「「わたしはウソをつきません」と言い張る命題やプログラムを書けるのか?」に概略を書いたような枠組み、そのアイディアはゲーデルによるものです。ゲーデル以前にも同じようなことを考えた人はいたかもしれませんが、明白に確実に自己言及の構造を把握して意識的に使用したのはやはりゲーデルが最初なんじゃないでしょうか。
その構想力は凄いですが、もうひとつ「ホエーッ」と舌を巻いてしまうのは、抽象的な自己言及の枠組みを具体的に構成してしまう腕力です。「「わたしはウソをつきません」と言い張る命題やプログラムを書けるのか?」で使った記号を使って言えば、「LL=プリンキピア・マテマティカの体系、D=自然数の領域、PL=算術」という具体的な状況で、証明可能性の定義をゴリゴリと書き下してしまったのがまた凄い、と思うのです。
具体的に書き下したモノがないならば、素晴らしいアイディアでも説得力に欠けるでしょう。ゲーデルの論文はプログラミング言語・算術の“ソースコード+解説”付きだったので大きなインパクトを持ったと言えます。ゲーデルは、プログラミング言語・算術のプログラマとしてのスキルとパワーも凄かった、ということですね。