で導入された新規名(小さい圏の恒等射を指す名前)です。名前を使った記述ではコンフリクトは避けられません。綴りやフォントの変更で対処したり、オーバーロード〈同じ名前に複数の意味を持たせる)の約束でしのいだりします。我々は名前を使ったコミュニケーションをしているので、これは致し方ないこと、宿命ですね。

それはともかく、上記の4つのペースティング図は、法則である2-射を描いたものです。(法則以外の)データである0-射〈対象〉と1-射も図式で見たほうが分かりやすいです。以下の図は、小さい圏の構成素である0-射と1-射をすべて列挙しています。

$`\quad \xymatrix@C+1pc{
\cat{C}_2 \ar[r]|{\T{comp}} \ar@/^1pc/[r]^{\T{fst}}\ar@/_1pc/[r]_{\T{snd}}
& \cat{C}_1 \ar@/^1pc/[r]^{\T{dom}}\ar@/_1pc/[r]_{\T{cod}}
& \cat{C}_0 \ar[l]|{\T{id}}
}\\
\quad \In {\bf Set}
`$

この図は、可換図式やペースティング図ではないので、2次元の面(あるいは膜)は全くありません。単に、ドット〈0次元の頂点〉とアロー〈1次元の矢印〉が「在る」ことを示しているだけです。法則を表現する図とは区別して、データ列挙図〈data enumeration diagram〉とか呼ぶと誤解を避けられるでしょう。

データ列挙図は、必ずしもひとつにまとめる必要はありません。次のように描いてもかまいません。

$`\quad \xymatrix@C+1pc{
\cat{C}_2 \ar[r]|{\T{comp}} \ar@/^1pc/[r]^{\T{fst}}\ar@/_1pc/[r]_{\T{snd}}
& \cat{C}_1
}\\
\quad \xymatrix@C+1pc{
\cat{C}_1 \ar@/^1pc/[r]^{\T{dom}}\ar@/_1pc/[r]_{\T{cod}}
& \cat{C}_0
}\\
\quad \xymatrix@C+1pc{
\cat{C}_0 \ar[r]^{\T{id}}
& \cat{C}_1
}\\
\quad \In {\bf Set}
`$

指標のデータパートをデータ列挙図で描いて、法則パートは幾つかの法則ペースティング図で描けば、テキスト記述はまったく不要になります。テキスト記述を残すのは、いわば“後方互換性”からです*4

スパン

集合圏におけるスパンとは次の指標で記述される構造です。

$`\T{signature }\NN{Span}\T{ within } ({\bf Set} \T{ as CategoryWithFiberedProduct})\\
\{ \\
\quad \NN{LeftFoot}\\
\quad \NN{RightFoot}\\
\quad \NN{Body}\\
\quad \NN{leftLeg} : \T{Body} \to \T{LeftFoot}\\
\quad \NN{rightLeg} : \T{Body} \to \T{RightFoot}\\
\}
`$

法則はありません。

スパンを一文字 $`X`$ で表したときは、次の約束をします。

  • ボディ〈body〉は $`\o{X}`$ と書く。
  • 左脚〈left leg〉は $`l_{X}`$ と書く。
  • 右脚〈right leg〉は $`r_{X}`$ と書く。

$`\quad \xymatrix{
{}
& \o{X} \ar[dl]_{l_{X} } \ar[dr]^{ r_{X} }
& {}
\\
A
&{}
& B
}\\
\quad \In {\bf Set}
`$

集合圏におけるスパン $`X, Y`$ があったとします。

  • $`X = (A \overset{l_X}{\leftarrow} \o{X} \overset{r_X}{\to} B)`$
  • $`Y = (B \overset{l_Y}{\leftarrow} \o{Y} \overset{r_Y}{\to} C)`$

($`X`$ の右足) = ($`Y`$ の左足) です。このとき、$`X`$ と $`Y`$ のテンソル積〈tensor product〉(とりあえずそう呼ぶ)を定義できます。テンソル積のボディは以下の図の $`\o{X\otimes Y}`$ で、左右の脚も図から読み取れるとおりです。

$`\quad \xymatrix{
{}
& {}
& {\o{X\otimes Y}} \ar[dl] \ar[dr]
\ar@{}[dd]|{\text{p.b.}}
& {}
& {}
\\
{}
& {\o{X}} \ar[dr]^{l_X} \ar[dl]_{r_Y}
& {}
& {\o{Y}} \ar[dr]^{l_Y} \ar[dl]_{r_Y}
& {}
\\
{A}
& {}
& {B}
& {}
& {C}
}\\
\quad \In {\bf Set}
`$

2つのスパン $`X, Y`$ (足の条件は満たす)に対してテンソル積スパン $`X\otimes Y`$ がちゃんと定義できるのは、集合圏が特定されたファイバー積(上の図のひし形部分から決まる)を持つからです。

さて、以下のような自明なスパンを、記号の乱用で単に $`A`$ と略記することにします。

$`\quad \xymatrix{
{}
& A \ar[dl]_{\id_A } \ar[dr]^{ \id_A }
& {}
\\
A
&{}
& A
}\\
\quad \In {\bf Set}
`$

略記の約束のもとで、以下のような法則が成立します。

$`\text{For } X = (A \overset{l_X}{\leftarrow} \o{X} \overset{r_X}{\to} B)\\
\text{For } Y = (B \overset{l_Y}{\leftarrow} \o{Y} \overset{r_Y}{\to} C)\\
\text{For } Z = (C \overset{l_Z}{\leftarrow} \o{Z} \overset{r_Z}{\to} D)\\
\:\\
\quad (X\otimes Y) \otimes Z \cong X\otimes (Y \otimes Z )\\
\quad A\otimes X \cong X\\
\quad X \otimes B \cong X
`$

法則の同型 $`\cong`$ を与える射をそれぞれ(記号のオーバーロードをして)以下のように表します。

$`\quad \alpha_{X, Y, Z} : (X\otimes Y) \otimes Z \to X\otimes (Y \otimes Z) \In {\bf Set}\\
\quad \lambda_{X} : A\otimes X \to X\In {\bf Set}\\
\quad \rho_{X} : X \otimes B \to X\In {\bf Set}
`$

スパンの圏をキチンと定義すれば、もう少しスッキリした記述ができますが、とりあえずはこれでいいとしましょう。

圏の法則の記述

小さい圏の法則である $`\T{assoc}, \T{lunit}, \T{runit}`$ を図式〈ペースティング図〉で記述しましょう。これらの法則は、「構造記述のための指標と名前 1/n 基本」で例として挙げたモノイドの法則と同じです。法則は同じですが、解釈する場所〈ターゲット | 標的環境〉が違います。

  • モノイドの法則を解釈する場所: デカルト・モノイド圏としての $`{\bf Set}`$
  • 小さい圏の法則を解釈する場所: デカルト・モノイド圏としての $`\mrm{SPAN}({\bf Set})(\cat{C}_0, \cat{C}_0)`$

$`\mrm{SPAN}({\bf Set})(\cat{C}_0, \cat{C}_0)`$ をちゃんと定義も説明もしてないのですが、次の対応関係を考えれば大丈夫です。

モノイドの法則 小さい圏の法則
集合の直積 スパンのテンソル積
単元集合 自明なスパン
直積の結合律子 テンソル積の結合律子
直積の左単位律子 テンソル積の左単位律子
直積の右単位律子 テンソル積の右単位律子
写像 写像

圏の指標の一部を取り出すと次の図式が得られます。

$`\quad \xymatrix{
{}
& \cat{C}_1 \ar[dl]_{\T{dom} } \ar[dr]^{ \T{cod} }
& {}
\\
\cat{C}_0
&{}
& \cat{C}_0
}\\
\quad \In {\bf Set}
`$

これは集合圏のスパンです。このスパンを $`\widehat{\cat{C}}`$ と書くことにします。次の関係が成立します。

$`\quad \o{ \widehat{\cat{C}} } = \cat{C}_1\\
\quad l_{ \widehat{\cat{C}} } = \T{dom}\\
\quad r_{ \widehat{\cat{C}} } = \T{cod}\\
\text{i.e.} \\
\quad \widehat{\cat{C}} = (\cat{C}_0 \overset{\T{dom}}{\leftarrow} \cat{C}_1 \overset{\T{cod}}{\to} \cat{C}_0)
`$

前節のスパンに関わる記法と、今約束した $`\widehat{\cat{C}}`$ を使うと、小さい圏の法則は次のように描けます。

$`\quad \xymatrix{
(\widehat{\cat{C}}\otimes \widehat{\cat{C}})\otimes \widehat{\cat{C}} \ar[r]^{\alpha_{\widehat{\cat{C}},\widehat{\cat{C}},\widehat{\cat{C}}}} \ar[d]_{\T{comp}\otimes \id_{\widehat{\cat{C}}}}
\ar@{}[ddr]|{\underset{\nearrow}{=}\,\T{assoc}}
& \widehat{\cat{C}}\otimes (\widehat{\cat{C}} \otimes \widehat{\cat{C}}) \ar[d]^{\id_{\widehat{\cat{C}}} \otimes \T{comp}}
\\
\widehat{\cat{C}} \otimes \widehat{\cat{C}} \ar[d]_{\T{comp}}
& \widehat{\cat{C}} \otimes \widehat{\cat{C}} \ar[d]^{\T{comp}}
\\
\widehat{\cat{C}} \ar@{=}[r]
& \widehat{\cat{C}}
}\\
\quad \In \mrm{SPAN}({\bf Set})(\cat{C}_0, \cat{C}_0)
`$

$`\quad \xymatrix @C+1.5pc{
\widehat{\cat{C}} \ar@{=}[r] \ar[d]_{ {\lambda_{\widehat{\cat{C}}}}^{-1} }
\ar@{}[ddr]|{\underset{\nearrow}{=}\, \T{lunit}}
& \widehat{\cat{C}} \ar@{=}[dd]
\\
{ \cat{C}_0 \otimes \widehat{\cat{C}}} \ar[d]_{\T{id} \otimes \id_{\widehat{\cat{C}}}}
& {}
\\
{\widehat{\cat{C}}\otimes \widehat{\cat{C}}} \ar[r]^{\T{comp}}
& \widehat{\cat{C}}
}\\
\quad \In \mrm{SPAN}({\bf Set})(\cat{C}_0, \cat{C}_0)
`$

$`\quad \xymatrix @C+1.5pc{
\widehat{\cat{C}} \ar@{=}[r] \ar[d]_{ {\rho_{\widehat{\cat{C}}}}^{-1} }
\ar@{}[ddr]|{\underset{\nearrow}{=}\, \T{runit}}
& \widehat{\cat{C}} \ar@{=}[dd]
\\
{ \widehat{\cat{C}} \otimes \cat{C}_0} \ar[d]_{\id_{\widehat{\cat{C}}} \otimes \T{id}}
& {}
\\
{\widehat{\cat{C}}\otimes \widehat{\cat{C}}} \ar[r]^{\T{comp}}
& \widehat{\cat{C}}
}\\
\quad \In \mrm{SPAN}({\bf Set})(\cat{C}_0, \cat{C}_0)
`$

解釈する場所が違うだけなので、モノイドの法則とラベルの違いしかありません。

図式に出てくる対象と射は、集合と写像なので、要素を選んで追いかけることができます。要素追いかけの図式は以下のようになります。$`f\otimes g`$ は、足の条件 $`\T{cod}(f) = \T{dom}(g)`$ を満たすペア $`(f, g)`$ の意味です(もちろん、'$`\otimes`$' はオーバーロードされています。)。$`\T{comp}`$ は中置演算子記号 $`(;)`$ で書いています。

$`\quad \xymatrix{
(f \otimes g)\otimes h \ar@{|->}[r]^{\alpha_{\widehat{\cat{C}},\widehat{\cat{C}},\widehat{\cat{C}}}} \ar@{|->}[d]_{(;)\otimes \id_{\widehat{\cat{C}}}}
\ar@{}[ddr]|{\underset{\nearrow}{=}\,\T{assoc}}
& f \otimes (g \otimes h) \ar@{|->}[d]^{\id_{\widehat{\cat{C}}} \otimes (;)}
\\
(f;g) \otimes h \ar@{|->}[d]_{(;)}
& f \otimes (g;h) \ar@{|->}[d]^{(;)}
\\
(f;g);h \ar@{=}[r]
& f;(g;h)
}
`$

$`\quad \xymatrix @C+1.5pc{
f \ar@{=}[r] \ar@{|->}[d]_{ {\lambda_{\widehat{\cat{C}}}}^{-1} }
\ar@{}[ddr]|{\underset{\nearrow}{=}\, \T{lunit}}
& f \ar@{=}[dd]
\\
{ A \otimes f} \ar@{|->}[d]_{\T{id} \otimes \id_{\widehat{\cat{C}}}}
& {}
\\
{\id_A \otimes f} \ar@{|->}[r]^{(;)}
& \id_A; f
}
`$

$`\quad \xymatrix @C+1.5pc{
f \ar@{=}[r] \ar@{|->}[d]_{ {\rho_{\widehat{\cat{C}}}}^{-1} }
\ar@{}[ddr]|{\underset{\nearrow}{=}\, \T{runit}}
& f \ar@{=}[dd]
\\
{ f \otimes B} \ar@{|->}[d]_{\id_{\widehat{\cat{C}}} \otimes \T{id}}
& {}
\\
{f \otimes \id_B} \ar@{|->}[r]^{(;)}
& f; \id_B
}
`$

そしてそれから

小さい圏を記述・定義するために、ファイバー積やスパンなどの圏論的概念を使いまくるので、なんか変な感じがするかも知れません。「圏論を使って圏を定義する」とはそういうことなのです。圏論的概念を形式的に定義するためには、事前にターゲット〈標的環境〉の圏論的構造・性質をよく調べておく必要があります。

二重圏、アクテゴリー、依存アクテゴリーなどを記述・定義するためには、「圏論を使って圏を定義する」手法以外によい方法がありません。次回は「圏論を使って二重圏を定義する」予定です。

*1:指標名と構成素役割り名はローマン体を使いますが、LaTeXの \mathrm{…} ではなくて、\text{…} を使っています。

*2:標的環境として特定固有の圏をひとつだけ前提することにより、無限に多くの圏達を作り出せるので、循環論法ではないし意義があります。

*3:$`\T{as}`$ の使用法は、「スケマティック系のために: 雑多な予備知識 // ドクトリン、コアージョン、関手意味論」で述べたコアージョンですが、ここでは非形式的〈インフォーマル〉です。

*4:僕は、テキスト記述が嫌いなので、後方互換性も早くなくなってくれ、と思っています。が、それには長い時間がかかるでしょう。「「コミュニケーションの多次元化」という革命に立ち会っているのだと思う」参照。