このブログの更新は X(旧Twitter)アカウント @m_hiyama で通知されます。
Follow @m_hiyama

ご連絡は上記 X アカウントに DM にてお願いします。

参照用 記事

順序数と集合圏

順序数の話は以下の過去記事でしたことがあります。

その動機を以下のように書いています。

順序数に沿って再帰的構成や帰納的証明をするとき、順序数全体をモノイド圏だとみなしたほうが便利なので、そのことを話題にします。

今回の記事の動機も同じです。が、モノイド積のことは忘れて過去記事には書いてなかったことを話題にします。$`\newcommand{\cat}[1]{\mathcal{#1}}
\newcommand{\mrm}[1]{\mathrm{#1}}
\newcommand{\mbf}[1]{\mathbf{#1}}
%\newcommand{\msc}[1]{\mathscr{#1}}
%\newcommand{\msf}[1]{\mathsf{#1}}
\newcommand{\u}[1]{\underline{#1}}
\newcommand{\id}{\mathrm{id}}
%\newcommand{\op}{\mathrm{op}}
\newcommand{\In}{\text{ in }}
\newcommand{\hyp}{ \text{-} }
%\newcommand{\twoto}{\Rightarrow }
\newcommand{\Iff}{ \Leftrightarrow }
\newcommand{\Imp}{ \Rightarrow }
\newcommand{\O}{ \mathbb{O} }
\newcommand{\U}{ \mathbb{U} }
\newcommand{\ineq}{ \mathrel{\underline{\in}} }
`$

内容:

続きの記事:

設定と基本概念と注意事項

設定は過去記事「再帰的構成のために: 順序数の圏」と同じですが繰り返します。青い文字(このような)は、重要な概念・用語だが、この記事内では説明しないものを表します。

集合論としては、ZFC集合論のカジュアル版を想定します。ZFCの絶対的大宇宙は使わずに、大宇宙の一部を切り出した小宇宙、つまりグロタンディーク宇宙(「贅沢主義者のグロタンディーク宇宙」参照*1)を使います。

適当なグロタンディーク宇宙を選んで固定します。選んだグロタンディーク宇宙を目立つフォントで $`\U`$ と書くことにします。$`\U`$ は、デフォルトあるいはカレントの作業宇宙〈working universe〉となります。$`\U`$ をホストしている外側の宇宙($`\U \in \mathbb{U'}`$ 「曖昧性を減らす: Diag構成を事例として // 世界の構造」参照)の機能・構造も自由に使います。

$`x\subseteq \U`$ である集合 $`x`$ を、$`\U`$ に関して大きい集合〈large set〉と呼びます。$`x\in \U`$ である集合 $`x`$ は、$`\U`$ に関して小さい集合〈small set〉と呼びます。この定義だと、小さい集合は大きい集合です。日本語としては変ですが、定義からはそうなります。なぜなら、グロタンディーク宇宙の性質(推移性)から $`x\in\U \Imp x\subseteq \U`$ だからです。

「大きい集合」、「〈class〉」、「クラス〈class〉」は同義語です。小さくない大きい集合を真に大きい集合〈properly large set〉、または真の類〈真のクラス〉〈proper class〉と呼びます。

実際は小さい集合でも、ある時点では小さいかどうか分からないとき、とりあえず大きい集合と言っておけば無難です。とはいえ、用語運用/コミュニケーションの習慣としては、「大きい集合」を「真に大きい集合」の意味で使う場合がほとんどです。単に「集合」と言った場合、「小さい集合」「大きい集合」「真に大きい集合」のどれかは文脈から判断してください。

$`\U`$ に所属する順序数〈ordinal number〉(後述)達からなる大きい集合を $`\O`$ とします。定義から $`\O\subseteq \U`$ ですが、$`\O\in \U`$ ではありません。小さい集合が $`\O`$ の要素であるかどうかは、ZFC集合論の言葉だけで完全に定義できます。$`\O`$ の要素は集合なので*2、包含関係は意味を持ちます。$`(\O, \subseteq)`$ は大きな順序集合*3になります。

$`\U`$ を対象の集合とする集合圏〈category of sets〉を $`\mbf{Set}_\U`$ とします。$`\U`$ がデフォルトなので、いちいち下付き $`{_\U}`$ は付けないで単に $`\mbf{Set}`$ と書きます。大きな順序集合 $`(\O, \subseteq)`$ と集合圏 $`\mbf{Set}`$ との関係がこの記事のメイントピックです。

順序集合からは規準的〈canonical〉にやせた圏(次節参照)が作れるので、$`(\O, \subseteq)`$ からも(大きい)やせた圏が作れます。それを $`\mbf{Odnl}`$ とします。定義から、$`|\mbf{Odnl}| = \O`$ です。$`\mbf{Odnl}`$(あるいは $`(\O, \subseteq)`$)と $`\mbf{Set}`$ との中間的な存在として、整列集合(後述)達の圏 $`\mbf{WellOrd}`$ も使います。圏 $`\mbf{WellOrd}`$ は扱いやすい便利な圏です。

順序集合達、全順序集合達の圏と幾つかの部分関数達

順序集合〈ordered set〉達の圏を $`\mbf{Ord}`$ とします。圏 $`\mbf{Ord}`$ の対象は順序集合で、射は単調写像単調関数 | {monotone | monotonic | isotone} {map | function}〉です。単調写像とは、順序を保存する〈order-preserving〉写像です。

順序集合 $`A\in |\mbf{Ord}|`$ を次のように書きます。

$`\quad A = (\u{A}, \le_{A})`$

記号の乱用と省略はいつもの通りで、$`A = (A, \le)`$ と書くかも知れません。

全順序集合〈totally ordered set〉達の圏を $`\mbf{TotOrd}`$ とします。充満部分圏であることを '$`\subseteq_\mrm{full}`$' で表すことにすると:

$`\quad \mbf{TotOrd} \subseteq_\mrm{full} \mbf{Ord}`$

$`\mbf{Ord}`$ は、集合圏への忘却関手 $`U:\mbf{Ord}\to \mbf{Set} \In \mbf{CAT}`$ を持ちます。$`U(A) := \u{A}`$ です。この忘却関手は忠実関手です。$`\mbf{Ord}`$ の充満部分圏である $`\mbf{TotOrd}`$ も同様に忘却関手を持ちます。

順序集合 $`A`$ の“台集合の非空部分集合”に対して、以下の定義をします。$`\mrm{greatest}, \mrm{least}, \mrm{sup}, \mrm{inf}`$ は関数になるとは限らず、部分関数の定義をしています。以下の $`\mrm{Pow}_+(X)`$ は、空集合は取り除いたベキ集合だとします*4

$`\text{For }S\in \mrm{Pow}_+(\u{A}), \, x\in \u{A}\\
\quad x = \mrm{greatest}(S) :\Iff x\in S \land \forall y\in S.\, y\le x\\
\quad x = \mrm{least}(S) :\Iff x\in S \land \forall y\in S.\, x\le y\\
\quad x = \mrm{sup}(S) :\Iff \\
\qquad (\forall y\in S.\, y\le x) \land (
\forall z \in \u{A}.\,
(\forall y\in S.\, y\le z) \Imp x \le z
)\\
\quad x = \mrm{inf}(S) :\Iff \\
\qquad (\forall y\in S.\, x\le y) \land (
\forall z \in \u{A}.\,
(\forall y\in S.\, z\le y) \Imp z \le x
)
`$

$`\mrm{greatest}(S)`$ は $`S`$ の最大元〈greatest element〉、$`\mrm{least}(S)`$ は $`S`$ の最小元〈least element〉です。しばしば、$`\mrm{max}, \mrm{min}`$ と書きますが、$`\mrm{max}`$ が maximum〈最大〉か maximal〈極大〉か分からない気もする($`\mrm{min}`$ も同様)ので、(老婆心から) $`\mrm{greatest}, \mrm{least}`$ にします。

$`\mrm{sup}(S)`$ は $`S`$ の上限〈supremum〉、$`\mrm{inf}(S)`$ は $`S`$ の下限〈infimum〉です。最小上界〈least upper bound〉、最大下界〈greatest lower bound〉という言葉達(同義語達)のほうが、意味をちゃんと表しています。

$`\mrm{greatest}, \mrm{least}, \mrm{sup}, \mrm{inf}`$ は(一般的には)部分関数です(値が存在すれば一意的であることは別途確認が必要)。なので、集合圏の射ではなくて、集合達と部分関数達の圏 $`\mbf{Partial}`$ の射です。例えば:

$`\quad \mrm{greatest} : \mrm{Pow}_+(\u{A}) \to \u{A} \In \mbf{Partial}`$

集合圏のなかで考えたいなら、左脚が包含写像のスパンにするか、余域に未定義を表す値〈ボトム〉を追加します。

$`\quad \mrm{greatest} : \mrm{Pow}_+(\u{A}) \hookleftarrow \mrm{def}(\mrm{greatest}) \to \u{A} \In \mbf{Set}\\
\text{or}\\
\quad \mrm{greatest} : \mrm{Pow}_+(\u{A}) \to \u{A}\cup\{\bot_{\u{A}}\} \In \mbf{Set}
`$

これらの部分関数は、順序集合 $`A`$ ごとに決まるので、$`\mrm{greatest}_A`$ のように書くのが正確です*5。が、通常は下付き $`{_A}`$ は省略します。

順序集合の部分集合の極大元〈maximal element〉(今回は使いませんが)は、無いかも知れないしたくさん在るかも知れません。そんなときは、余域も(空集合を含む)ベキ集合にします。

$`\quad \mrm{maximal} : \mrm{Pow}_+(\u{A}) \to \mrm{Pow}(\u{A}) \In \mbf{Set}`$

整列集合達の圏

$`A`$ が全順序集合だとします。次の性質を持つとき、$`A`$ は整列順序集合〈wellordered set〉、あるいは整列集合といいます。

$`\quad \forall S\in \mrm{Pow}_+(\u{A}).\exists x\in \u{A}.\, x = \mrm{least}(S)
`$

つまり、次のような(部分関数ではなくて)関数が定義可能だということです。

$`\quad \mrm{least} : \mrm{Pow}_+(\u{A}) \to \u{A} \In \mbf{Set}`$

整列集合は全順序集合なので、整列集合だけを対象とする充満部分圏を作れます。それを $`\mbf{WellOrd}`$ とします。

$`\quad \mbf{WellOrd} \subseteq_\mrm{full} \mbf{TotOrd}`$

順序数は、ZFC集合論の言葉で定義される概念ですが、それを順序集合とみると、圏 $`\mbf{WellOrd}`$ の対象になります。順序数〈ordinal number〉 $`O`$ とは、次のような集合です。

  • 推移的である(推移性を持つ)。つまり、次が成立する。
    $`\forall x, y\in\U.\, (x\in O \land y\in x)\Imp y \in O`$
  • $`x, y\in O`$ に対して、$`x \le y :\Iff x = y \lor x\in y`$ として定義した順序集合 $`(O, \le)`$ は整列集合になる。

すべての順序数達の集合が $`\O \subseteq \U`$ です。順序数 $`O`$ に対して $`O \mapsto (O, \le)`$ という対応を考えると、$`\O`$ を $`|\mbf{WellOrd}|`$ に埋め込めます。あるいは、$`\O\subseteq |\mbf{WellOrd}|`$ と考えてしまってもかまいません。

なお、習慣により順序数(と呼ばれる集合)はギリシャ文字小文字 $`\alpha, \beta`$ などで表します。フォン・ノイマン〈John von Neumann〉の流儀で作られた自然数全体の集合は、順序数になります(そもそも順序数の定義がフォン・ノイマン流ですが)。順序数とみなした自然数全体の集合(最初の無限順序数)は $`\omega`$ と書きます。$`\omega`$ は固有名です*6。$`\omega`$ は圏 $`\mbf{Odnl}`$ 、圏 $`\mbf{WellOrd}`$ の対象です。

圏論からの準備

圏のなかの同型関係は記号 '$`\cong`$' で書きます。特に圏 $`\cat{C}`$ のなかの同型関係であることを明示したいなら '$`\cong_\cat{C}`$'と書きます。圏 $`\cat{C}`$ の対象達の集合を同型関係で割った商集合を次のように書きます。

$`\quad \mrm{IsoClass}(\cat{C}) := |\cat{C}|/{\cong_\cat{C}}`$

これは、圏 $`\cat{C}`$ の対象達の同型類〈isomorphism class〉達の集合です。

圏 $`\cat{C}`$ の同型射可逆射〉達だけを射とする部分圏を $`\mrm{Core}(\cat{C})`$ と書き、$`\cat{C}`$ のコア亜群core groupoid〉と呼びます。同型同値関係は、コア亜群内では、単に「射で繋がる」という関係です。

$`\text{For }X, Y \in |\cat{C}|\\
\quad X \cong Y \In \cat{C}\\
\Iff \exists f\in \mrm{Mor}(\mrm{Core}(\cat{C})).\, \mrm{dom}(f) = X \land \mrm{cod}(f) = Y
`$

圏の性質として「やせた〈thin〉」「骨格的〈skeletal〉」「骨皮〈gaunt〉」については「クランからC-システム // 特別な圏達」を参照してください。手短に書けば:

  • やせている: ホムセットが空集合か単元集合
  • 骨格的: 同型関係は等値〈イコール | 同一性〉関係
  • 骨皮: 同型射は恒等射に限る

骨格的圏のコア亜群は、各対象の自己同型群達の直和〈disjoint sum〉になります。骨皮圏のコア亜群は離散圏になります。コア亜群がやせている圏に特に名前は付いてませんが、この記事では重要です。コア亜群がやせていても、もとの圏がやせているとは言えません。もとの圏が骨格的とも骨皮だとも言えません。

[追記]
nLabの定義だと、骨皮圏の定義は:

  1. 骨格的圏である。
  2. コア亜群がやせている。

したがって、骨皮的だけでも骨皮にならないし、コア亜群がやせているだけでも骨皮になりません。骨格的かつコア亜群がやせているときに骨皮です。
[/追記]

圏 $`\cat{C}`$ の2つの対象 $`A, B`$ に対して、関係 '$`\preceq`$' を次のように定義します。

$`\quad A\preceq B :\Iff \exists m \in \cat{C}(A, B).\, m \text{ is monic}`$

また次の定義もします。

$`\quad A\prec B :\Iff A \preceq B \land A\not\cong B`$

関係 $`\preceq`$ と $`\prec`$ は、任意の圏 $`\cat{C}`$ の対象達の集合 $`|\cat{C}|`$ 上の関係として定義できます。特に集合圏 $`\mbf{Set}`$ では次が成立します。

$`\quad A \preceq B \land B \preceq A \Imp A \cong B`$

カントール/ベルンシュタインの定理です。

圏論からの準備、もうちょい

ここまでに、次のような圏が登場しています。

  1. $`\mbf{Set}`$ (集合圏〈集合達の圏〉)
  2. $`\mbf{Odnl}`$ (順序数達の圏)
  3. $`\mbf{Ord}`$ (順序集合達の圏)
  4. $`\mbf{TotOrd}`$ (全順序集合達の圏)
  5. $`\mbf{Partial}`$ (定義・説明はしてないが、集合達と部分関数達の圏)
  6. $`\mbf{WellOrd}`$ (整列集合達の圏)

これらの圏をすべて対象として含むような2-圏が $`\mbf{CAT}`$ です。$`\mbf{CAT}`$ は、“大きい圏、関手、自然変換”を“0-射、1-射、2-射”とするとても大きい2-圏です。

一方、$`\mbf{Cat}`$ は、“小さい圏、関手、自然変換”からなる圏です。$`\mbf{Cat}`$ の対象〈0-射〉は圏ですが、$`\mbf{Set}`$ のような大きい圏は $`\mbf{Cat}`$ の対象にはなれません。小さい圏は大きい圏であるので、次が成立します。

$`\quad \mbf{Cat}\subseteq_\mrm{full} \mbf{CAT} \In \mathbb{2CAT}`$

前節で定義した“小さいやせた圏”を対象として、関手/自然変換を1-射/2-射とする2-圏は $`\mbf{ThinCat}`$ とします。小さいという条件を外した場合は $`\mbf{ThinCAT}`$ です。小さいやせた圏は大きいやせた圏なので、次が成立します。

$`\quad \mbf{ThinCat}\subseteq_\mrm{full} \mbf{ThinCAT} \In \mathbb{2CAT}`$

プレ順序集合〈pre-ordered set〉達と単調写像達から形成される圏を $`\mbf{Preord}`$ とします。台集合が大きい集合でもよいとした場合は $`\mbf{PREORD}`$ です。

しばしば(僕も含めて)「プレ順序集合からやせた圏を作れるし、逆も同様」と言いますが、ここでは、プレ順序集合とやせた圏はまったく同じ概念だとみなします。つまり、次のような等式が成立していると考えます。

$`\quad \mbf{Preord} = \mbf{ThinCat} \\
\quad \mbf{PREORD} = \mbf{ThinCAT}
`$

やせて骨格的な圏はとてもやせた圏〈very thin category〉と呼ぶことにします。上と同様に考えて、次の等式(意味は容易に想像できるでしょう)は成立するとします。

$`\quad \mbf{Ord} = \mbf{VeryThinCat} \\
\quad \mbf{ORD} = \mbf{VeryThinCAT}
`$

こうすると、いちいち「プレ順序集合に対応するやせた圏」「やせた圏に対応するプレ順序集合」のような言い方をする必要がなくなって単純化されます。けっこう楽になるよ。

2つの圏の類似性〈similarity〉には、圏同型圏同値があります。2つの圏のあいだの圏同値関係は '$`\simeq_\mrm{equiv}`$' とします。同型が '$`\cong`$' 、同値が '$`\simeq`$' だと誤認のリスクがあるので、念の為下付き $`{_\mrm{equiv}}`$ を付けときます。次の定理は有名です。

圏 $`\cat{C}`$ の部分圏 $`\cat{S}`$ が骨格的で、包含関手 $`\cat{S}\hookrightarrow \cat{C}`$ が圏同値を与えるとき、$`\cat{S}`$ を $`\cat{C}`$ の骨格〈skeleton〉と呼びます。定義より $`\cat{S} \simeq_\mrm{equiv} \cat{C}`$ です。$`\cat{C}`$ のうまい骨格を取れると、骨格を使って議論を簡素化できることがあります。

整列集合達の圏の構造

ここから先は、たいていの集合論の教科書に書かれている内容を証明なしに列挙します。ただし、編成と記述はだいぶ圏論的です。

圏 $`\mbf{WellOrd}`$ の性質を調べていきます。まず、自己同型射〈automorphism〉が少ない、つうか最小であることが分かります。圏 $`\cat{C}`$ の対象 $`X`$ の自己同型群〈automorphism group〉を $`\mrm{Aut}_\cat{C}(X)`$ と書くことにして:

$`\quad \forall A\in |\mbf{WellOrd}|.\, \mrm{Aut}_\mbf{WellOrd}(A) = \{\id_A\}`$

つまり、圏 $`\mbf{WellOrd}`$ のどの対象にも自己同型射は恒等射しかありません*7。対象が(自明な自己同型射以外の)自己同型射を許さないということは、対象がまったく対称性を持たない硬い構造だということです。

実は、自己同型射だけじゃなくて同型射〈可逆射〉が非常に少ないです。上の結果の拡張として次が言えます。

  • コア亜群 $`\mrm{Core}(\mbf{WellOrd})`$ はやせている

つまり、$`A, B\in |\mbf{WellOrd}|`$ に対して、次のどちらかが成立します。

  1. $`\mrm{Core}(\mbf{WellOrd})(A, B) \cong \mbf{1}`$ (同型射が一本だけ存在する)
  2. $`\mrm{Core}(\mbf{WellOrd})(A, B) = \emptyset`$ (同型射が存在しない)

特に $`A = B`$ のときが、すぐ上の結果です。

$`A\in |\mbf{WellOrd}|`$ と $`a\in A`$ に対して、$`a`$ による始切片〈initial segment〉を次のように定義します。

$`\text{For }a \in \u{A}\\
\quad A_{\lt a} := \{x\in \u{A} \mid x \lt a\}
`$

不等号にイコールが付いてないことに注意してください。$`A`$ に最大元 $`a`$ があったとしても、$`A_{\lt a} \ne A`$ です。部分集合 $`A_{\lt a}`$ に、$`A`$ から誘導された順序を考えれば順序集合になり、さらに整列集合になるのが分かるので、$`A_{\lt a} \in |\mbf{WellOrd}|`$ と考えます。$`A_{\lt a}`$ は $`\u{A}`$ の要素でパラメトライズ〈インデックス〉された整列集合達の族になります。

任意の $`a\in \u{A}`$ に関して次が言えます。

$`\quad A_{\lt a} \not\cong A`$ (同型ではない)

有限全順集合では直感的に明らかな「部分は全体と同型にならない」が、(台が)無限集合であっても言えます。集合の上に整列順序という強い構造が載っているからです。順序構造を守る〈壊さない〉なら、$`A`$ への変形や細工がそれほど自由には出来ない(硬い)のです。

$`A, B\in |\mbf{WellOrd}|`$ が $`A \not\cong B`$ (同型ではない)だとします。そのとき、次のどちらかが成立します。

  1. $`\exists a\in \u{A}.(\, A_{\lt a} \cong B \In \mbf{WellOrd} \,)`$
  2. $`\exists b\in \u{B}.(\, B_{\lt b} \cong A \In \mbf{WellOrd} \,)`$

勝手に選んだ(ただし同型ではない)2つの対象に対して、常に大小比較が出来る、と言っていいでしょう。小さいほうの対象(整列集合)は、大きいほうの対象(整列集合)の始切片として埋め込めます。この埋め込みはモノ射なので、$`A, B`$ のあいだの関係は次のどれか(排他的な三択から)ひとつになります。

  1. $`A \cong B \In \mbf{WellOrd}`$
  2. $`A \prec B \In \mbf{WellOrd}`$
  3. $`B \prec A \In \mbf{WellOrd}`$

関係 $`\prec`$ の証拠となる始切片への埋め込みを(整列集合のあいだの)始切片埋め込み〈initial-segment embedding〉と呼ぶことにします。始切片埋め込みの定義から、同型射は始切片埋め込みになれません。始切片は“真の部分”であり、全体は“真の部分”とは同型になれないので。また、$`A`$ から $`B`$ への始切片埋め込みは(在るなら)一意的なのは分かります。

圏 $`\mbf{WellOrd}`$ の同型類達の集合 $`\mrm{IsoClass}(\mbf{WellOrd})`$ を考えます。$`|\mbf{WellOrd}|`$ 上の関係 $`\preceq`$ を、商集合への標準射影を使って商集合(同型類達の集合)に“落とせ”ます。次のように定義するだけです。ブラケットは同値類(標準射影の値)を表します。

$`\text{For } A, B\in |\mbf{WellOrd}|\\
\quad [A] \le [B] :\Iff (A \preceq B \In \mbf{WellOrd})
`$

この定義が大丈夫〈well-defined〉なのは、次の簡単な事実から保証されます。

  • $`A \preceq B \land A \cong A' \Imp A' \preceq B`$
  • $`A \preceq B \land B \cong B' \Imp A \preceq B'`$

こうして定義された $`\mrm{IsoClass}(\mbf{WellOrd})`$ 上の関係 $`\le`$ は順序関係で、次の3つのいずれかが(排他的に)成立します。

  1. $`[A] = [B]`$
  2. $`[A] \lt [B]`$
  3. $`[B] \lt [A]`$

全順序のこの性質を三分法〈trichotomy〉の法則とか三一律(三択の一つが成立)ということがあります。

$`(\mrm{IsoClass}(\mbf{WellOrd}), \le)`$ は(大きな)全順序集合になります。順序集合はそのままとてもやせた圏とみなす(と約束した)ので、
$`\quad (\mrm{IsoClass}(\mbf{WellOrd}), \le) \in |\mbf{VeryThinCAT}|`$
です。とてもやせた圏〈順序集合〉$`(\mrm{IsoClass}(\mbf{WellOrd}), \le)`$ を、記号の乱用で単に $`\mrm{IsoClass}(\mbf{WellOrd})`$ と書きます。

$`\quad \mrm{IsoClass}(\mbf{WellOrd}) \in |\mbf{VeryThinCAT}|`$

圏のダイエット

圏 $`\mbf{WellOrd}`$ は、圏 $`\mbf{Ord}`$ の充満部分圏として定義したので、ホムセットは太っています。例えば、整列集合 $`\{0\}`$ から整列集合 $`\{0, 1\}`$ への射は2つあります。太ったホムセットが邪魔になることもあるので、ホムセットを細くします。

圏 $`\mbf{WellOrd}`$ の射で、同型射(恒等射含む)と始切片埋め込みだけを残して、その他の射はすべて捨ててしまいます。そうしてできた圏(圏かどうかはただちには分かりませんが)を $`\mbf{WellOrd}^\mrm{Emb}`$ とします($`^\mrm{Emb}`$ は Embedding から)。

ホムセットは次のようになります。

  1. 任意の整列集合 $`A`$ に対して、$`\mbf{WellOrd}^\mrm{Emb}(A, A) = \{\id_A\}`$
  2. $`A \cong B`$ である2つの整列集合 $`A, B`$ に対して、$`\mbf{WellOrd}^\mrm{Emb}(A, B) = \{\mrm{iso}_{A, B}\}`$ 、$`\mrm{iso}_{A, B}`$ は唯一の同型射。
  3. $`A \not\cong B`$ である2つの整列集合 $`A, B`$ に対して、
    1. $`A \prec B`$ のとき、$`A`$ から $`B_{\lt b}`$ への始切片埋め込みを $`\mrm{emb}_{A, B}`$ として、$`\mbf{WellOrd}^\mrm{Emb}(A, B) = \{\mrm{emb}_{A, B}\}`$ 。
    2. $`B \prec A`$ のとき、$`B`$ から $`A_{\lt a}`$ への始切片埋め込みを $`\mrm{emb}_{B, A}`$ として、$`\mbf{WellOrd}^\mrm{Emb}(A, B) = \{\mrm{emb}_{A, B}\}`$ 。

場合分けして調べれば、$`\mbf{WellOrd}^\mrm{Emb}`$ が実際に圏になることが分かります。定義から、圏 $`\mbf{WellOrd}^\mrm{Emb}`$ はやせた圏です。しかし、とてもやせた圏だとは言えません。同一ではないが同型な整列集合ペアは在るからです。

すべてのホムセットをギリギリまでダイエットした 圏 $`\mbf{WellOrd}^\mrm{Emb}`$ は、順序の議論では扱いやすくなっています -- 余計な射が無いので。ダイエットしても、同型同値類達の集合は変わりません。

$`\quad \mrm{IsoClass}(\mbf{WellOrd}^\mrm{Emb}) = \mrm{IsoClass}(\mbf{WellOrd})`$

同型同値類達の集合は、コア亜群だけで決まります。ダイエットしてもコア亜群の情報は残るので、同型同値類へのダイエットの影響はありません。

同型同値類達の集合には順序 $`\le`$ が載ってました。順序集合はそのままやせた圏なので、$`(\mrm{IsoClass}(\mbf{WellOrd}), \le)`$ はやせた圏です。全順序だったのでとてもやせた圏です。またまた記号の乱用で、とてもやせた圏 $`(\mrm{IsoClass}(\mbf{WellOrd}), \le)`$ を単に $`\mrm{IsoClass}(\mbf{WellOrd})`$ と書きます。

商集合への標準射影は、圏 $`\mbf{WellOrd}^\mrm{Emb}`$ から $`\mrm{IsoClass}(\mbf{WellOrd})`$ への関手(順序集合としては単調写像)です。次のように書くことにします。

$`\quad \pi : \mbf{WellOrd}^\mrm{Emb} \to \mrm{IsoClass}(\mbf{WellOrd}) \In \mbf{CAT}`$

圏のダイエットは、集合圏にも適用できます。射を単射だけにした集合圏は $`\mbf{Set}^\mrm{Inj}`$ とします。射を包含写像だけにした集合圏は $`\mbf{Set}^\mrm{Inc}`$ とします。$`\mbf{Set}^\mrm{Inj}`$ はそれほど細くなってませんが、$`\mbf{Set}^\mrm{Inc}`$ はとてもやせた圏です。

順序数と整列集合

順序数は、「整列集合達の圏」の節で述べたような、特別な性質を持つ集合です。順序数達の大きな集合 $`\O`$ は、集合の包含関係 $`\subseteq`$ により全順序集合になることが知られています。全順序なので、$`\alpha, \beta\in \O`$ に対して次のいずれかが(排他的に)成立します。

  1. $`\alpha = \beta`$
  2. $`\alpha \subsetneq \beta`$
  3. $`\beta \subsetneq \alpha`$

集合論的な議論で次のことも分かります。

  1. $`\emptyset \in \O`$
  2. $`\alpha \in \O, X\in \alpha \Imp X\subseteq \alpha`$
  3. $`\alpha \in \O, X\in \alpha \Imp X\in \O`$ ($`\O`$ の推移性)
  4. $`\alpha, \beta \in \O, \beta\subsetneq \alpha \Imp \beta\in \alpha`$ (イコールではない順序関係〈包含関係〉は所属関係)

次は(一般的には)成立しないので注意してください。

  • $`\alpha \in \O, X\subseteq \alpha \Imp X\in \O`$

順序数達の世界では、$`\subseteq`$ と $`\in`$ が不思議な感じで絡まっています。順序数のあいだの足し算・掛け算・累乗などの算術ができますが、割愛します。「再帰的構成のために: 順序数の圏」で足し算(非対称モノイド積として)だけは触れています。

順序集合 $`(\O, \subseteq)`$ から(大きな)やせた圏 $`\mbf{Odnl}`$ が作れることは「設定と注意事項」の節で述べました。「圏論からの準備、もうちょい」で述べた同一視の約束により、
$`\quad (\O, \subseteq) = \mbf{Odnl}`$
です。

やせた圏〈順序集合〉 $`\mbf{Odnl}`$ を圏 $`\mbf{WellOrd}^\mrm{Emb}`$ に埋め込む関手は容易に定義可能です。埋め込み関手を
$`\quad J : \mbf{Odnl} \to \mbf{WellOrd}^\mrm{Emb} \In \mbf{CAT}`$
とします。以下の図式を可換にする関手 $`K`$($`J`$ と標準射影 $`\pi`$ の結合)が定義できます。

$`\quad \xymatrix@R+1pc{
{\mbf{Odnl}} \ar[rr]^J \ar[dr]_K
&{}
&{\mbf{WellOrd}^\mrm{Emb}} \ar[dl]^\pi
\\
{}
&{\mrm{IsoClass}(\mbf{WellOrd})}
&{}
}\\
\quad \text{commutative }\In \mbf{CAT}
`$

重要なことは、関手 $`K`$ は可逆なことです。つまり、ひとつの整列集合達の同型類に、順序数がちょうどひとつだけ入っているのです。順序数を、整列集合達の同型類の代表元として使えます。さらに、$`K`$ が可逆な関手であることから、$`\mrm{Odnl}`$ の全順序構造(圏の構造としてエンコードされている)と $`\mrm{IsoClass}(\mbf{WellOrd})`$ の全順序構造(圏の構造)のあいだの同型を与えます。

$`\quad \mbf{Odnl} \cong \mrm{IsoClass}(\mbf{WellOrd}) \text{ by }K, K^{-1} \In \mbf{CAT}`$

また、埋め込み関手 $`J`$ は本質的に全射的で充満忠実なので、圏同値を与えます。まとめると:

  1. $`\mbf{Odnl} \cong \mrm{IsoClass}(\mbf{WellOrd})`$ (圏同型)
  2. $`\mbf{Odnl} \simeq_\mrm{equiv} \mbf{WellOrd}^\mrm{Emb}`$ (圏同値)

整列集合と集合

整列集合達の圏 $`\mbf{WellOrd}`$ (ダイエットはしてもしなくてもよい)と集合圏 $`\mbf{Set}`$ を比較します。忘却関手を $`U:\mbf{WellOrd} \to \mbf{Set}`$ とします。忘却関手は、整列集合にその台集合を対応させます。射のことは気にしないで、忘却関手が本質的に全射的かどうかを考えましょう。本質的に全射的かどうかは、関手の射パートだけで決まる性質です。

結果だけいうと、忘却関手 $`U`$ は本質的に全射的です。それは、ツェルメロの整列可能定理〈Zermelo’s well-ordering theorem〉から言えます。任意の集合 $`S\in |\mbf{Set}|`$ を取ったとき、$`U(A) \cong S \In \mbf{Set}`$ となる $`A\in |\mbf{WellOrd}|`$ が存在します。より強く $`U(A) = S \In \mbf{Set}`$ となる $`A`$ が取れるので、実は「本質的に」というより「ほんとに」全射的です。

$`J : \mbf{Odnl} \to \mbf{WellOrd}`$ は本質的に全射的だったし、本質的に全射的関手の結合は本質的に全射的になるので、$`J*U : \mbf{Odnl} \to \mbf{Set}`$ も本質的に全射的です。これにより、集合圏の同型同値類の代表元に順序数を取れます。が、順序数よりは基数〈cardinal number〉を代表元にするほうが自然ではあります。今日は基数の話はしません。

後記: 反省・雑感

集合 $`S`$ 上の順序関係 $`\le`$ に対して、次のように定義した $`\lt`$ を厳密順序関係〈strict order relation〉というようです。

$`\text{For }x, y\in S\\
\quad x \lt y := x \le y \land x \ne y
`$

定義より、$`x \lt x`$ は成立しません($`x \not\lt x`$ が成立する)。推移律は成立します。$`x \not\lt x`$ と推移律で厳密順序関係を公理化できます。

順序数 $`\alpha`$ を、関係 $`\in`$ が載った集合とみなすと、関係 $`\in`$ は $`\alpha`$ 上の厳密順序です。イコールを足せばもちろん順序になりますが、厳密順序として扱ったほうがちょっと楽かも? という気もしました。

そもそも、$`\in, \subseteq, \le`$ という記号達の用法がアンバランスなのが良くないかも知れません。次のように定義される関係 $`\ineq`$ を使うとスッキリしたでしょう。

$`\quad x \ineq y :\Iff x \in y \lor x = y`$

あと、大きい集合 $`\O`$ の始切片 $`\O_{\lt \alpha}`$ を活用すべきだったですね。$`\alpha = \O_{\lt \alpha}`$ という単純な関係があるので、これを使うと単純化できたかなー、っと。

*1:他に、導入として「グロタンディーク宇宙って何なんだ?」、型理論との関係は「ZF宇宙、グロタンディーク宇宙、型宇宙」参照。

*2:ZFC集合論では、集合以外のモノは無いので、「集合なので」はあらずもがなです。

*3:順序の反対称律は、集合の外延性(集合のイコールの定義)から出ます。

*4:空集合を入れると例外処理が鬱陶しいので取り除いておきます。

*5:$`\mrm{greatest}`$ は、順序集合でインデックス付けられた部分関数の族です。

*6:再帰的構成のために: 順序数の圏」では、固有名であることを強調するために太字にしています。

*7:自己同型射が恒等射しかない圏を僕は個人的に貧乏な圏〈poor category〉と呼んでます。積極的に広めたい言葉ではありませんけどね。やせていれば貧乏です。骨皮なら貧乏ですが、骨格的でも貧乏とは限りません。骨格的と貧乏は別に関係ないのです。