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参照用 記事

高次圏: 複雑さの3つ目の方向と相対階数

高次圏に関してダラダラ書くシリーズ。

前回「高次圏: 複雑さの2つの方向と半厳密性」において、高次圏は、高次化と弱化の2つの方向で難しくなると書きました。もうひとつの難しさの方向として、階数が上がる方向について考えてみます。

内容:

所属関係

Aが集合であるとき、Aは集合圏Setの対象ですから、A∈|Set| と書けます。ここで使っている記号'∈'は、集合論的な普通の所属関係です。ただし、|Set|は通常の意味の集合ではないので、大きな集合(類ともいう)まで考えての所属関係です。

一般に、Cが圏のとき、A∈|C| であることを、A∈0C と書くことにします。'∈0'は、「対象(0-射)として所属する」ことを意味します。A∈0C を単に A∈C と書くことが多いですが、Cには対象(0-射)以外に射(1-射)も含まれます(高次圏なら高次の射もあります)。なので、'∈'と'∈0'は別な記号のほうがいいでしょう。

集合圏Setは圏ですが、Set0Cat とはなりません。Catは“小さい圏の圏”と定義されているので、大きな圏であるSetを含むことはできません。大きくてもよい(しかし局所小な)圏の圏をCATとすれば、Set0CAT は成立すると考えられます。

集合A、集合圏Set、局所小な圏の圏CAT三者のあいだには次のような所属関係が成立します。

  • A ∈0 Set0 CAT

このように、所属関係でつながれた並びを所属関係の系列〈{series | sequence | chain} of membership relations〉と呼ぶことにします。

相対階数

A0, A1, ..., Ap をn-圏とします。次元nはそれぞれ異なっていいとします。これらのn-圏(さまざまなn)が所属関係の系列を作っているとします。

  • A00 A10 ... ∈0 Ap

この状況で、相対階数〈relative rank〉を次のように定めます。

  1. A0, A1, ..., Ap のなかのどれか1つのAj(0≦ j ≦p)を選んで、Ajの相対階数を0とする。
  2. Ai(0≦ i ≦p)の相対階数は i - j により定義する。

例えば、所属関係の系列 A ∈0 Set0 CAT において、Setの相対階数を0と決めると、次のような相対階数の割り当てになります。

n-圏 A Set CAT
相対階数 -1 0 1

相対階数は、基準の決め方で変わるので、次のような割り当てもあります。

n-圏 A Set CAT
相対階数 その1 -1 0 1
相対階数 その2 0 1 2
相対階数 その3 -2 -1 0

あくまで相対的なのです。相対階数は系列のなかで決まるだけで、一般的に決まるわけではありません。

相対階数と次元

所属関係の系列 A ∈0 Set0 CAT を考えます。集合Aを基準とした相対階数と、n-圏としての次元(n)は次のようになります。

n-圏 A Set CAT
相対階数 0 1 2
次元n 0 1 2

この例を見ると、相対階数が上がると次元も上がるように思えますが、そうとは限りません。

CAT(1)を2-圏であるCATから2-射を除外して1-圏と考えたものだとします。A ∈0 Set0 CAT(1) は所属関係の系列になります。この系列内では:

n-圏 A Set CAT(1)
相対階数 0 1 2
次元n 0 1 1

別な例を挙げます。Kを小さい2-圏とします。2-Cat(1)を、小さい2-圏の3次元圏から3-射と2-射を除外した1-圏とします。CAT(0)は、CATから2-射と1-射を除外した0-圏(単なる集合)と考えたものだとします。このとき、K0 2-Cat(1)0 CAT(0) は所属関係の系列になります。この系列内では:

n-圏 K 2-Cat(1) CAT(0)
相対階数 0 1 2
次元n 2 1 0

相対階数の上昇と次元の上昇は関係ありません。所属関係において親となるほうのn-圏の次元が同じだったり、むしろ次元が下がる場合もあります。

系列の作り方により次元はどうにでもなるので、相対階数と次元のあいだに法則的な関連性はありません。

相対階数が増える方向

所属関係の系列において相対階数を考えると、相対階数が上がっても次元が上がるとは限りません。しかし、次元がどうであれ、相対階数が上がれば話は難しくなります。

n-圏Cがあるとき、Cが所属するようなk-圏を作るのは簡単です。例えば、対象としてCだけを持ち、射としてCの同型関手だけを持つ1-圏が作れます。話が難しくなるのは、Cだけではなく、Cと同類のその他もろもろのn-圏をすべて含むような上位のk-圏を作ることです。

なんらかの性質をもつn-圏をすべて含むk-圏Dを作れば、C0 D という所属関係が成立します。そして、Dは十分に大きなk-圏となります。十分に大きな圏Dは便利ですが、D0 E となるような十分に大きな圏Eを作るのが困難になります。D自体が大きいので、それを収容するEが作りにくいのです。

一般に、十分大きな圏からなる所属関係の系列を伸ばすのは難しいのです。サイズの問題〈size {issue | problem}〉が現れるからです。

圏論的宇宙は、次のような所属関係の系列であるのが望ましいと思われます。

  • 0-Cat0 1-Cat0 2-Cat0 ...

しかし、普通の定義ではこのような系列を作ることは出来ません。解決のための正攻法があるのか、トリックを使うのか? それとも、そもそもこういう問題設定が間違いなのか? どうすべきかは分かりませんが、相対階数が増える方向が事態を困難にする方向であるのは確かです。