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参照用 記事

モノイドと群の淡中再構成 1/n

表題の話題については過去に書いているのですが、改めて何回かの記事に分けて書こうかと思います。過去記事を参照〈リンク〉はしますが、参照をたどらなくても済むように出来るだけ自己充足的〈self-contained〉なスタイルにします。「出来るだけ」ですけどね。

やりたいことは、淡中再構成〈Tannaka reconstruction〉の一番簡単なケース、つまりモノイド(または群)の表現達の圏からもとのモノイド(または群)を再構成することです。忘却関手に働く自己自然変換達のモノイド(または群)として再構成します。

実は、過去記事「米田埋め込みの繰り返しと淡中再構成」でも同じことを言っています。

淡中再構成〈Tannaka reconstruction〉を、米田の補題の直接的で簡単な応用として記述したい、ということです。米田の補題を知っていれば、(古典的・初等的な)淡中再構成は当たり前に見えるようにしたい、と。

「当たり前に見えるようにする」方法、別言すれば、「当たり前に見えることを邪魔している要因を取り除く」方法が以前より多少分かった気がします。で、このシリーズを書こうと思い立ったのです。視界を曇らせてしまう邪魔物を取り除いて明瞭にする手段の記述にも力を入れます。$`\newcommand{\cat}[1]{ \mathcal{#1} }
\newcommand{\mbf}[1]{ \mathbf{#1} }
\newcommand{\mrm}[1]{ \mathrm{#1} }
\newcommand{\u}[1]{ \underline{#1} }
\newcommand{\id}{ \mathrm{id}}
\newcommand{\op}{ \mathrm{op}}
\newcommand{\In}{ \text{ in }}
\newcommand{\hyp}{\text{-} }
%\newcommand{\EQV}{\mathrel{\overset{\sim}{\equiv}} }
`$

内容:

シリーズ内の記事:

  1. モノイドと群の淡中再構成 1/n (この記事)
  2. モノイドと群の淡中再構成 2/n : 概要
  3. モノイドと群の淡中再構成 3/n : End と Aut

関連する記事:

  1. 共変関手/反変関手はほんっとうにややこしい
  2. イイカゲンとインチキを悔い改めるためのコスト

シリーズ記事の約束

何回になるか分からないシリーズ記事のタイトル内には「1/n, 2/n, ...」のような文字列を入れることにします。「1/n」とタイトルされた第1回はハブ記事(リンク集)とします。最終回は「3/n (n = 3)」のように書いて(この場合は3回で終了)、最後が分かるようにします。

今までもこの方式でシリーズを書いたことがありますが、たいてい完結しないですね(苦笑)。今回は目標がハッキリしていて、モノイド(または群)が再構成できたらそれで完結です。話が横道に逸れたり、僕が興味を失うと完結しないかも知れません。

同義語セット/同義記法セット

「当たり前に見えることを邪魔している要因」あるいは「話を無駄に難しくしている要因」のひとつに、同義語/同義記法がたくさんあることが挙げられます。例えば、次の言葉は(ある文脈において)同義語です。

  1. 関手
  2. 表現
  3. 加群
  4. 作用

これらの言葉は同義語ですが、言い回し(言葉の運用ルール)が違います。

  1. モノイドからの関手
  2. モノイドの表現
  3. モノイド上の加群
  4. モノイド作用

語の字面が違うだけでなく言い回しも違うので、同義語だと気づきにくく、それにより混乱や無駄な労力が発生します。

対策としては、同義語セット〈synonym set | set of synonyms〉(同義である言葉達の集合)は、そうと分かるように明示するようにします。また、同義語セットのなかで主に使う用語(主要語〈primary {term | word}〉と呼ぶ)があれば、説明では主要語を使います。

記法も同義な書き方がたくさんあります。「米田埋め込みの書き方(色々ありすぎ)」でも話題にしましたが、次は同義です(どれも米田埋め込み)。

  • $`\cat{C}(\hyp, A)`$
  • $`{よ^A}`$
  • $`A^y`$
  • $`h_A`$

同義語同様、同義記法セット〈synonymous notation set〉を明示し、主要記法〈primary notation〉を使って説明するようにします。もっとも、米田埋め込みに関しては、$`\cat{C}(\hyp, A)`$ 、$`{よ^A}`$ 、$`{A^y}`$ どれも使いますが。

用語の正規表現パターン

同義語セットを明示する際に、同義語達を列挙する以外に、正規表現パターンを使う方法があります。これは過去記事「用語のバリエーション記述のための正規表現」で述べているのですが、今、手短に説明します。

パターンに出現する縦棒「|」は、「または」を意味します。例えば:

  {線形 | 線型 | ベクトル空間}表現

このパターンを展開して列挙すると次のようです。

  1. 線形表現
  2. 線型表現
  3. ベクトル空間表現

パターンに出現する疑問符「?」は、その直前の波括弧部分が「省略可能」であることを意味します。例えば:

  自己{準同型}?射{{達}?の}?モノイド

ここで、「準同型」「達」「達の」は省略可能です。このパターンを展開して列挙すると次のようです。

  1. 自己準同型射達のモノイド
  2. 自己射達のモノイド
  3. 自己準同型射のモノイド
  4. 自己射のモノイド
  5. 自己準同型射モノイド
  6. 自己射モノイド

パターンに出現する感嘆符「!」は、その直前の波括弧部分が空になることを禁止します。例えば:

  米田{{同型}?{写像}?}!

感嘆符を無視して考えると、パターンは以下の文字列達を表します。

  1. 米田同型写像
  2. 米田写像
  3. 米田同型
  4. 米田

しかし、「{‥‥}!」により「‥‥」部分が空になることは禁止されているので、「米田」はダメです。次の3つがパターンに合致します。

  1. 米田同型写像
  2. 米田写像
  3. 米田同型

省略系列と補完系列

省略系列〈abbreviation sequence〉とは、用語や記法が、だんだんと省略されて情報が減っていくような系列〈シーケンス〉です。例えば:

  1. 関手達と自然変換達からなる圏
  2. 関手と自然変換の圏
  3. 関手の圏
  4. 関手圏

通常我々は「関手圏」という言葉を使いますが、上記の系列を逆にたどると情報が豊富な「関手達と自然変換達からなる圏」という表現に至ります。だんだんと情報が増えていくような系列は補完系列〈completion sequence〉と呼びます。単に省略系列を逆順にしたものです。

  1. 関手圏
  2. 関手の圏
  3. 関手と自然変換の圏
  4. 関手達と自然変換達からなる圏

記法の略記系列も同様です。例えば:

  1. $`{^{\cat{C}}よ^\wedge[\hyp]}`$
  2. $`{^{\cat{C}}よ^\wedge}`$
  3. $`{^{\cat{C}}よ}`$
  4. $`{よ}`$

我々はしばしば「$`よ`$」を使いますが、圏 $`\cat{C}`$ 、共変であることを示す $`{^\wedge}`$ 、引数渡しに角括弧〈ブラケット〉を使うという情報が省略されています。記法の補完系列では、簡潔だが情報を削り落としてしまった書き方に対して情報を補完していきます。

  1. $`{よ}`$
  2. $`{^{\cat{C}}よ}`$
  3. $`{^{\cat{C}}よ^\wedge}`$
  4. $`{^{\cat{C}}よ^\wedge[\hyp]}`$

いきなり簡潔な省略記法を出されて、すぐに文脈から情報を取得して補完するのは難しいので、事前に省略系列(同じことだが補完系列)を示すようにします。

共変関手と反変関手

現在の圏論の流儀では、反変関手を反対圏からの共変関手として表現します。つまり、圏 $`\cat{C}`$ から圏 $`\cat{D}`$ への反変関手 $`F`$ を次のように書きます。

$`\quad F: \cat{C}^\op \to \cat{D} \In \mbf{CAT}`$

これは色々と便利なのですが、ときに都合が悪いことがあります。米田埋め込みを繰り返す場合(淡中埋め込みを構成する場合)には実際都合が悪いです。このことは「米田埋め込みの繰り返しと淡中再構成」やその他の記事でも触れています。

このシリーズでは、反対圏からの共変関手ではないほんとの反変関手〈genuine contravariant functor〉を遠慮なく使います。次のように書きます。

$`\quad F: \cat{C} \to \cat{D} \text{ contrav } \In \mbf{CAT}`$

$`\text{ contrav }`$ が反変関手であることを示す目印です。何も書かなければ共変関手です。共変関手であることを強調したいなら、目印 $`\text{cov}`$ を付けます。

$`\quad G: \cat{D} \to \cat{E} \text{ cov } \In \mbf{CAT}`$

$`F`$ と $`G`$ のこの順での結合 $`F*G`$ ('$`*`$' は図式順結合記号)は、$`\cat{C}\to\cat{E}`$ の反変関手になります。反対圏を使う方式では、このような結合が素直に出来ません。無意味・無駄な細工を強いられます -- そんな細工は嫌です。

記号の乱用と規準的同一視

記号の乱用、例えば「モノイド $`M = (M, \cdot, e)`$ 」を避けることは無理なのである程度は使います。しかしときに、記号の乱用により混乱したり、意図が通じにくいことがあります。そんなときは、記法が煩雑になるのは承知で記号の乱用は避けます。構造とその台〈underlying thing | carrier〉を区別する/しないがよくあるケースです。記号の乱用を避けるときは、モノイド $`M`$ の台は $`\u{M}`$ と書きます。underlying と underline をかけたダジャレ記法です。

構造の台がいつでも集合とは限りません。例えば、$`R`$ が環のとき、$`\u{R}`$ はアーベル群(だと約束する)かも知れません。ベクトル空間 $`V`$ の台 $`\u{V}`$ も(スカラー倍作用を忘れた)アーベル群のときもあるでしょう。もちろん、さらに足し算も忘れて台は集合だとすることもあります。

淡中再構成では、構造(モノイドや群)にその台を対応させる忘却関手が重要な役割りを演じます。構造とその台をゴッチャにしては、そもそも再構成の定式化も記述も出来ません。

一方で、規準的〈canonical〉な一対一対応があるとき、対応するニ者を同一視することがあります。例えば、モノイド $`M`$ と単一対象の圏〈one-object category〉のあいだには規準的な一対一対応があります。モノイドと対応する単一対象の圏を同一視して(同じモノとみなして)ひとつの名前 $`M`$ で表すことがあります。「$`M`$ はモノイドでもあり単一対象の圏でもある」という状況になるので、分かりにくい面もあります。例えば、次の等式:

$`\quad \u{M} = \mrm{Mor}(M)`$

これは、“モノイドとしての $`M`$”の台集合〈underlying set〉は、“圏としての $`M`$”の射達の集合〈set of morphisms〉に等しい、と言っています。

そしてそれから

今回は前置きだけで、内容的なことは何も書いていません。次回以降で内容に入ります。内容には、主題である淡中再構成もあるし、視界を曇らせてしまう邪魔物を取り除いて明瞭にする手段の話もあります。