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参照用 記事

絵算で見る「カザネスク/ステファネスク/ハイランド/長谷川の定理」

必要があって、今日の午前中スターバックスで絵算。長谷川真人(はせがわ・まさひと)さん等による定理を確認しただけですが、なんか疲れましたねー。

なんに必要か?とか背景とかは全部割愛。スンマセン。以下に予備知識あるいは関連するエントリー。

トレース、ダガー、スター

C = (C, +, 0, σ) を対称モノイド圏として、対称なモノイド積+(足し算の形に書きました)に関してトレースTrもあるとします。つまり、(C, +, 0, σ, Tr) がトレース付き対称モノイド圏です*1

f:A+X→B+X に対して、Tr(f) = TrA,BX(f) :A→B となります。トレースについて今は説明しませんが、次のような公理で特徴付けられます。

  1. バニッシング(アクション性)
  2. タイトニング(自然性)
  3. スライディング
  4. スーパーポージング*2(強度性*3
  5. ヤンキング

fのトレースTr(f)を、f とも書くことにします。

さらに、圏Cには余対角∇があるとします。この状況で、f:X→A+X のエルゴット(Calvin C. Elgot)のダガー f:X→A は次のように定義されます。

  • f := [∇;f]

[追記]以下で「クリーネスター」と書いているところは、スターじゃなくてプラス、つまり1回以上の繰り返しでした。*を+に直すとダガー†と区別が付きにくいので、*>0 と訂正することにします。また、クリーネプラスって用語も一般的じゃないので、クリーネスター(1回以上)としておきます。絵の方はそのままです。[/追記]

Cに対角Δもあると、f:A→A のクリーネスター(1回以上) f*>0:A→A も定義できます。

  • f*>0 := [f;Δ] = [∇;(f;Δ)]

トレース()からエルゴットダガー)、エルゴットダガーからクリーネスター(1回以上)(*>0)が定義できます。これは逆も成立します。

  1. 単位iと余対角∇を持つ対称モノイド圏では、トレースとエルゴットダガーは1:1に対応する。
  2. 上の条件に加えて、余単位!と対角Δを持つ対称モノイド圏では、エルゴットダガーとクリーネスター(1回以上)は1:1に対応する。

単位iと余対角∇を持つ対称モノイド圏とは余デカルト圏のことで、余単位!と対角Δを持つ対称モノイド圏とはデカルト圏のことです。単位、余対角、余単位、対角を全部備えていて、さらに若干の条件を満たす圏は双デカルト圏で、すべての対象が双モノイド(双代数)構造を持ちます。これらの概念・用語を使えば、上の命題は次のように言い換えられます。

  1. デカルト圏では、トレースとエルゴットダガーは1:1に対応する。
  2. デカルト圏では、エルゴットダガーとクリーネスター(1回以上)は1:1に対応する。

デカルト圏の双対はデカルト圏で、エルゴットダガーの双対はコンウェイダガーとも呼ばれる不動点演算子です。トレースは自己双対的な概念なので、トレースの双対はトレースです。よって次が成立します。

このような事実は、1980年代末にカザネスク/ステファネスク(Cazanescu, Stefanescu)により認識されていました。ハイランド(Hyland)も同じことを述べているようです。一般的かつ完全な記述は、長谷川真人(はせがわ・まさひと)さんにより与えられました。

絵算

f := [∇;f] と f*>0 := [f;Δ] に対して、逆向きの公式を絵で与えます。

  1. 定義:f := [∇;f]
  2. 逆向き:f := (A+iX);[(f+iA);(B+σX,A)]
  3. 定義:f*>0 := [f;Δ]
  4. 逆向き: f := (iA+X);[(!A+X);f]*>0;(A+!X)

赤い斜線は打ち消し線で、打ち消された部分はナカッタコトにされます。ほんとに消してしまうと、自明な絵になります。

定義:f := [∇;f]

逆向き:f := (A+iX);[(f+iA);(B+σX,A)]

定義:f*>0 := [f;Δ]

逆向き: f := (iA+X);[(!A+X);f]*>0;(A+!X)

*1:比較的最近の用語法では、形容詞を連ねるのはやめて、トレース付き圏(traced category)のように簡略に呼ぶようです。

*2:スーパーポージングは歴史的な用語法で、いまでは相応しい呼び名ではありません。

*3:テンソル強度とみなせる、ということです。