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参照用 記事

関係圏と超コンパクト論理

カリー/ハワード対応を通して(標準的な)型付きラムダ計算と対応する論理は、連言(∧)と含意(⊃)を持つ論理です。これら2つの体系に共通することは、デカルト閉圏をモデルに持つことです。デカルト閉圏が繋ぎになって、2つの形式体系が結ばれていると言ってもよいでしょう。

デカルト閉圏の代わりにコンパクト閉圏を取ると、対応する論理体系は連言と否定(¬)を持つ論理です。ただし、連言(∧)と選言(∨)は一致してしまい、そのせいで否定も古典論理の否定とは違った振る舞いをします。含意は選言(=連言)と否定を使って、(A⊃B) := (¬A∨B) と定義します。

連言と選言が一致してしまった論理演算(論理結合子)を×と書いて、×、¬ を持つ(そしてコンパクト閉圏がモデルになる)論理をコンパクト論理と呼ぶことがあります。

さらに、自己双対コンパクト閉圏をモデルにするような論理を考えると、否定もなくなってしまいます。正確に言うと、¬A = A なので、否定は無意味・不要なのです。(A⊃B) := (¬A∨B) = (¬A×B) = (A×B) なので、含意と連言(=選言)も一致してしまいます。論理演算の数はコンパクト論理よりさらに減って、×だけです。×だけの論理を超コンパクト論理*1と呼ぶことにします。

モデルとなる圏 連言 選言 否定 含意
デカルト閉圏 なし なし
コンパクト閉圏 × × ¬ ¬(-)×(-)
自己双対コンパクト閉圏 × × なし ×

関係圏Relは自己双対コンパクト閉圏なので、対応する論理計算は超コンパクト論理のシーケント計算ということになります。論理演算が1個だけの論理なんて面白く無いと思うかもしれませんが、そうでもないです。それなりに考えるべきことはあります。論理演算が1個でも、シーケント計算には高次多圏を用いることになります。

自己双対コンパクト閉圏の例はRelしかないかと言うと、そうでもなくて、Rel類似のスパンの圏も自己双対コンパクト閉圏のようです。有限次元ヒルベルト空間(内積ベクトル空間)の圏も自己双対コンパクト閉圏です。余談ですが、「スパンの圏」という呼び名はどうも分かりにくいので「対応(correspondence)の圏」にしようと思っています。スパンは単なる射の図形で、対応はスパンの同値類と区別すれば分かりやすくなると思います。

*1:無闇と「超」なんて形容詞を付けるのはどうかな?という気もします。これ以上小さくできないので最小論理なんですが、「最小論理」という言葉は既に使われています。究極論理じゃカッコよ過ぎて誤解されそうだし。「超」を使わないなら、原始論理とか退化論理とか、かな。