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参照用 記事

モノイドと群の淡中再構成 3/n : End と Aut

前回の予告とは食い違いますが、End と Aut の話をします。

通常は、特別なホムセットの略記として使われている $`\mathrm{End}_\mathcal{C}(A)`$ を関手に仕立てます。同様に、ホムセットの部分集合とみなされる $`\mathrm{Aut}_\mathcal{C}(A)`$ も関手に仕立てます。$`\mathrm{End}, \mathrm{Aut}`$ は、淡中再構成のための道具なのですが、それ自体としてもけっこう面白いです。$`\newcommand{\cat}[1]{ \mathcal{#1} }
\newcommand{\mbf}[1]{ \mathbf{#1} }
\newcommand{\mrm}[1]{ \mathrm{#1} }
\newcommand{\u}[1]{ \underline{#1} }
\newcommand{\id}{ \mathrm{id}}
\newcommand{\Id}{ \mathrm{Id}}
\newcommand{\op}{ \mathrm{op}}
\newcommand{\In}{ \text{ in }}
\newcommand{\hyp}{\text{-} }
\newcommand{\base}[1]{ {{#1}\!\lrcorner} }
%\newcommand{\EQV}{\mathrel{\overset{\sim}{\equiv}} }
`$

内容:

ハブ記事:

モノイド/群としての End/Aut

圏 $`\cat{C}`$ とその対象 $`A\in |\cat{C}|`$ に対して、自己射〈endomorphism〉達の集合は次のように定義されます。

$`\quad \mrm{End}_\cat{C}(A) := \mrm{Hom}_\cat{C}(A, A) = \cat{C}(A, A)`$

この定義では、$`\mrm{End}_\cat{C}(A)`$ は単なる集合ですが、ここから先、モノイドだと考えます。モノイド演算は射の結合で、モノイド単位元は恒等射です。次のように書きます。

$`\quad \mrm{End}_\cat{C}(A) := (\u{\mrm{End}}_\cat{C}(A), ;, \id_A)`$

ここで、$`\u{\mrm{End}}_\cat{C}(A)`$ はモノイドの台集合〈underlying set〉である単なる集合、セミコロン '$`;`$' は結合の図式順演算子記号です。

これで、次のような写像が定義できました。以下で、$`\mbf{Mon}`$ はモノイド達の圏です。

$`\quad |\cat{C}| \ni A \mapsto \mrm{End}_\cat{C}(A) \in |\mbf{Mon}|\\
\text{i.e.}\\
\quad \mrm{End}_\cat{C}(\hyp) : |\cat{C}| \to |\mbf{Mon}| \In \mbf{SET}
`$

同様に、自己同型射〈自己可逆射〉達 $`\mrm{Aut}_\cat{C}(A)`$ は群だと考えます。以下で、$`\mbf{Grp}`$ は群達の圏です。

$`\quad \mrm{Aut}_\cat{C}(A) := (\u{\mrm{Aut}}_\cat{C}(A), ;, \id_A, (\hyp)^{-1})`$

$`\quad |\cat{C}| \ni A \mapsto \mrm{Aut}_\cat{C}(A) \in |\mbf{Grp}|\\
\text{i.e.}\\
\quad \mrm{Aut}_\cat{C}(\hyp) : |\cat{C}| \to |\mbf{Grp}| \In \mbf{SET}
`$

$`\cat{C} = \mbf{FinSet}`$ の場合、$`\mrm{Aut}_{\mbf{FinSet}}(A)`$ は、有限集合 $`A`$ の置換群です。$`\cat{C} = \mbf{FdVect}_{\mbf{R}}`$ の場合、$`\mrm{Aut}_{\mbf{FdVect}_{\mbf{R}}}(V)`$ は、実係数の有限次元ベクトル空間 $`V`$ の一般線形群 $`\mrm{GL}(V)`$ です。

ファミリー達の圏

$`\cat{D}`$ を圏として、$`X`$ は集合とします。$`F`$ が、$`X`$ 上の$`\cat{D}`$-値ファミリー〈$`\cat{D}`$-valued family on $`X`$〉だとは次のことです。

$`\quad F: X \to |\cat{D}| \In \mbf{SET}`$

[補足]
ファミリーの定義は、集合 $`X`$ を離散圏〈discrete category〉とみなした圏を $`\mrm{DiscCat}(X)`$ として、
$`\quad F: \mrm{DiscCat}(X) \to \cat{D} \In \mbf{CAT}`$
としたほうが合理的です。こう定義すると、ファミリー射の定義と一貫性があります。

関手圏 $`[\mrm{DiscCat}(X) , \cat{D}]`$ の対象(関手)がファミリーで、射(自然変換)がファミリー射になります。異なる集合上のファミリーのあいだの射を定義するにはグロタンディーク構成を利用します。

この定義をするには、関手圏グロタンディーク構成の説明を事前にする必要があるので、僕は、上記のような定義を使うときが多いです。異なる集合上のファミリーのあいだの射も、グロタンディーク構成を経由しないで直接的に定義できます(以下にその記述あり)。
[/補足]

$`F, G`$ は、異なる(かも知れない)集合 $`X, Y`$ 上の$`\cat{D}`$-値ファミリーだとします。

$`\quad F:X \to |\cat{D}| \In \mbf{SET}\\
\quad G:Y \to |\cat{D}| \In \mbf{SET}
`$

このとき、$`F`$ から $`G`$ へのファミリー射〈family morphism | morphism between families〉は次のようなものです。

$`\quad \varphi = (\base{\varphi}, \varphi^\flat): F \to G\\
\text{Where}\\
\quad \base{\varphi} : X \to Y \In \mbf{Set}\\
\quad \varphi^\flat := (\varphi^\flat_x)_{x\in X}\\
\quad \text{Where } \varphi^\flat_x : F(x) \to G(\base{\varphi}(x)) \In \cat{D}
`$

$`\cat{D}`$-値ファミリーとファミリー射の全体は圏をなすことが確認できます。この圏を $`\mrm{Fam}(\cat{D})`$ と書きます。

バンドル-ファミリー対応という対応があります。今、バンドル-ファミリー対応を使うわけではありませんが、用語はバンドルとファミリーで共通にします。(興味があれば過去記事「バンドル-ファミリー対応 再考」あたりを見てください。)

  • ファミリー $`F:X \to |\cat{D}|`$ の $`X`$ を、ベース集合〈base set〉、または単にベース〈base〉と呼ぶ。
  • $`x\in X`$ に対する $`F(x)`$ を、$`x`$ のファイバー〈fiber〉と呼ぶ。ファイバーは $`\cat{D}`$ の対象、集合とは限らない。
  • ファミリー射 $`\varphi`$ の $`\base{\varphi}`$ を、ベースパート〈base part〉と呼ぶ。
  • ファミリー射 $`\varphi`$ の $`\varphi^\flat`$ を、ファイバーパート〈fiber part〉と呼ぶ。
  • $`x\in X`$ に対する $`\varphi^\flat_x : F(x) \to G(\base{\varphi}(x))`$ は、ファイバーパートの成分〈component〉と呼ぶ。ファイバーパートの成分もファイバーパートと呼ぶことがある(用語の乱用)。

ファミリー射 $`\varphi : F \to G \In \mrm{Fam}(\cat{D})`$ において、次が成立するときファイバーごとに同型〈isomorphic-on-fibers〉といいます。

$`\quad \forall x\in X.( \varphi^\flat_x : F(x) \overset{\to}{\cong} G(\base{\varphi}(x)) \In \cat{D})`$

「ファイバーごとに同型」は、ファミリー射に関する性質であって、$`F`$ と $`G`$ の関係を述べているわけではありません

圏に対してファミリーを割り当てる

しばらくのあいだ、圏 $`\cat{C}`$ は小さい圏だとします。したがって、$`|\cat{C}|`$ は集合です。圏 $`\cat{C}`$ に対して $`\mrm{End}_{\cat{C}}`$ は$`\mbf{Mon}`$-値ファミリーになります。これは次を意味します。

$`\quad \mrm{End}_\cat{C} : |\cat{C}| \to |\mbf{Mon}| \In \mbf{SET}\\
\text{Where } |\cat{C}| \in |\mbf{Set}|
`$

あるいは、同じことですが:

$`\quad |\cat{C}| \ni A \mapsto \mrm{End}_\cat{C}(A) \in |\mbf{Mon}| \In \mbf{SET}`$

この対応を次のような関手にしましょう。右下付きのハイフン('$`\hyp`$')は、関手の引数が入る場所を示します。

$`\quad \mrm{End}_\hyp : {_1 \mbf{Cat}} \to \mrm{Fam}(\mbf{Mon}) \In \mbf{CAT}`$

$`{_1 \mbf{Cat}}`$ は1-圏としての“圏達の圏”のことで、自然変換〈2-射〉は考えてません。

$`\mrm{End}_\hyp`$ の対象パート(下)は、最初の節で既に定義しています。

$`\quad |\mbf{Cat}| \ni \cat{C} \mapsto \mrm{End}_\cat{C} \in |\mrm{Fam}(\mbf{Mon})| \In \mbf{SET}`$

$`\mrm{End}_\hyp`$ の射パートは、関手 $`F:\cat{C}\to\cat{D}`$ に対する $`\mrm{End}_F`$ をうまく決めれば定義できます。$`\varphi := \mrm{End}_F`$ と置いて、$`\varphi`$ を決めましょう。$`\varphi`$ はファミリー射なので、次のように書けます。

$`\quad \varphi = (\base{\varphi}, \varphi^\flat)\\
\text{Where}\\
\quad \base{\varphi} : |\cat{C}| \to |\cat{D}| \In \mbf{Set}\\
\quad \varphi^\flat = (\varphi^\flat_X)_{X \in |\cat{D}|} \\
\quad \text{Where } \varphi^\flat_X : \mrm{End}_\cat{C}(X) \to \mrm{End}_\cat{D}(\base{\varphi}(X) ) \In \mbf{Mon}
`$

$`\base{\varphi}`$ を “$`F`$ の対象パート $`F_\mrm{obj}`$” 、$`\varphi^\flat_X`$ を “$`F`$ のホムパート $`F_{X, X}`$” とすると:

$`\quad \base{\varphi} := F_\mrm{obj} : |\cat{C}| \to |\cat{D}| \In \mbf{Set}\\
\quad \varphi^\flat := (F_{X, X})_{X \in |\cat{D}|}\\
\quad \text{Where } F_{X, X} : \mrm{End}_\cat{C}(X) \to \mrm{End}_\cat{D}(F_\mrm{obj}(X) )
`$

これにより、$`\varphi := \mrm{End}_F`$ はキチンと定義されます(well-defined)。

さらに、$`\mrm{End}_\hyp`$ が関手であるためには次の条件の成立が必要です。

$`\text{For }F:\cat{C} \to \cat{D} \In \mbf{Cat}\\
\text{For }G:\cat{D} \to \cat{E} \In \mbf{Cat}\\
\quad \mrm{End}_{F*G} = \mrm{End}_{F} ; \mrm{End}_{G}
`$

$`\text{For }\cat{C} \In \mbf{Cat}\\
\quad \mrm{End}_{\Id_\cat{C}} = \id_{\mrm{End}_{\cat{C}} }
`$

これは単に普通の関手性ですが、記号の説明をしておくと; アスタリスク '$`*`$' は、関手の結合の図式順演算子記号、セミコロン '$`;`$' はファミリー射の結合の図式順演算子記号、$`\mrm{Id}`$ は恒等関手、$`\id`$ は恒等ファミリー射です。

$`\mrm{End}_\hyp`$ の関手性は定義を丁寧に見れば、そこからすぐに出ます。

自己同型射群は、自己射モノイドの可逆な要素だけを取り出せばいいので、$`\u{\mrm{Aut}}_\cat{C}(A)`$ です。$`\mrm{Aut}`$ が $`\mrm{End}`$ の(ファイバーごとに)部分集合になるだけで、関手としての $`\mrm{Aut}`$ の構成は $`\mrm{End}`$ と同様です。次のような関手ができます。

$`\quad \mrm{Aut}_\hyp : {_1 \mbf{Cat}} \to \mrm{Fam}(\mbf{Grp}) \In \mbf{CAT}`$

なお、$`\mrm{Obj}(F) := F_\mrm{obj}`$、$`\mrm{Base}(\varphi) := \base{\varphi}`$ などと定義すると以下の図式は可換になります。

$`\quad \xymatrix{
{_1\mbf{Cat}} \ar[d]_{\mrm{Obj}} \ar[r]^{\mrm{End}_\hyp}
&{\mrm{Fam}(\mbf{Mon})} \ar[d]^{\mrm{Base}}
\\
\mbf{Set} \ar@{=}[r]
& \mbf{Set}
}\\
\quad \text{commutative }\In \mbf{CAT}
`$

$`\quad \xymatrix{
{_1\mbf{Cat}} \ar[d]_{\mrm{Obj}} \ar[r]^{\mrm{Aut}_\hyp}
&{\mrm{Fam}(\mbf{Grp})} \ar[d]^{\mrm{Base}}
\\
\mbf{Set} \ar@{=}[r]
& \mbf{Set}
}\\
\quad \text{commutative }\In \mbf{CAT}
`$

充満忠実関手とファイバーごとに同型なファミリー射

$`\mrm{End}_\hyp, \mrm{Aut}_\hyp`$ の重要な性質として、関手 $`F`$ が充満忠実なとき、対応するファミリー射 $`\mrm{End}_F, \mrm{Aut}_F`$ がファイバーごとに同型な射になることがあります。これは、$`\mrm{End}_\hyp, \mrm{Aut}_\hyp`$ の定義を理解してしまえばほぼ自明なことです。

関手 $`F:\cat{C} \to \cat{D}`$ が充満忠実〈fully faithful | f.f.〉とは、すべてのホムパート $`F_{A, B}`$ が全単射〈双射〉写像なことです。次のように書けます。

$`\forall A, B \in |\cat{C}|\\
\quad (F_{A, B} : \cat{C}(A, B) \to \cat{D}(F(A), F(B)) \In \mbf{Set}) \text{ is bijective}
`$

特に、$`A = B`$ と置くと:

$`\forall A \in |\cat{C}|\\
\quad (F_{A, A} : \cat{C}(A, A) \to \cat{D}(F(A), F(A)) \In \mbf{Set}) \text{ is bijective}
`$

$`A = B`$ と置いたホムセットは、自己射モノイド/自己同型射群の台集合なので、台集合のあいだに(集合の)同型射=全単射 があることになります。以下は、自己射モノイドのケースですが、自己同型射群でも同様です。

$`\forall A \in |\cat{C}|\\
\quad (F_{A, A} : \u{\mrm{End}}_{\cat{C}}(A) \to \u{\mrm{End}}_{\cat{D}}(F(A)) \In \mbf{Set}) \text{ is bijective}
`$

モノイド/群において、台集合のあいだの台写像が全単射であれば、実はモノイド/群の同型〈可逆射〉です。このことから、次が言えます。

$`\forall A \in |\cat{C}|\\
\quad ( (\mrm{End}_F)^\flat_A : \mrm{End}_{\cat{C}}(A) \to \mrm{End}_{\cat{D}}( \base{(\mrm{End}_F)}(A)) \In \mbf{Mon}) \text{ is isomorphic}
`$

これは、定義と照らし合わせれば、ファミリー射 $`\mrm{End}_F`$ がファイバーごとに(対象 $`A`$ ごとに)同型なことです。$`\mrm{End}_F`$ の場合はファイバーごとにモノイドの同型、$`\mrm{Aut}_F`$ の場合はファイバーごとに群の同型となります。

今回のここまでの議論は、圏は小さいという前提でした。が、圏として大きな圏を想定しても、充満忠実関手がファイバーごとに同型なファミリー射を誘導することは示せます。

そしてそれから

今回の話(前節で述べた定理)は、関手にファミリー射を対応させる $`\mrm{End}_\hyp, \mrm{Aut}_\hyp`$ の定義を理解してしまえば難しくはありません。「モノイドと群の淡中再構成 2/n : 概要 // 長大無技巧な証明」で述べた無技巧な記述です。淡中再構成を組み立てることは、このテの無技巧な事実を淡々と積み上げることでした。

次は、(予定変更してしまったけど)前回の予告だったラムダ計算にいくか? それとも米田の補題にいくか? あんまり決めてない。